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オリジナル短編小説 【清めの水を得る旅人たち 〜小さな旅人シリーズ20〜】

作:羽柴花蓮
ホームページ:https://canon-sora.blue/story/

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「マギー!!」
 亜理愛が万里有とマーガレットとのシェアルームに突っ込んできた。
「どうしたの? アリー」
 あの事件の話の後、ただ普通に生活する時間が流れていた。それぞれ違う事をしながら過ごしていた。そこに亜理愛が飛び込んできたのだ。
「見つかった! 見つかったのよ!」
「だから、何が見つかったの?」
 万里有が聞き返す。
「リックの命の源になる清めの水の作り方。この間、一冊だけ違う装丁の本があったの。大河と一緒に読み進めていて、清めの水というキーワードを見つけたの。この屋敷内にある聖なる水に私達の愛を詰め込めばできるのよ!!」
「この屋敷内に水が湧き出ていって言うの? マギー知ってる?」
 万里有が聞き返す。
「その本、どこで見つけたの?」
「屋根裏部屋。いろんな本が置いてあるんだけど、これだけすごく年代が新しいの」
「ちょっと見せてもらっていい?」
 マーガレットが本を借りる。
「おばあさまの字だわ。おばあさまもリックの命を戻す方法を探してたんだわ」
「じゃ、この敷地捜索ね。真夏でなくて良かったわ」
 万里有が納得して言う。
「マギー、この敷地の地図はある?」
「それも屋根裏部屋にあるはずよ」
 じゃーん、と亜理愛が紙を見せる。
「古代語で書いてあるみたいだけど、紙は新しいわ。この本の筆跡とも一致するの」
「亜理愛、どこでそんな才能を身につけたの? 私達、経済学部でしょ?」
「趣味」
 さいですか、とぞんざいに言いたいのを我慢して万里有は言う。
「そう。とりあえず。全員で捜索するわよ。涼しい早朝からするから、夕食の席でみんなに伝えましょう」
「えー。今じゃないのー?」
「一番頼りになる男三兄弟と有能な秘書が出勤中でしょ」
「そうだった。マギーよかったわね」
 軽くマーガレットを亜理愛は抱きしめる。
「アリー、ありがとう」
「大丈夫。リックもこの屋敷にいられるようになるわ」
 ぽんぽんとマーガレットの背中を叩いて亜理愛は去って行く。鼻歌を歌って去って行く姿はたくましい。
「あの古文書好きが役立つなんて・・・」
「あなたがここに来なかったらこんな日は来なかったわ」
「引き合っているのよ。私達。それにみんな幸せになった。これからだって幸せに暮らせるのよ」
「まだ、信じられないわ。今、リーディングして出たカードも『Cleansing waters』」、『清めの水』、だったの。カードのメッセージは、「浄化によって生命力が活性化」。旅人は浄化と再生の水辺をさがすって。このことだったのね」
まさに今の亜理愛の水を指している。
 ほっとした表情のマーガレットを万里有は抱きしめる。
「これからが大変よ」
「ほんと夏でなくて良かったわ」
「マギーったら」
 親友同士は親睦を深め合っていた。
 夕食時、生き生きとした亜理愛の話が終わるといつ捜索するのかという話になった。全員一致で明日からとなった。指揮系統は双子兄となり、征希は万里有と一緒に探す足になったのであった。三兄弟でも長男、次男は強かった。さすが財閥でもまれてきただけはある。征希はその後ろに隠れてなにもしてこなかった代償である。もっとも万里有と一緒というので不満という不満は出なかった。
「もうちょっとしゃっきりとした男ぶりを見せてよ」
 夜のテラス席でお茶デートしている征希と万里有である。
「って、俺、へたれだもん」
「それを直すために渡米するんでしょ。今からそれだと先が思いやられるわ」
「わかってるさ。ただ、兄貴や武藤の方が有能だ。それは解ってるから。帰国したらいい男になってるから待ってろ」
「うん」
 そう言って万里有は隣に座っている征希の手を握ったのであった。

 数日かけて敷地内を捜索していた。そしてこんこんと清水が湧き出ているのを名誉挽回した征希と万里有が見つけた。
「あったー!」
 万里有が叫ぶ。違う所を捜索していたメンバーの頭にきーん、と響いてくる。
「今の万里有か?」
 大樹が一姫を見る。
「みたいね。頭に直接言えるなんてどういう能力を持ってるの? 万里有は」
「さぁ。とりあえず、地図まで送信してくれたようだ」
 スマホがちかちか光っている。
「行きましょう」
 全員が集るなり言ったのは万里有の、頭に直接叫ぶな、であった。
「あ。ごめん。リーディングの練習する度に力増したようで」
「まぁいい。これか。清水というのは」
「他にもあったの?」
 万里有達以外は首を振る。
「じゃ、これをどうしたらいいの? 亜理愛」
「作り方は本に載ってるからその通りにすればいいのよ」
「だから水、どれぐらい必要なの? 採取する量があるでしょうに」
「あ。見てなかった」
 亜理愛と大河以外は転けそうになる。
「ありあ~」
 万里有が恨めしそうに見る。
「大丈夫だ、レシピを書き留めておいた」
 大河がスマホを取り出して確認する。メモ帳に書いたようだ。こんな非科学的なことを科学の産物にメモる精神がわからない。そんなに量はいらないようだ。一人の人間用だからだろか。採取してマーガレットに渡す。
「責任者はマギーよ。恋人目覚めさせるんだから」
「そうね。ありがとう。マリー」
「どういたしまして。って征希、水で遊ぶのやめなさい」
 勝手に水遊びをしていた夫の腕をつねる。
「痛い。マリー」
「帰るわよ。おこちゃま夫」
「ひどいなー。これでも大人な部分は抑えてるんだからな」
「むっつりスケベ」
「まりあー」
 二人で追いかけっこを始める。もう、みんなはあきれかえって何も言えない。
「あの二人、本当に結婚したの?」
「本当ではないから、ああなるんだろう」
 大樹の的確な分析に耳まで赤くなる一姫である。
「おや。一姫も・・・」
 万里有同様、一姫も最後まで言わせない、と手の皮をつねる。
「言わないで」
「わ、わかった」
 妻には弱い夫である。

 新月の夜、大切に保管しておいた水をもってマーガレットは祖母の部屋の一部に皆を連れて行った。そこはフラスコやビーカーが置いてあった。
「錬金術・・・か?」
 さすがは古文書マニアの片割れである。そういう情報も持っていた。
「そうよ。ここでつくるわ。レシピを教えて」
 何段階もある手順を間違いなくこなしていくマーガレットである。どれくらい時間がたったのか、マーガレットのできた、という言葉に我に返ったメンバーである。征希は立ったまま寝ていた。足を踏んづけられる。
「で。最終工程はそれぞれがするのね」
事前に結愛も武藤ともに参加していた。小さな透明な欠片を渡される。
「水晶の欠片よ。そこに思いっきり愛情を注いで。どれぐらい相手を愛しているか伝わるように」
 それぞれ、二人で手のひらにある欠片の上に手を重ねる。そして目を閉じて気持ちを伝える。
 愛している、と。どれだけの量か計り知れないほど愛しているか、と。やがて欠片は光を帯びる。中でも万里有と征希のはもううっすらどころでなく輝いていた。
「一等賞~」
「競うものじゃないわよ」
 器の水の中にそれぞれ欠片を入れて行く。水が光を帯びてきた。
「出来たわ。これを次の満月の夜に飲ませることができれば・・・」
「どこの病院なの? まさか・・・」
「海外よ。イギリス」

 ひょえー!!

「だから万里有、その頭への叫びはやめて」
 一姫が言う。マーガレットと征希以外は皆、頭を抱えている。
「ごめん」
「それでは、後はマリーと征希とマギーに任そう。あまり大勢で動くとお父上達が警戒するやもしれぬ」
 大樹が言う。
「そうね。それは言えてるかも。征希は大丈夫よね?」
「英語か? それはたぶん。ただ、マギーだけだとお年頃を止める相手がいない」
「それなら私が行きましょう。征希様」
「武藤かよ」
「いけませんか? 有能な元秘書に出来ない事はありません」
「降参。武藤とダブルベッドで寝る」
「お、襲わないで下さい」
「どうしよかなー」
 純粋な武藤をもてあそぶ征希である。
「みっともない。人を困らせてどうするの」
 新妻の足が夫の足を踏んづける。
 そういうことで、この四人の渡英が決まったのだった。

 満月の夜の数日前、四人はイギリスの空港に立っていた。
「まずは病院どこなの?」
「今は言えないわ。祖父の監視の目があるから」
「じゃ、ぶっつけ本番ね」
「ええ。じゃ、チェックインするまで遊びましょうか」
 マーガレットの言葉に万里有はぽかん、と口をあける。
「マリー?」
「その度胸どこにあるの?」
「さぁ? 本番に強いみたい」
「だな」
「そうですねぇ」
 マーガレットの案内でイギリス観光に出かけた四人だった。

 いよいよ、満月の晩である。四人はマーガレトの誘導で病院に入った。個室のドアは鍵がかかっていた。長い間、機械でつながれ自動で生命維持装置がつけられているような感じだった。鍵はなぜかマーガレットが持っていた。
「おばあ様が亡くなる直前にくれたの。これは大切な人の扉をあける鍵よ、って。リックしか考えられなかった」
 そう言って鍵を回す。機械で維持しているのに鍵は手動だ。まるで試されているかのように思った万里有である。
「リック・・・。いつの間にこんなに・・・」
 写真で見た面影はあるものの、子供ではなかった。もう青年の姿だった。この長い時間の間に命の炎が消えなかったことにマーガレットは神に感謝したかった。
「リック、これを飲んで」
 マスクを取り外し、清めの水が入ったボトルを出す。淡く光っていた。ゆらゆらと淡く光る。
 リチャードの唇に少しずつ水滴を垂らす。こくん、という小さな音がした。
「今、飲んだ?」
 寝たきりで、昏睡状態の人間にできることではない。万里有は驚きの眼差しで見つめる。そんな万里有の手を征希はぎゅっと握った。
「大丈夫だから」
「ええ」
 リチャードが水滴を飲みはじめてから数分、時間が止まったようだった。その張り詰めた空気の中でリチャードの瞼が震えた。瞼が開かれる。
「リック! マギーよ。リトル・マギー! 私よ!!」
「マギー? 僕、どれだけ眠っていたの?」
「長い間、眠っていたのよ。ようやく目が覚めたのね。体はあれからどうなっているのかしら。リハビリが必要かもしれないわね」
 マーガレットが必死に話している時に扉が開いた。長いひげを蓄えた老人だった。
「やっと、来たか。マギー」
「おじい様!!」
「試させてもらった。マギー、マリー。二人の出会いは必然だった。そしてリチャードを目覚めさせるのも道の一つに入っていた。実際、リックは命が危なかった。だが、マギーが自然と助けていた。その反動で、恋占いが出来ないほど憔悴してしまった。お前のおばあさんが引き取って愛情を育ててやっとお前は愛を結ぶ娘になった。マリー。そなたの大きな愛でマギーは大きく成長した。ありがとう。リック。急には起きれないだろからしばらくマギーと話しておきなさい。我々は外で話している」
「マリー!」
 出て行こうとした万里有にマーガレットが名を呼ぶ。
「よかったわね。マギー」
 親指を立ててサインを出す。マーガレットも同じ手をだした。ぱたん、とドアが閉まる。
 久しぶりの恋人達の再会だった。

 曲がりくねった小道を歩く旅人、マーガレットの旅はまだ続く。自分の道を選ぶ旅人万里有も。
「あーあ。私が一人もんかー」
 海外の夜空を見上げて万里有が言う。
「着いてくる?」
 征希が言う。
「いいの? マギーは?」
「マギーにはリックがもういる。これからあの屋敷で過ごしていく。俺たちは俺たちで進んでいくんだ。大冒険の道を」
「そういえば征希は大冒険をする旅人だったわね」
「そ。一緒に旅に出ない? 奥さん」
「出る。出る出る」
 もう、マーガレットは大丈夫だ。親友が遠くに行っても通信手段は多種多様にある。それに今はもう、愛する相手がいるのだから、あの屋敷で旅人を迎えて過ごしていくだろう。リチャードも大河達の会社に入れれば日本で稼げる。
 
 私は自分の道を自分で選ぶ旅人。

 自分の足で歩いて行こう。そう思って見上げた夜空だった。

 あなたの背中を後押しします。

 この言葉にやってくる旅人はまだまだいるだろう。あの賑やかなメンバーで後押ししていく。また、あの看板の前に立つ日を思いながら万里有はマーガレットの幸せを祈ったのであった。


【Fin.】

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