オリジナル短編小説 【ブルーデイジーの物語〜花屋elfeeLPiaシリーズ35〜】
作:羽柴花蓮
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ここに一軒の花屋がある。花屋elfeeLPia。もちろん造語である。妖精の感じられる場所という意味あいだ。
しかし、この花屋にはからくりがある。花の妖精の産まれる地がこの花屋の地下にある。どうやってこの花屋の地下にあるか、そういった謎は店主一樹もしらない。祖父に店を手伝わされ、その内にその土地を見せられ、お前が継ぐんだよ、と言われて今に至る。そして跡継ぎがもういる。自らの子、彩花でなく、近所の中学生、向日葵である。
小学校の不登校の時にこの店に現われ、それ以来の付き合いだ。この子ほど妖精と相性のいい子はいない。一樹の目には確かだった。小学校低学年の時からの妖精との付き合いである。今や、その能力は見るだけにとどまらず、意思疎通まで図れる。なんの契約もなしにできる向日葵は特殊だった。向日葵には両親はいない。父は解らず、母は向日葵が生れて間もなく、事故で亡くなった。叔母が数年前に見つかり、子細が解った。
そんな店主一樹と小さな店員向日葵は巷では名物花屋である。花言葉とともに恋を成就させるとして最近、新規の客が場をあらしていた。しばらくそれをしないうちに新規の客も来なくなり、ようやく花屋elfeeLPiaに平安が訪れようとしていた。
そんな中、そろそろ高校受験に身を入れないといけない秋となった。周りの友達が花屋のテラス席で受験勉強をしているのを他所に今日も向日葵は花の世話に精を出しているのであった。
「ひまちゃん。ここはいいから受験勉強しておいで」
このままでは高校さえ落ちて中卒で採用だ。それはなんとか避けたい。この頃の世間は中卒などなかなかない。せめて高校に行っていろいろ体験して欲しいのだ。体験は人を成長させる。妖精と花一辺倒だった向日葵にも中学生となると親友もでき、その向日葵がくっつけた純情二カップルもいる。この子らは向日葵をしたってよくこの花屋に来る。その大切さを知って欲しいのだ。一樹の思いをよそに相変わらずの向日葵であった。
「わぁ。ブルーデイジーだ。いっちゃーん。お花が来たよー」
向日葵だけでは思い花の配達のため一樹も行く。
「お。これが来たか」
黄色い管状花に青い花弁。その愛らしさから「ブルーデイジー」とよばれている。菊の仲間だが、そう見えないのがこの花の愛らしさだ。「愛らしいあなた」という花言葉も持っている。まさにその姿を言わしめんとした所だろう。主な花言葉は「幸運」、西洋ではブルーは幸せの色。そこから学名も幸福を現わす単語からつけられたという。
「まぁ。可愛らしいお花」
新たな客が来た。だが、向日葵や花言葉の成就に来た客とは違うようだ。花言葉の成就を願うものは真っ先に人へ視線をやる。この客は真っ先に花に目をやった。来たばかりのブルーデイジーの妖精が産まれ、そのまま成長せずにその女性の肩に座った。
赤ちゃんの妖精って・・・。
向日葵は目を丸くする。普通は成長してから客を選ぶのだが。このブルーデイジーはその成長する時間すらもったいなかったらしい。赤ちゃんだろうが、なんだろうが、妖精は妖精のようでしっかり意思を持っているようだ。
“あかちゃんで悪かったわね。この女性が望んでいるのは子宝なのよ!”
妖精の言葉にふむふむと頷く一樹と向日葵である。
「どうかしましたか?」
女性客が不思議そうにしている。
「お姉さん、このブルーデイジーがお気に入りなの? 私は向日葵。みんなにはひまちゃん、って呼ばれてるの。気軽に呼んでね」
「ひまちゃんと言うの? 私は陽美。内藤陽美というの。まぁ、名字はもうすぐ元に戻るかもしれないけど」
「え? お姉さん。もしかして夫婦の危機ってやつ?」
「ひまちゃん、突っ込みすぎ」
一歩足を踏み入れかけた向日葵を一樹が止める。
「あ、ごめんなさい。私、どうも花を好きな人にはお節介しちゃうから。いっちゃん。このお客様にひまからブルーデイジーの花束プレゼントしてあげて。お金は後で払うから。じゃ、受験勉強してきまーす」
「え。あ。ひまちゃん」
ぴゅーっとテラス席に消えた向日葵をあっけにとられて見ている。
「ひまちゃんはあなたの問題に気づいたんだと思います。だからこの花の花束を。花言葉は『幸福』、『恵まれた』、『かわいいあなた』などと言うんですよ。お悩みの事があれば解決すればいいですね。それではひまちゃんのリクエストにお応えして花束を作ってきますので」
ささっと一樹も店の奥に行く。陽美の話す間がなかった。陽美は数年前に結婚したのだが、子に恵まれず、不妊治療の真っ最中だった。だが、それのおかげで夫婦の仲はぎくしゃくしはじめていた。イライラする自分にケリをつけるべく、花でも愛でようと来たのだが、愛でる前にさっさと花が決ってしまった。でも、あの花を見ていると心が和む。もう。私達はダメなのかもしれない。でも、一度だけ、妊活でない愛を上げたかった。夫に。好きよ、と言って離婚届を置いて実家に戻るかそこらのビジネスホテルに行く予定だった。
「はい。お待たせしました。最近はシングル花束と言ってそれだけで花束を作る流行もあるので、ブルーデイジーを思いっきりいれてみました」
そう言って一樹が渡す。
「まぁ。こんなに。花瓶足りるかしら」
「きっときっちり足りますよ。そうなってるんです」
「?」
「今度はご夫婦で来て下さい。きっとこのブルーデイジーが幸せを持ってきますよ。と。これはひまちゃんの仕事なのですが、現在受験勉強中でして、代わりに私が役目をこなさせていただきました」
「役目?」
「あ、気にしないで下さい。ひまちゃんの仕事を代わっただけですから。ではまたのお越しをお待ちしております」
一樹が軽く頭を下げると腑に落ちない様子で、陽美は帰っていく。
「あー。いっちゃん。ひまの仕事―」
陽美が帰った後、ふくれっ面で向日葵がやってくる。
「受験勉強が第一。その前に、学校の宿題もね。写さずにするんだよ」
「そんなことさせてくれる子いないよ。萌衣さんの脅しが効いてるから」
「誰のおどしですってー」
背後から萌衣の声が向日葵にかかる。向日葵は飛びあがるように驚く。
「わぁ。あ。あやちゃーん。ひまちゃんですよー」
萌衣の手に抱かれた一樹の娘、彩花を見るとすぐにほっぺたが落ちる。
「ひまちゃん。ほっぺ拾った方がいいよ」
一樹の指摘にはっと頬に手を当てる向日葵である。
「だって。あやちゃん可愛いんだもん」
「それは自分の子供うでからしなさい」
「そーいえば、あのお姉さんのところに赤ちゃん来るの?」
「たぶん、ね。それまでにご夫婦の関係修復が出来ているといいけど」
「あかちゃんの妖精って?」
「あかちゃんの姿をしていたの。でもいつも通りに話していたよ。てっきりブルーデイジー来て早々に生れた子かと思ったけれど、もともとその姿でいるみたいだった」
そこへひまちゃーん、と親友達の声がかかる。
「いけない。模試の答え合わせしてたんだった」
またぴゅーっと消える向日葵である。受験生とは面倒なものである。
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