見出し画像

オリジナル短編小説 【橋を渡る旅人 〜小さな旅人シリーズ11〜】

作:羽柴花蓮
Wordpress:https://canon-sora.blue/story/

+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+

秋の気配も強くなってきたある午後、万里有は買い出しに行って屋敷に帰ってきた。父は何度も来たが大河や大樹が追い返してしまった。ごめんなさい、と思うも征希と将来を共にする決意は揺らがなかった。
 その征希と連れだっての買い出しである。一種のデートだ。征希は子供用のお菓子をぼんぼん入れて行くので、それを返しに行くのに時間がかかった。
「もう。子供じゃないのよ。好きな物ばかり入れるのやめて」
 万里有は征希に説教する。しかし、征希は少々肩をすくめるだけだ。効果はない。
「もうっ!」
 万里有は持っている買い物袋を征希にぶつける。
「ぼうりょくはんたーい」
「どこが暴力よ。あ。やっと我が家だわ。陽だまり邸~。ただいま~」
 よっこらしょ、と乙女にあるまじきかけ声とともに大量の買い出しを持って上がる。
「お客様が来てるわよ」
 亜理愛が言う。
「旅人さん?」
「ううん。おじい様」
 亜理愛の言い方に万里有は嫌な予感がした。荷物を亜理愛に全部預けるとマーガレットの最近の指定席となっている一階のテラスに万里有は突進した。
「おじぃちゃま!!」
 老人とマーガレットが万里有を見る。
「まぁちゃんや。元気にしとったか? あの馬鹿息子がやらかしたらしいんでな。尋ねてきた。まさかマーガレットさんの孫娘さんとは、しらんかった」
「おばあさまと知り合い? それに、マーガレットって名前・・・」
「立ったまま? お話があるんじゃないの? 座って」
「はぁ・・・」
 まるで初対面の時のような餌のいらない猫をかぶった万里有である。
「すまなかったのう。面倒な約束をしてしまって。お前の母さんが亡くなったとき、あの双子息子によく慰められてなついておったんじゃ。昔の口約束もあるから、と決めてしまった。早すぎたな。あの家は、まぁちゃんの家じゃ。じぃちゃんもおる。遠慮せずに帰ってきなさい。あの馬鹿息子とやり直すきっかけをもらえないか?」
「おじぃちゃま・・・。でも征希を認めなかったわ。あんなにいい子なのに。私ためだけに留学を決意して苦手な勉強を頑張ってるのよ。それを思うともうおとうちゃまのところには・・・」
 ぽとり、と滴が落ちる。
「まぁちゃん。なかんでええ。なんでもまぁちゃんも占いというものが出来るようになったらしいの。やって見せてくれぬか?」
「リーディングの用意は出来てるわよ。私がマリーをリーディングするわ。これからの人生をどう歩くか、と。マリーも自分とお父様のこと見てご覧なさい。新しい発見があるかもしれないわよ」
 目の前に「聖なる森のカードが」置かれる。マーガレットは相変わらず鮮やかな手つきシャッフルする。そして弧を描くようにカードを広げる。
「マリーもやって」
 万里有もカードデッキを手に取り、シャッフルする。その顔は真剣そのものだ。父一人、子一人。道は分かれたままなのだろか。思いながら一枚選びをする。そのまま裏返しのままにしてからマーガレットのカードを選ぶ。
「二つのカードがでたわね。合わせて解釈するのよ。いつもの通りに」
 マーガレットがカードをひっくり返す。
「Crossing bridgis」のカードだった。満月を背にして提灯明かりを持って橋を渡る人物が描かれている。
「橋を渡る・・・」
 万里有が意外そうな顔でカードを見つめる。
「そう。橋を渡る。マリーはもう次の世界に行くの。次の新しいサイクルに入るのよ。過去を許し、癒やし、開放する。償いのためにすることはすべてして。そして橋を渡るの。そしてこのカードは和解と修復して、とも言ってるわ。おそらく、お父様の事ね。そしておじい様とも新しい関係と結び直すのよ。橋を完全に壊して疎遠になる、という事も示しているけど、おそらくマリーは許しを与えることが必要なんじゃないかしら。新しい家族の絆を結ぶ時が来たのよ。そしてマリーはどのカードを選んだの?」
 万里有はカードをひっくり返す。
「Water spirit」、「水のスピリット」だった。深遠なる聖なる森の泉にカワウソが浸っている。そんな綺麗なカードだった。
「水のスピリット・・・。感情を司るわ。夢に焦点が注がれているけど、今の私の夢はない。ただ、征希といい家庭を作りたいだけ。それが本当になるように動くときとも考えられるけど、もっと大事なのは、私は私の感情を自由に表現して良い、ということ。そのためにはおとうちゃまやおじぃちゃまと別れることになってもしかたない、って事ね」
 自虐めいた微笑みが浮かぶ。
「まぁちゃん。じぃちゃんはひ孫を見るまではこの世からいなくならん。あの馬鹿息子にも孫を抱かせてやってくれ。今回の事で目が覚めただろう。勝手に親の都合でものを決めてはならないと。まぁ、これはじぃちゃんのしょうもない約束があったせいだが。リトル・マギー。孫を頼む。たまにはジジィの所にもよこしておくれ。まぁちゃんや。近いうちに我が家で会おう。相当しょげとるんじゃぞ。本当に。私の万里有がいなくなったと毎日泣いておる」
「おとうちゃまが?!」
 万里有には意外だった。あの父が泣くなどと。母の葬儀の時の記憶は定かではないが、父は泣いていなかった。やつれてはいたが。涙ひとつこぼさなかった。あれは父の強がりと知るのは、大人になってからだった。そういえば、星空を眺めながら思い出話をしていたことを思い出す。月を見ておかあちゃまはあの月に住んでいるのだろか、などと話していた。
 万里有は、顔をあげる。
「おじいちゃま。一度、近いうちに家に帰ります。あのおとうちゃまともう一度話がしたい。亡くなったおかあちゃまの事を。それから一生懸命私を育てくれたことにありがとう、って伝えたい。おとうちゃま、きっとジェラシーだったのね。あの征希の事をガキと言ったのは」
「父一人、子一人だったからのう。わしはただの孫を甘やかすじぃじだったから父と娘の絆は深かろう。今一度、関係を見直せば良い。そういう時なんじゃよ。もう。お嫁に行けるほど成長したのだ。じぃじは寂しい。あいつはもっと寂しいのだろう。まぁちゃんがいなくなって半年近くたつ。その間にいろいろ財閥内でもあった。後継者争いは今も続いている。
 本来ならまぁちゃんが継ぐのが妥当だが、ムコ養子になってくれそうにはないからのう。征希は」
 後継者と聞いて万里有は口を開く。
「おじぃちゃま。私達は財閥という環境に振り回されたわ。もうこの財閥云々はしたくないの。もっと自由に恋愛して、友だちとと話して、普通の家にいたいの」
「財閥でなくともあそこはまぁちゃんのお母さんが愛した家じゃ。まぁちゃんの一つの居場所じゃ。たまには帰ってこい。父と祖父は待っている。それでは長話をしてしまったな。リトル・マギー。孫をよろしく頼む。仕送りは全ての財閥でもう一度再開することとなった。大河の貯金は将来のために取って置くように言っておいておくれ。またお茶をしに尋ねてもよいかな?」
「もちろんですわ。おじい様。おばあ様との思い出をたくさん聞かせて下さい。祖母が初めて恋した人の事を聞きたいので」
「初恋か。甘酸っぱいのう。娘さんも綺麗な娘じゃった。また、占いの話をしておくれ」
いとまの挨拶を終えて今一度孫の顔を見る祖父である。
「まぁちゃん」
「おじぃちゃま!!」
 万里有は祖父に抱きつく。しゃくり上げる。甘えさせてくれる祖父の愛情を再確認した。父もそんな愛情を持っていてくれるのだろか。祖父は万里有の肩をぽんぽん、と叩くと帰ってしまった。後にさみしさが残る。
「まさき~。一回、実家に来てくれない?」
 受験勉強と言うことで二階の室内テラスに二人きりになったのを見て万里有は甘えながら言う。
「って、あれ? お嬢さんをください、ってやつ?」
「違うわよ。お父ちゃまと仲直りしたいけど、私、天邪鬼だから逆に大げんかにならないか心配なの。征希なら止めてくれるでしょ?」
「おひっ」
 暴走した万里有を止められる人間は唯一、マーガレットだけだ。征希では荷が重い。
「マギーと一緒なら・・・」
「どうしてマギーが必要なのよ」
 万里有の瞳に嫉妬の色が浮かぶ。
「違う違う。マギーなら間違いなくあのおじさんを止められるからだよ。俺は無理」
「じゃぁ。マギーと一緒に行ってくるもん」
「すねるなよ~。俺も一緒に行くから」
「マギー付?」
「付じゃない方」
「征希! 大好きよ!」
 飛びついて椅子がバランスを崩す。二人とも床とキスだ。
「何してるの! あなた達!!」
 よりによって見られては行けない一姫に見られた。
「結婚した二人が何もしてないのに、この二人は~!!」
 一姫が竹刀を持ち出す。
「やめて~。武道は知らないのよ~」
「俺も一姫には勝てないって~」
 三人でぐるぐる回って追いかけっこしているのを大樹が見つける。
「何をしてるのだ? そなたたち」
「聞いてよ。大樹。マリーと征希が・・・」
「言っちゃダメー」
 二人で一姫の口を封じる。一姫はばたばた手足を動かす。
「言わない?」
 万里有がじとっと見て言うと一姫はこくこく頷く。
「じゃ」
 征希と視線を合わせて手を離す。
「大樹~。マリーと征希がいじめる~」
 大樹の方に行く。
「いじめてない!!」
 二人の声がハモる。
「本当にそなたたち血がつながってないのか? ハモり具合がすごいぞ」
「母上が浮気でもしたと?」
 征希が今度は兄をじとっと見る。
「いや、それはない。父上にぞっこんだからな。しかし、そこまで重なるとはこれから大変だな」
「どうして?」
「感情が同調して一緒に泣く羽目になる」
「一緒に泣く?」
「そなた達は子育てもろくに出来ぬやもな」
「子育て! マギーといい、大樹といい、どうしてそういう思考になるの」
「結婚とはそういうものだ」
「らちがあかない。マリー、逃げるぞ」
 ばっと参考書を抱えると征希が走り出す。
「ちょっと!」
 自らの卒論用の資料を抱えて征希を追いかける。

ここから先は

476字

¥ 100

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?