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スペシャル・インタビュー 岡本啓史(おかもとひろし)さん:学びの専門家・元ユニセフ教育専門官・著者「なりたい自分との出会い方: 世界に飛び出したボクが伝えたいこと」(岩波ジュニアスタートブックス)

玉内
岡本啓史おかもとひろし
さん、今日はお時間ありがとうございます。
ひろしさんがこの本、「なりたい自分との出会い方: 世界に飛び出したボクが伝えたいこと」(岩波ジュニアスタートブックス)を出版されて読んだのですが、中高生向けに書かれた国連キャリアの本としては秀逸で本当に感心しました。

まさに、ひろしさんのユニークなバックグラウンドや考え方が反映されていると思って、今回インタビューしたいとおもってお呼びしたわけです。ひろしさんとお会いしたのは、ひろしさんがユニセフ・モーリタニア国事務所でEducation Officer としてJPO (Junior Professional Officer)をなさっていた時でしたでしょうか?

岡本
今日は、ありがとうございます。そうですね。JPO研修で初めてみちるさんにお会いして、面白い人がいるなと思って、その後いろいろ個人的に話す機会がいろいろあったんですよね。

玉内
そうでしたね。私の方もひろしさんがJPOの前は、ヒップホップダンサーやニューヨークで役者をしたり、プロの料理人だったとか、モンゴルのSave the Childrenで教育のお仕事してたり、すっごくユニークでクリエイティブな人がいるなと思ったんです。そして、面白くて創造的な器の大きい人材が国連に入ってくれて良かったと思いました。この本は、ひろしさんの多彩な経験から生まれたのですよね。本を書くきっかけというのは何ですか?
 
岡本
そうですね、ユニセフ時代から書き始めて、企画の段階から本ができるまで一年半ほどかかりました。実は、コロナがきっかけなんですね。コロナで海外にいるよりも日本で過ごすことが多くなって、講演の話とかが来るようになったんです。主に中学生、高校生、大学生の若者にお話をする機会があったのですが、さっきみちるさんがおっしゃったみたいに、ヒップホップダンサーから料理人や役者を経て国際機関に入って働いたことから、「いろんなことをしてていいんだな」という視点を見せれたと思うんですよね。それで、若者のみなさんがやっぱりああ、そういう生き方、すごい勇気をもらいますって言ってくださったし、ぜひ本を出してくださいとみんなにも言われて僕なりのメッセージを伝えたいって思ったのがきっかけです。

玉内
そうだったのですね。やはり、コロナをはじめとして紛争も起こり気候変動の心配もあるという不確実性の世界に突入して、自分らしい生き方を模索してモヤモヤしている若者たちにとって、ひろしさんの本は勇気を与えてくれるものだと思います。

岡本
最初は意識しなかったのですけど、日本の若者たちにとって色んなモヤモヤを抱えている中、色んな生き方に関心があるのだなと気づいて、日本でもこの激動の時代、人生は何でもありですよって言うメッセージを伝えたいなあって思ったのです。本の中では、具体例を出しながらも、自分だけじゃなくて、いろんな人のいろんな人生があっていいんですよと言うメッセージを伝えたいなあって思いました。

玉内
すばらしいですよね。国際機関のキャリアに関しての中学生や高校生向けの本というのも今までなかったと思いますが、大人でも読んで気づきがもらえると感じました。例えば、今までのような終身雇用制とか、人生のレールが小さい時からなんとなく刷り込まれていたのが、もしかしたらこれが通用しなくなるかもしれないっていう時代に入った今、ひろしさんの生き方が一つのインスピレーションになるのかなと思います。教育の分野の専門家でもいらっしゃるので、日本の小中学校でのキャリア教育はあまりされていないと思いますが、その点に関してどう変化したら良いと思いますか。

岡本
どういうふうに変化したらいいのかって一言で言うと、まあ、いろんな生き方や道があっていいんだよっていうのを認めてあげることですよね。で、それをするためには、今までの「勉強ができていい大学に入っていい会社に入ればいい人生を歩める」っていうモデルがもう通用しなくなっていることを考えて、キャリア・人生モデル全体を見直す必要があると思います。今までは、受験に大切な算数国語等の「主科目」の成績が良いことが大事と言われ、音楽とか体育とか体を動かすことが得意で好きだった人はちょっと肩身が狭い思いがしてきたと思います。歌が好きな人とかは、早く勉強しなさいよ、とか言われて。けど、少しずつ十人十色という考え方とサポートが教育現場でも認められるようになればいいと思ってますね。そのためには、人と触れ合う対人力、創造性やクリティカル思考などのライフスキルのような大事なスキルを、学校の内外でも育てていけるような環境を作ることができたらいいなと感じています。

玉内
その通りですね。私は国際機関へのキャリア構築とか英語の応募書類や面接手法教えているのですが、国連・国際機関ってやっぱり即戦力のある専門家を求めている職場なので、自分の業績や卓越した対人力やコミュニケーション力などのエビデンスを明確に述べられないと入れないわけです。だから、例えば良い大学・良い会社みたいなネームバリューとか所属で判断はしないし、その名前の属性を取っ払って、自分の成果や強みをアピールする能力が採用の鍵となるわけです。

ところで、ひろしさんの本のメッセージって、やはり規制の枠から出てもいいよ、ステレオタイプを超えようよみたいなのもあると思うんですが、実は、小中高の頃の私は、家庭科が嫌いで工作が好きな女子で、エプロン縫えないけど、畳の部屋に床を作ることに夢中になったりしていました。(笑)

岡本
床作り、素晴らしいですね。やはり、ステレオタイプが日本にもあって、小さい頃から植え付けてしまってるっていう残念な傾向にありますよね。幼稚園の頃から男の子は青色で、女の子はピンク。そして、大きくなると男の子は力仕事で、女の子は料理とかで、そういうのがもうずっと社会でも家庭でも学校でも植え付けられていて、振る舞い方に無意識に影響していると思います。だから、男の子でもピンク系でいいんだよーとか、認めてあげる人がちょっとずつ増えていくと、子供たちも生きやすく育ちやすくなってくるのかなと思いますね。みちるさんみたいな、家庭科が苦手だったけど床を作ったりとか工作をしたりとかの女の子にも好きだったらなんでもいいっていってくれる先生や親がいたらいい世界になりますね。

玉内
柔軟性が大切ですね。私の夫はインドネシア人なんですけど、なんかインドネシアの男性たちは赤とかいろいろな色を着るのに抵抗がないらしく、おかしなことに、歯ブラシをピンクと青と買っておくと、私が使う前に夫がピンクの方を使い始めちゃうんですよ(両者:笑)

あと、刷り込みというか思い込みの一つだと思うけど、英語の苦手意識。いつも、国際機関で働いていたというと、英語がお上手なんですね、どうしたらうまくなりますかって定番のように聞かれますよね。で、この頃は、たかが英語と思うことが大切で、英語の他にもう一つ二つ別な言葉にトライすると良いのではと私はおすすめしています。
ひろしさんは、英語、スペイン語の他にどのような言葉を話しますか

岡本
そうですね、英語と、スペイン語とフランス語と、ポルトガル語と日本語の五か国語と、あと関西弁ですね!(両者:笑)中国語とスワヒリ語、モンゴル語も少しやりました。

玉内
どのようにその語学を五か国語も習得したのですか?
 
岡本
言語学習に終わりはないと思うのですけど、基本的には言語習得がゴールではなくて、言語を使って何かをしたいという、その先にあるから、語学を学ぶのが好きなんですよね。人とコミュニケーションとるのが好きなので僕にとっては、鉛筆やシャーペンと同じようにツールの一つとして言語があるんです。言語を使って何がしたいかっていうところが大切だし、そういったやる気がないとなって言語も続かないと思うので。「継続する力」っていうのも大切なライフスキルの一つですし、好奇心と継続力があれば、言語だって絶対身につきます。

玉内
ひろしさんの本の中で、ニューヨークでの料理人時代の修業の話がありましたね。ご両親がいらしたときに、全部のフルコースを自分で料理して出したいと思って、厨房の方々、スパニッシュ系の方が多かったとのことですが、彼らの協力を得て、自分の腕をふるって見せたというストーリーがあって感激しました。「周りの人を巻き込む力」というのも国際機関では大切で、相手に手伝わせたいと思わせるようなモチベーションを与えるということですよね。

岡本
確かに、語学も仕事も「人と触れ合う力」が大切で、国連の仕事でもなんかいきなり仕事の話よりは、繋がるっていうところからはじまるのかな。逆にそれで、結構仕事がやりやすくなったりするなって思うんですけど。でも料理の仕事は本当に効率を学ばせてもらいました。例えば向こうにある調味料を取りに行って、そのまま素手で帰ってきたら怒られるんですね。無駄にせずに、帰ってくる間にいろいろなことをして、スペースと空間をうまく使うっていうのはすごい勉強になりましたね。

玉内
実は、それも高度なライフスキルなわけですから、何からでも学べるわけですよね?

岡本
そうですね。本当に何からでも何でも学べるんですね。特にこういう時代なので。ニューヨークのレストランということで、スパニッシュ系のスタッフが多かったのですが、やはり出稼ぎで働いて頑張っている方々を見るとことで、途上国の現実っていうのを感じたのも良い学びでした。そして、彼らの言語と文化に興味を持って、彼らが好きになったからこそ、大変な暮らしや国境越えの話とか聞くと、すごいズシンと心に入ってくるものがありました、ニュースなんかで見るのと違って。

玉内
ひろしさんの場合は、人を魅了して巻き込む能力がある気がするのですけども、それはどこから来てるのですか? そういう何かこう、家庭的な環境の影響かしら。

岡本
どうなんですかね。兄が二人いるんですけど、全然違う性格で。あ、父が山に行って仕事をする人なんですけど、この影響があったのか、ありがたいことに僕は好奇心をつぶされなかったタイプの子供でした。山とか自然の中で好奇心が育まれたのがベースとなっているかと思います。旅をするのが好きになって、いろんな人、いろんな世界を見たくなったという感じですかね。でも、そういう好奇心は、子供たちは、産まれながらみんな持っていると思うのですけど、そこをさっきの話に出た、教育とか親とか周りの人がその好奇心を潰してしまうケースがあるというのが残念だと思います。子どものためを思ってのことですが、「あれもダメ」「これもダメ」「これしなさい」と、言いすぎるところもあるかと思います。

玉内
確かにそうですよね。思い込みというかね。自分の思い込みじゃなくて、なんか社会の決まり事のようなもので、疑問に思う暇もなく価値観が構築されるのは、残念です。ところで、たくさんの方々が満足のいく人生と満足のいくキャリアっていうのを望んでいますよね。これから、ますますグローバル人材が必要となると思いますし、今までと違ったキャリアパスをナビゲートしていく能力も大切になってくると感じています

それで、これからの日本人の働き方がどう変わると思いますか? 例えば、この頃若い方々は、本を読むよりも、YouTubeやTikTokから情報を得たり学んでいるとよく聞かれます。本の中で、ひろしさんは終身雇用型の他にも、独立生産性型やポートフォリオ型のキャリアのスタイルが出てきていると指摘されていますが、ひろしさんの考えでは、どのような変化があって、どういうふうに私たちは準備したらいいと思いますか?

岡本
そうですね。業種によって、すごい変化に対応して行くものと、ずっとコンサバティブで現状維持のような感じになってくる業種と差が出てくると思います。でも、コロナ禍でI Tとかデジタルとか、そういうところはすごい時代の流れに乗って変貌をもたらし、テレワークのようないろんな仕事のあり方が当たり前になっていきましたよね、短い間に。9時〜5時の同じ場所のオフィスにいなくて良いのなら、いろいろなことができる可能性が出てきて、それが創造性にもつながると思います。そこで、それそれが「どういう自分になりたいか。」「どういう生活スタイルが自分に向いているか?」を考える必要があって、そのためには「自分」をまず見つめて理解しないといけないと思います。

自己認識がしっかりできたら自分の行く道や働き方のスタイルも少しずつ明確になるし、その後こういうスキルが必要だな、そこに近づくにはどうしたらいいかという気づきも出てきて、いろいろな道が出てくると思います。

玉内
本当にその通りですね。そう発想の転換をすると、選択肢もね、いろいろ変わってくるし、その際、自己認識と自己信頼をが大切だっていうことですよね。

最後にお聞きしたいのは、自己肯定感をどういうふうに伸ばしたらいいかということです。国連の面接技法とか教えていると、やはり、日本人は控えめで、まだまだ自分は若輩者的なメンタリティがあったりします。ひろしさんから見て、自己肯定感を育てる秘訣とかコツとかありますか?

岡本
やっぱり私の本で書いた「すきやり」という自分の「好き」なことや、「やり」たいことを、仕事以外でも仕事の中でも見つけてで、それを大事にしていくっていうことですかね。それがなかったら、とりあえずなんかやるっていう、で、何かやったら絶対やり続けてみて、すると何か形になったり、学びになったり、成功につながったりしてするので。

それから、難しいのですが、人と比べすぎないということですね。「自分を見つめて創造・行動していく〜さらに、失敗から学んで新しいことをして〜自分を見つめて」というサイクルとしてずっとやっていくことが大切だと思います。例えば、自分はこういうことしてるんだな、そしてこういう結果が出てたり、学びがあるんだなあっていう「行動と認識」の両方のサイクルがあると、自然となりたい自分が少しずつ現れてくるのかなと思います。

玉内
今日は、いろいろ興味深いお話、ありがとうございました!

岡本
こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました!



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