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オリジナル短編小説 【呼ばれる旅人 〜小さな旅人シリーズ12〜】

作:羽柴花蓮
Wordpress:https://canon-sora.blue/story/

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 万里有は目の前のカードを見てうなっていた。
「どうしたの?」
 すっかり素直になった一姫が機嫌良く声をかける。
「おじぃちゃまからおとうちゃまの誕生日パーティーのお誘い」
 何気なしに言うため、聞き飛ばすところだった一姫はカードと万里有の顔を交互に見た。
「寄りつかないから、最終手段に出たのよ。行くにも気合いがいるからねー。みんなの分もあるわよ」
「うそ?!」
「確認しなさいよ」
 一姫は干しに行く予定だった洗濯物を放り出しカードを探す。その側を亜理愛が通る。
「何してるのー?」
 亜理愛は屈託ない。
「誕生日パーティーのお誘い」
「行けばいいじゃない」
「あの、征希をガキ扱いしたおとうちゃまの、よ?」
 亜理愛も顔とカードの山を二度見する。すぐに一姫が亜理愛宛てのカードを渡す。
「本当だ。呼ばれてる。あの、吉野家に・・・」
「あなたも吉野家の一族でしょう。従姉妹なんだから」
「そうだけど・・・」
 次第にこの万里有の周りにいる人間が増えていく。いつのまにか征希もブツブツ言いながら見ていた。大河も大樹も寄ってくる。説明を聞く度に人はカードとにらめっこをはじめる。
「この、リトル・マギーってマギーの?」
 亜理愛が最後の一枚を見つけて言う。
「ええ。私宛よ。祖母もマーガレットという名前だったから、小さなというリトルをつけて呼ばれていたのよ。吉野家のおじい様は祖母の初恋の人なの」
「えー!!」
 一姫と亜理愛が叫ぶ。
「それをひねり潰そうとしたマギーって、怖い人なの?」
「あれは売り言葉に買い言葉よ。ただ、財閥だけが偉いわけじゃないのよ。で、この達筆なカリグラフィーはおじい様の手書きね。心がこもっているわ」
「ああ。そういえばおじいちゃま。カリグラフィーが得意なの。日本人なのに」
「ハイカラね」
「姫、大樹と一緒だと言葉も古くなってるわよ」
「おひっ」
 大樹が突っ込むが聞き届けられない。皆、うんうん、と頷いている。
「マリー。そんなに見ていても書いている文字は変わらないわ。旅人さんが来る前にリーディングで見てみましょう」
 最近、旅人が現れない。この屋敷内で旅人が発生し続けているからだ。主に万里有が被害を被っていた。修行どころか自分の未来を見る羽目になってるからだ。自分で自分の背中を押すことほど難しい事はない。そこにはカードに反抗する気持ちも出てくるからだ。ただ、万里有は自分の道を選ぶ旅人。こうなるのは当たり前だったのかもしれない。

 一同が、また二階のテラスルームに集る。マーガレットが上座とでも言おうか、それぞれを見渡せる席に座る。その少し隣に座る万里有はすでに亜理愛がお茶の準備をしている間に一枚引きをしてそのカードを裏向けておいている。側には征希が寄り添っている。そして二組の新婚が座る。どうやら大樹も一姫と籍を入れていたらしい。

「では、リーディングを始めます」
 厳かににマーガレットは言うとカードをシャッフルし始める。いくらか時間が経った頃にシャッフルの手を止める。そして弧を描くようにカードを広げる。
「マリー。征希でもいいわ。カードを選んで」
「じゃ、二人で」
 万里有に視線を向けて征希が言う。力強い征希の姿に万里有はすがりたくなる気持ちだ。やはり、自分には征希しかいない。最近、強く感じるようになってきた。最初は弟程度だったのがいつの間にか頼れる恋人となっていた。それによって万里有の気持ちも変わっていっていた。
「じゃ、これ」
 二人一斉に指さす。マーガレットはそんな二人に微笑みを向ける。万里有は心臓が止まりそうだ。あれから、父とは会っていない。会いに行こうと思う側からやめてしまうのだ。祖父が言い聞かせたのか父はもう、この陽だまり邸には来なかった。ただ、仕送りだけが許された、ということを示した合図だった。祖父はよく来る。マーガレットと二人きりでお茶を楽しんでいる。万里有は卒論が佳境でその時間はなかった。顔は出すが、すぐ卒論に向かっていた。
「マリーも引いておいたわね?」
「ええ」
 固い声で答える。緊張していた。
「では・・・。私から。『Answering the call』。『呼びかけに応じる』、よ。『時は今です』とつげているわ。万里有は呼ばれているの。準備ができていようといまいと。呼びかけが聞こえたならすぐに応じる事ね。もう何回目かの新しい旅に万里有はよばれている。おじつけている場合ではないのよ。呼びかけに応じれば奇跡が驚くほど起きるとカードは告げている。誕生パーティは行くべきね」
 マーガレットがここまでリーディングで意思を示すのは珍しい。普段は旅人を小さく背中を押す程度だ。べき、とも言うのは初耳だ。
「マリーのは?」
 万里有はうめきたくなった。さっきチラリと表が見えた。その単語とイラストにとどめを刺されたのだった。
 憂鬱な気分でカードを開く。
「『Bluebird spirit』、『ブルーバードのスピリット』。キーワードは『幸せ』よ。幸せの青い鳥。カードは喜びの予兆、祝い、楽しむように言ってるわ。どこを楽しめと・・・」
「マリー、リーディングに集中して」
 マーガレットの注意にただ頷いてガイドブックに目を走らせる。
「真の喜びへの近道は、分かち合い、与え合う事。そのほか喜びの事を書いてあるけど、招待を受けて父と許し合うことが必要、って事ね。気が進まないけど、嫌いなわけでもないの。この世のたった一人の親だもの。大好きよ。でも、どんな顔して会えばいいかわからないの」
「行こう。万里有。お父さんと仲なおりしよう。僕達の仲を認めてもらえるかどうかはまだわからないけど、万里有のたった一人のお父さんじゃないか。このままさよならじゃ、寂しすぎる。悲しすぎる。生きる道を変えただけなんだから。僕達はもう財閥に関係ない世界に生きる。今はまだ支えてもらっているけど。その事を解ってもらういい機会じゃないかな?」
「征希・・・」
 征希はもう大人になっていた。いつの間にか一目惚れするほど格好いい男になっていた。イヤイヤとしている自分は子供だ。それを思う。
「わかった。いくわ。おかあちゃま、母の好きな花があるの。父から教えてもらったわ。この時期に咲く赤い秋桜。花言葉は『乙女の愛情』お・・・母はそれを父に贈って告白したって聞いてる。私もそのコスモスの花束を持って行くわ。みんなは嫌な感情もあるだろから、気にしないで」
 瞳に強い光を秘めて万里有は言う。こうなった万里有は強い。いざとなれば強いのが万里有なのだ。その、万里有が好きなのだ。ここに集う人間は。
「そんな一人で送り込むような事なんてしないわよ。私も行くわよ。大樹」
「そうだな。人の誕生を祝うのは素晴らしいことだ。是非とも我々も。常日頃お世話になっているからな。それに非礼を働いた事を謝っていない。まずは、そこからだ」
「みんな、ありがとう」
「マリー、私も連れて行ってね」
「もちろん!」
 マーガレットの言葉に万里有の笑顔がはじけた。

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