木下康彦/木村靖二/吉田寅編『詳説世界史研究 改訂版』第16章「冷戦と第三世界の自立」第17章「現代の世界」について

本書の第二次世界大戦後の章を政治の観点から紹介する。

本書は戦後の世界を国際関係の変化から説き起こしている。

戦後、世界は米ソ両大国を中心とする2つの勢力の対立関係に置かれた。そうした動きに対抗するかたちで、欧米諸国から独立したアジア・アフリカ諸国が非同盟勢力として国際政治上の役割を果たした。

しかし、各陣営における指導力の低下を受けて、1970年代から米ソは緊張緩和(デタント)の時代を迎え、世界は多極化の時代に入った。 

北半球では主として経済上の地域再編が進んだ。例えば、ヨーロッパ世界ではEU、北米ではNAFTA、東南アジアではASEAN、アジア太平洋地域ではAPECが形成された。その一方で、南半球では主として地域間対立・民族問題・宗派対立などに起因する紛争が続発するようになった。

しかし, いわゆる「冷戦」が始まり, 世界は米ソ両大国を中心とする2つの勢力に分裂して, その対立はしだいに激しさを増した。〔…〕これに強い危機感をもったのが, 欧米諸国からの独立を達成した新興のアジア・アフリカ諸国であった。〔…〕いずれの陣営にも属さない非同盟勢力が世界政治に登場して, 平和の実現に努め, 国際政治の上で大きな役割を果たした。〔…〕ソ連の指導力は後退した。〔…〕アメリカの軍事的・経済的威信にかげりが出はじめ, とくに経済面ではEC諸国と日本の台頭によって多極化の傾向が顕著となった。

木下康彦/木村靖二/吉田寅編『詳説世界史研究 改訂版』山川出版社、2008年、507頁。

1970年代に入ってからの多極化現象は, 国際関係に大きな変化をもたらした。〔…〕ECは次第に統合を強化し, 94年にはEU(ヨーロッパ連合)となった。〔…〕NAFTA, APECなど各地域ごとの新たな地域再編と経済圏の形成も進行した。
 一方,  オイル=ショック以降, 南北問題や南南問題などの国際的経済格差はさらに広がり,  経済問題を背景に宗教問題や民族問題も深刻化するようになった。〔…〕冷戦期には覆い隠されていた地域間対立・民族問題・宗派対立などに起因する紛争が続発するようになり〔…〕

木下康彦/木村靖二/吉田寅編『詳説世界史研究 改訂版』山川出版社、2008年、540頁。

また,  アメリカはベトナム戦争で苦しみ,  ソ連はダマンスキー島(珍宝島)で中国と武力衝突をおこすといったアジアでの緊張が高まっていたという国際情勢からも,  米・ソはヨーロッパでの緊張緩和に関心をもたざるをえなかった。さらに,  アメリカはベトナム戦争によって財政が苦しくなりドル危機を招き,  ソ連も増大する軍事費の圧迫に悩んでいた。
 こうして,  米・ソは1970年代の緊張緩和(デタント)の時代に入った。

木下康彦/木村靖二/吉田寅編『詳説世界史研究 改訂版』山川出版社、2008年、542頁。

現代の世界には2つの傾向が見て取れる。一方は、冷戦時代に現れたように諸国を先導的な国家に従わせようとする動きである。他方は、国民国家の枠組みと無関係なエスニック集団が顕在化する動きである。

本書はたしかに諸地域の経済的枠組みに言及している。しかし、冷戦期に成立した軍事的枠組みの継続や冷戦構造を維持した地域(東アジアなど)の状況についてはあまり紙幅を割いていない。本書が編集された2008年以前においては、いくつかの地域で軍事ブロックが再注目される状況は出現していなかったのかもしれない。ただ、最終章は、読者に冷戦の図式が地球上から消滅したという先入観を与えるのではないか。もちろん本書を子細に読めばそんなことはない。次回以降の版でこの点が補足されていることを祈る。

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