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オリジナル短編小説 【ポピーの物語〜花屋elfeeLPiaシリーズ29〜】

作:羽柴花蓮(旧 吉野亜由美)
ココナラ:https://coconala.com/users/3192051

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 ここに一軒の花屋がある。花屋elfeeLPiaである。今年も早春がやってきた。この頃になると出回る切り花はポピーだ。ポピーは花屋に入荷するときはつぼみである。どんな色の花が咲くかは飾って花開いてからのお話である。そんなポピーの花言葉は「いたわり」、「おもいやり」、「恋の予感」「陽気で優しい」、である。全般の意味はそうだが色別では「眠り」、「忘却」であったりする。これはポピーの薬効から来たものである。現在、日本で出回っているのはアイスランドポピーで麻薬能力はない。
 向日葵はそんなポピーの解説を読んでふーん、と納得していた。麻薬は未知の世界だ。花言葉は知っていたが、ポピーから麻薬が作れると知ったのはつい最近である。そこで調べていたのだ。現在、向日葵は客との鬼ごっこから逃走中である。そんな向日葵とポピーの精を肩に乗せた客と目が合った。知らない振り、をしたかったが、花の妖精と花言葉の橋渡しをする役目は向日葵である。そろり、と客に近づく。そして、そっと言う。
「ポピーをお探しですか?」
 え、と客は身じろぎして向日葵を見る。
「あなたが向日葵ちゃん?」
「どうしてその名前が・・・」
 驚くのは今度は向日葵の方である。
「有名よ。このあたりでは。幸せになれる花屋の女の子って噂流れているわよ。流石に名字は知らないけど。どう見てもあなた中学生よね?」
「ええ。そうですけど・・・」
「どうやって幸せにするの?」
「それは守秘義務と言うことで言えないんです。とりあえず、ポピーの生花をお探ししますね。最近、一層植物が増えてジャングルだから」
 迷わず、歩く向日葵だが、探し回っている客からはそれとなく逃げている。女性客、蒼生はすごい子ね、と思いながらついて行く。
「こちらです」
 案内されたところにあったのはまだ何も開いていないつぼみだけの花だった。
「これが・・・ポピー?」
「はい。持って帰ってから咲くんです。開花時期は短くて四、五日で散ってしまいます。花粉も落ちるので、大事なものの上に置かないで下さいね。どれにします?」
「オレンジのポピーの花言葉見てきたんだけど、解らないじゃ・・・」
「これ、ポピー?」
「あ。矢代さん。こんにちは。これだけ常連なのに知らなかったんですか?」
 ああ、と矢代は答える。
「ポピーって芥子の花だろ? 麻薬になるから近づかなかったんだ」
「ま・・・麻薬?!」
 蒼生がおびえる。
「大丈夫です。流通しているのはアイスランドポピーといって麻薬性はないんです。安心して楽しめますよ。どんな花が咲くかは運次第、ですね。お二方とも持って帰って咲いた花の色競争しませんか?」
「競争?」
 蒼生が聞く。
「お二人で、どっちかにオレンジのポピーが咲いたらお付き合い、ということで」
 もちろん、向日葵には矢代の肩にもオレンジのポピーの精が肩にいるのを知っている。
「これがひまちゃんの縁結びか~。なるほどねぇ」
「矢代さん! 感心してる場合じゃないです。はやくお姉さんとSNSの交換を。ひまは逃げま~す」
 ささっと消えた向日葵の後を数人が追いかける。
「大変だねぇ。ひまちゃんも」
「よく知ってるんですか?」
「ひまちゃんのこと? ああ、店を遊び場にしていたからね。小学校の頃からここにいるよ。私はしっかりとした頃のひまちゃんしか知らないけどね。大変だったらしい」
 優しげな目で向日葵の消えた後を見守る視線に蒼生は何故か惹かれた。
「あの。SNS交換お願いできますか? オレンジのポピーが咲いたら画像ください。お守りにするので」
「それでオレンジのポピ-が欲しかったんだね。どういう花言葉なんだい?」
「それは秘密です。私のポピーが咲いたら教えますから。調べないでくださいね」
「そこまで言われたらしかたない。店長に聞こうと思ってたけど。ひまちゃんは絶対に言わないからね。あの雰囲気では。私達をくっつけたがってるから」
「そうなんですか?」
 きょとん、とした顔が可愛らしい、と思う矢代である。
「ひまちゃんは店長よりも不思議な事がわかるらしいんだ。だから今はもう有名人で追いかけ回されてるんだ。将来が怖いね」
「でも、いい子だわ」
「それはいえるね。じゃ、おみくじ感覚で花を選ぼうか」
「そうね」
 どうかオレンジのポピーでありますように、と願いを込めて蒼生はポピーの花を三本抜いた。普通は店員がするのだが、繁盛しすぎて店長の一樹は手一杯で、向日葵は隠れ場所を探している。手間を取らすのも、と、二人は適当にとって会計に持って行ったのだった。

 あれから数日。ポピーはなかなか咲かなかった。調べるとつぼみはほぼ咲くらしく、待っていればいいらしかった。矢代からの咲いたという連絡はない。ただ、何回か自己紹介まがいのやりとりはした。いつしか共同体のような不思議な感覚で矢代のSNSを待っている自分がいた。

 これが、恋の予感? まさかね。

 矢代の優しい眼差しは好きだが、好みは違う。もっと力強い男性が好きだ。矢代はそれにしては華奢な感じだった。花が好きそうな。
「もうちょっと筋肉があればなー」
 一人で言う分には問題ない。蒼生は理想を求めて空想に浸りながらポピーの花瓶を見つめていた。

 一方、矢代は懸案のポピーを見て思案していた。これがオレンジのポピーとしてもそれで付き合って、結婚になるのか? 向日葵の縁組みの力のすごさは知っている。しかし、そのお鉢が回ってくるとは思わなかった。華麗なる独身貴族を謳歌していた矢代は結婚する事も恋をすることも想像外だった。
「結婚ねぇ」
 恋をすれば必ずその相手と結婚しなければならないと言う法律でもないのに矢代は「オレンジのポピー」イコール「結婚」になっていた。花言葉はあくまでも「恋の予感」で、決して結婚を無理強いするものではないのだが、矢代は思い込んでしまっていた。

 そんな日々を送っていてふと花瓶を見るとオレンジのポピーが花咲いていた。日持ちは悪いから咲いたら即撮って送ることになっていた。矢代はうめいたが、お守りにしたいと言った蒼生をむげにすることも出来ず、画像を撮ってSNSに送った。と、同時に蒼生からも画像が送られてきた。オレンジのポピーだ。どういうことなんだ? 矢代の頭にハテナが飛び交う。向日葵が夜な夜なやってきて変な魔法でもかけたのかと思う。
 一方、蒼生も動揺していた。お守りにとは思っていたが、自分の方にも咲くとは思ってもみなかった。てっきり白やら黄色と思っていた。運はいい方ではないのでこんなにラッキーな事が起こるとは思わなかった。だが、二人ともオレンジである。もう画像いりませんとはいえない。でも自分のポピーを待ち受け画面にしたい。お付き合いなんて出来る人間ではない。蒼生はあっという間に萎縮し、悩みあぐねた。そうこうしているうちに出勤時間が近づき、考える間もなく仕事に向かった。
 昼休み、蒼生は社食でぼーっとしていた。

 お付き合いってどうするの?

 同僚に聞きたくなったが今更聞けぬ年齢である。そもそも向日葵の言葉から始まった。もとい、自分からポピーの花を探していたことを棚に置いて。

 ひまちゃんに教えてもらおう!!

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