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ハートのキングと過ごす夜



何時間もただ手を握っていた。
手の温もりを感じるだけで心が落ち着いた。



マンションの前に着き、タクシーを降りようとすると、彼の体がふらついた。
咄嗟に支え、部屋の前まで見届けようと一緒にタクシーを降りた。

部屋の前につき、中に入ろうかどうか迷ったが、彼の様子を見ているとあまり良くなっていない状態で1人で寝床にたどり着くのは難しいと思い、
「入っても大丈夫ですか?」
と尋ねると、少し震えた声で「うん」と返ってきたので、支えたまま部屋まで付き添った。


一人暮らしの男性の部屋に入るのは少し気がひける思いがしたが、今の状態の彼を置いて帰るなど到底できなかった。


家に着くなりベッドに横になる彼を見届けた。


「少しの間だけいさせてもらうので、寝てくださいね。大丈夫そうだったら様子を見て帰るので。」


そう言って隣にあるソファーに腰掛けた。


彼は黙ったままベッドの上でうずくまり、耐えるようにしていた。
30分ほどたっても彼の震えは治らなかった。


楽な格好に着替えた方がいいのでは、と提案すると、彼はヨロヨロと立ち上がって洗面所に向かい着替えを済ませてまたベッドに帰ってきた。


その時にこちらを向いて、

「少しの間手を握らせてもらえないかな?さっきすごく安心したから。」と彼が言った。


「どうぞ。」と言って差し出した私の片手を彼が握りしめた。


彼に預けた片手をそのままに、消音にしてつけられたテレビを眺めていると、少し経って彼から寝息が聞こえてきた。
顔を覗くと、安心したような表情で眠っているのを見てホッとした。



そのまま2時間ほど時間が経って、彼が目を覚ました。

私の手をギュッと握り直し、「ありがとう」と言った。



そこから1時間ほど、2人でぼーっとテレビを見ながら少し話をした。
いつからパニック発作が出ていたのか、何がきっかけだったのか彼は教えてくれた。


その途中でまた少し彼の体調が悪くなった。


同じようにうずくまる彼に私は黙って手を差し出した。

私の手を握り少しすると彼はまた眠り始めた。

知らなかった彼の抱えていたことを知り、今日彼を1人にしなくてよかったと心から思った。



次に彼が目を覚ます頃、彼の家に到着してから6時間が経っていた。



体の痺れや時間を忘れるほど、彼の存在だけを感じていた。

手を握り締めて眠る彼の顔は、安心しきった少年のようだった。

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