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雑記:Ecotecエンジンとロータス

ヨーロッパSが搭載するエンジンは「Z20LER」という、GM・オペル製2Lターボエンジンです。「Z20LER」エンジンは、GMⅡファミリーと呼ばれる、GMグループ内の複数の自動車メーカー間で使用される汎用エンジンの、沢山ある派生の1つです。元となるのは開発コード「L850」と呼ばれるプロジェクトであり、当時アメリカ、イギリス、ドイツ、スウェーデンと幅広い国籍のエンジニア達。そして何より巨大なGMグループの複数の企業(GMC、シボレー、キャデラック、ビュイック、ポンティアック、ホールデン、サターン、SAAB、オペル、ヴォクスホール)を巻き込んだ一大プロジェクトでした。

目的は1つ。
『次世代の汎用型エンジンの開発』です。


これはロータリーエンジンの様な小型で独創的でハイパフォーマンスなエンジンであったり、フェラーリのV12エンジンの様な官能的な芸術品の様な代物ではありません。もっと泥臭くて、地味で、頑丈で、しぶとくて、何処にでもあって、何にでも積まれていて、何時でも当たり前の様に動く。そんな当たり前の様なエンジンです。何故この当たり前なプロジェクトが、10社近くのメーカーが参加する大規模なものになったのか。GMの思いは『世界中で生産されるエンジンの数を減らしたいこと』でした。巨大なGMグループの中で、各メーカーはそれぞれ独自にエンジンの開発を行い生産していました。ですが、それは複数の企業の開発・生産コストの無駄でしか無かったのです。使いやすく、頑丈で生産コストの低い、安価なエンジンの設計開発を行えば、複数の企業同士でエンジンを共有出来ます。そうすれば、無駄な開発コストを削減し尚且つ生産拠点を一点に集中しつつ大規模かつ安価に量産出来るはず…。それこそがGMの思惑であり、このプロジェクト「L850」なのです。ですが、元は別の会社ですし国籍も異なる企業も少なくありません。「L850」、この数字は最初の設計から実に850回もの改訂がなされたことから付けられたナンバリングとまで揶揄されています。それだけ前途多難なプロジェクトでした。そしてそのプロジェクトをまとめあげ、2022年現在も使用されるEcotecエンジンを完成させたのは、何を隠そう「LotusEngineering」。ロータスの技術開発部門でした。


当時GM傘下のLotusの技術開発部門である、LotusEngineering(めんどいので以下カナで表記)は、様々なエンジンの開発をOEMで行っていました。彼らはC4コルベットのLT51エンジンも開発していました。

また、ロータスはエスプリにも自社開発したV8エンジンを搭載してましたし、エンジン開発についての高いノウハウは世界に証明されていました。

そんな彼らに白羽の矢が刺さるのはある意味当然のことだったかも知れません。とにかくロータスは世界的なグループ企業の、数多の自動車メーカーから派遣されたメカニックをまとめあげ、彼らが納得するエンジンを作り上げる必要がありました。
ロータスエンジニアリングのローランド・リースはこう話します。
「アメリカ、ドイツ、スウェーデン、そしてイギリス。この4つの国籍の人種を満足させるのは大変な事でした。」
アメリカではV6、V8のエンジンが好まれていましたが、ヨーロッパではその逆です。また、アメリカでは高速巡航時の高燃費と低回転でのパワフルなトルクを好みます。ですが、ヨーロッパでは最高速度でのクルージングを好みます。
開発の障害は国籍の違いだけではありません。グループ企業とは言え、元は別企業です。彼らは企業の生命線と言えるエンジンの技術を秘匿し、他の企業を産業スパイと思い込み、頑なに供与を拒みます。いやまぁ当たり前ですけどね。
そこで彼らを繋いだのがロータスエンジニアリングでした。1994年に始まった「L850」プロジェクトは、そうした企業間の衝突を、ロータスが取り持つこと5年、アルミ鋳造ブロックを持つ2.2L4気筒DOHCエンジンは産声を上げました。

ですが、これは後に20年以上も続くEcotecエンジンの序章に過ぎません。このエンジンは後に1.8L、2.0L、2.4Lと排気量を変え、ターボや気筒直接噴射、可変バルブ機構時代に合わせた様々な技術を取り入れ進化し続けています。
アメリカ向けとヨーロッパ向けでは、そのエンジンの部品を実に85%も共有化しながらも、アメリカ向けのモデルはギア比を低く設定したり、ヨーロッパ向けはエンジンの圧縮比をアメリカ向けの9.5:1と比較し10:1と高く設定していたりと現地でのガソリンの質に合わせた細かい設定を行っている。
大枠での部品は共有しつつも、各エンジンのユニットを時代や国、そして搭載する車両に合わせてグレードアップすることにより、Ecotecエンジンはセダン、ワゴン、ハッチバック、SUV、そしてライトウェイトミッドシップの心臓部として幅広く採用されました。日常の普段使いからドラッグレース用の1450馬力のハイパフォーマンスまで、幅広く愛されるこのエンジンは、1999年の初登場から2022年の現在に至るまで生産・運用されています。
最も身近で最も地味なEcotecエンジンは、世界中の人々の日常に寄り添うエンジンです。
性能重視の輝かしい栄光を持つエンジンではありませんが、正しくグローバルエンジンと呼ぶに相応しい高い汎用性を示しました。

かつてロータスヨーロッパは庶民でも買えるミッドシップスポーツカーとしてリリースされました。
それから数十年、復活したヨーロッパSは価格も高く、エリーゼ・エキシージ様なスパルタンさ、レーシーさは持ち合わせておりませんでしたが、搭載するエンジンはロータス製。
エスプリ以来、実に10数年ぶりに全ての基本コンポーネントをロータスが開発した最後のピュア・ロータスです。
頑丈で使い勝手の良い性格は、間違いなく初代ロータスヨーロッパの復活と言って良いでしょう。


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