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オリジナル短編小説 【ポトスの物語〜花屋elfeeLPiaシリーズ30〜】

作:羽柴花蓮(旧 吉野亜由美)
ココナラ:https://coconala.com/users/3192051

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 「あ。美桜お姉さん。久しぶり!」
「元気にしてた? 聞いてるわよ。最近、噂になってるって。追いかけっこしてつかめたら恋が成就するって」
「違うんだけどなー」
 向日葵がしているのは花の妖精と花言葉の成就。それが恋の花言葉が多いため、恋を成就させる不思議な女の子という立ち位置になっていた。
 ここは一軒の小さな花屋elfeeLPia。店主の一樹と妻、萌衣と向日葵で回していたが、最近、萌衣が彩花を出産して子育てに振り回され、店の方にまで手がゆかない。昔の一樹と向日葵が回していた頃に戻っていた。そんな雰囲気の花屋elfeeLPiaを気に入って昔の常連客がまた来るようになっていた。噂話を聞いてくる者は今は常連客に阻まれて入れない。見慣れぬ顔だとそれとなく追い返してくれているありがたい、常連客だ。
 その常連客の一人、美桜も数年ぶりにやってきた。
「ちっとも変わってないわね。でも花の種類は増えたかしら?」
 流石は常連客。見抜くのが早い。
「あ。ポトスだ。可愛い~」
 小さなハイドロカルチャーのポットに入っているポトスを見つける。
「ハイドロカルチャーって便利よね」
「うんうん」
 久しぶりに開放されている向日葵は屈託のない笑顔を見せて頷く。
「賢太君、元気?」
「どこでそーいう話しになるんですか!」
 向日葵は真っ赤である。小学校の時にクローバーの栽培キットとほっぺにキスをして去って行った賢太のことはよほどの者しかしらない。箝口令を引いているのだ。親友にさえバレてない。ひとえに向日葵の火消しのおかげだ。一樹も言いたくてうずうずしてるが、花言葉が成就するかわからないため、口にするのをひかえている。
 相変わらずだが当然、美桜の肩にすでにポトスの精がのっている。見える者にはわかるが、美桜は見えない方である。ポトスを見つけて思った瞬間、花の妖精としっかりつながるのだ。花の妖精が選ぶのか、何かの力が働いているのか、それは向日葵にもわからないが、花言葉が成就するまでは妖精は美桜の元にいる。
 ポトスの花言葉は「長い幸」、「永遠の富」、「華やかな明るさ」、である。美桜にどうやら「長い幸」を授けようとしているようだ。向日葵は店主と一樹と同等に妖精と意思疎通が図れる。どの花言葉を与えようとしているのか向日葵はなんとなくわかるのだ。このポトスはは、富ではなく、幸を捧げたいと言っている。
「『長い幸』ねぇ・・・」
 思案げに言う向日葵を美桜は見る。
「え? 選ばれちゃった? 私」
 見えないが、多数のからくりを見てきた美桜には何が起こっているのか解っていた。
「うん。そのハイドロカルチャーのポトスちゃんが連れてってーて」
「で、花言葉は?」
「さっき言った、『長い幸』。なんだろね・・・」
 あ、と言って向日葵は美桜を見る。
「結婚、かも。ほら。長い人生には付きものでしょ? 幸せって言ったら美桜お姉さんには結婚よ」
「って。相手いないんだけど?」
 いいながら、もう、慣れた手つきでポトスを選んで手に取っているが。見えなくとも花の妖精は欲しいと思う人間も少なくない。
「これから出会うか、もう出会ってるか」
「これからに期待したいわ。店長~。根腐れ防止のミリオンエースとハイドロカルチャーの用品も買うわ~」
「毎度あり~」
 長年の付き合いでもうやりとりは完全である。ツーと言えばカーである。
「じゃ、ひまちゃん。また用品が減ったら買いに来るわ」
「は~い。美桜おねえさんもお元気で~」
「ひまちゃんもね~。勉強ちゃんとするのよ~」
「それはいや~」
 遠くに消えるまで向日葵は手を振り続ける。何度会っても美桜は「華やかな明るさ」を持っていた。向日葵もつられて、明るくなる。鼻歌を歌いながら花屋の仕事をしていると一樹が来る。
「嬉しそうだねぇ。ひまちゃん」
「うん。美桜おねえさんにいい人できるかもしれないの。というかポトスはそのつもりみたい」
「そうか。美桜ちゃんもついにお嫁さんか~。ひまちゃんのお嫁さん姿も見たいねぇ」
「それはすーっと後!」
 久しぶりに向日葵の足踏みが炸裂する。一樹はしばらく痛みで動けず、常連客に動くのを手伝ってもらっていた。それ見ながらもつん、とそっぽを向く向日葵である。
「いっちゃんなんて知らないもん!」
「ひまちゃ~ん」
 一樹の情けない声が聞こえる。当然、向日葵は知らない振りをしたのだった。

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