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チョコレートとウィスキー


 唐突だけど私はチョコレートが好きだ。なので安物のチョコレートでも平気で満足してばくばく食べ尽くしてしまう。でも同じ甘いものでも粒餡は全然駄目だ。どんな高級菓子であっても、粒餡が入って時点でもう食べれない。

 そして私はここ数年ウィスキーを嗜んでいる。お酒はそんなに得意でないけど、得意でないからこそ良し悪しに敏感になれる気がする。例えば1500円のウィスキーと3000円のウィスキーでは全然美味しさが違う。3000円のウィスキーに慣れると、もう1500円の安価なウィスキーは呑めなくなってしまう。あとマイナーな日本産のウィスキーは値段不相応な地雷が多いので注意。

 好き/嫌いと美味い/不味いは別の異なる基準である。好き/嫌いは主観的でかつ絶対的な評価なので、好きものは大抵何でも大丈夫だし、嫌いなら何であっても全部駄目だろう。一方で美味い/不味いは客観的かつ相対的な評価なので、商品の値段や完成度がわりと露骨に反映される。

 この二つの評価軸は並列することが出来る。例えば私は未だに日本酒が苦手なのだけど、旅行好きな友達が美味しい地酒を頻繁に持ってきては舌を慣らされた結果、偶然に呑む羽目になった安物の日本酒の不味さに衝撃を受けたことがある。嫌いだけど美味しい、好きだけど不味い、は全然あり得ることなのである。

 これは元々、大学の文芸部の先輩が日頃から仰っていた考え方に由来する。即ち、面白いと上手いは別物である。面白さは主観的なものなので、自分の面白いと思った作品が他のひとにとっても面白いとは限らない。だから部内の批評会では面白いかどうかではなく、もっと客観的に評価出来る上手いかどうかについて語ることにしている……

 好き/嫌いと、上手い/拙いという二つの評価基準をしっかり分けて考えるというのは、創作物全般を語るうえでとても大事なことだ。自分の好きな作品が下手くそだと罵られたら不満が貯まろう。逆に技術的に優れた作品なのに嫌いの一点張りで跳ね退けられたら理不尽だろう。

 商品のマーケティング戦略なんかは受け手の好き/嫌いを大きな前提としているので、なんでこんな拙い作品が流行るんだよ! と憤ったって仕方がないところはある。でもその一方で、別にそのジャンルが好きではない読者にとっては上手い/拙いが一番の判断基準になる。だから本当に広範囲でのヒットを狙うならば、当然に客観的に完成度の高い作品が求められるのである。


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