湯けむり夢子はお湯の中 #1 瞑想館　【お話】

　オリオン座がくっきり浮かぶ夜空。水面みなもに揺らめく灯籠の灯り。風に煽られ、走るように目の前を横切る湯けむり。

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　こんばんは、湯川夢子39歳。温泉ではタオルを頭に載せる派です。
　今宵は、日帰り温泉『瞑想館めいそうかん』さんにお邪魔しています。

　泉質はざっくりとアルカリ性。関節症、筋肉痛、打ち身、リウマチ、冷え性、痔、自律神経失調症、不眠症などに良い…のだと効能書こうのうがきにあります。

　先ほどまで、3階にある岩盤浴にて瞑想めいたポーズをとっていたのですが、一向にモヤモヤが解消しません。

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　今日会社で、入社一年目の神林かんばやしくんに「おかあさん」って呼ばれました。無意識にポロッと出ちゃった感じのやつです。
　言ったあとで慌てて彼は「すみません！間違えました！」とペコペコ頭下げていたけど…。もう４回目です。「おかあさん」って呼ばれるの。

「あー、私もよく“ママ～！”って園の子に言われるよ」
　保育士をしている友達の栄子がそう慰めてくれましたが、園児に言われるのと23歳の社会人に言われるのとでは受け取る側のダメージがだいぶ違うではありませんか。

　思いきって「私、そんなに神林くんのおかあさんに似てるの？」って笑いながら聞いてみたんですけど、そしたら彼、なんて答えたと思います？

「いやその…どっしり構えてるところとか、クリームパンみたいに柔らかそうな手とか…」

　どうやら彼は、頼りがいがある女性…的なニュアンスを伝えたかったようなのですが、ならば最後のクリームパンのくだりは要るのか？って。

　真っ赤になって頭を掻く神林くんと、一部始終を聞いてハッハッハと手を叩いて笑う同僚に課長。私も笑いすぎて涙出ましたわ。グスン(;_;)

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　露天風呂っていいですねぇ。
　少しのぼせてくる頃、上半身を段差に預けて空を見上げます。自分の肩や腕からもうもうと立ち上る湯気もまた良き。

　なにさ！ほら、お肌だってこんなにツルツルなんだから！撥水コートかけたみたいに水玉弾いてるし！

　おっといけない。ここは『瞑想館』でした。
　湯に浸つかり、星空の中、己を見つめ直す。
　夢子、カームダーゥン…カームダーゥン…。

　どこからか枯葉がヒラリ、湯の中へ落ちて浮かびます。

　結構なお湯でございました。本日はこのへんで。

♨️ おしまい ♨️

最後まで読んでいただき、ありがとうございました🍀