見出し画像

小林富雄教授に聞く、日本における食品ロスの現在地と、理想的な未来への歩き方

「もったいない文化」があるはずの日本で、なかなか進まない食品ロス問題の解決。食品ロスに結びつく意外な原因や、解決に必要なマインドなど、日本女子大学 小林富雄教授に伺いました。

小林 富雄教授
1973年富山県生まれ。生鮮食品商社、シンクタンクなどを経て2022年より日本女子大学家政経済学科教授。専門分野はフードシステム論、マーケティング論。農業から消費に至る新しいフードシステムを解明する研究を行っている。作り手と食べる側の気持ちの良い関係づくりを目指す「ドギーバッグ普及委員会」委員長も務める。


「食品ロス」イコール「コミュニケーションロス」

食品ロスは、出したくて出している人はいないのに、長い間解決できていない問題です。では、なぜ食品ロスが出ているのか。原因は食べ物を残してしまう行為そのものにもありますが、私はコミュニケーション不足も原因の一つと考えています。

例えば、夕食が用意されているのに外で食べて帰ったときに「明日食べるね」と、作り手の気持ちを考えた言動が取れる関係性が築けているか。
急な予定などで食べられないことも当然あると思います。手をつけなかった料理の行き先は、声を掛け合うか否かで次の日の誰かの食事になるか、廃棄されてしまうのか、大きな違いが生じます。

外食先ではどうでしょうか。
料理が残ってしまいそうな時、お客さんの中には持ち帰りたいと思う人もいると思います。しかし「持ち帰る=ケチ」のイメージが根強く、恥ずかしさもあってお店には言いづらい。一方でお店側も、思わぬクレームやトラブルを引き起こすかもと懸念し、お持ち帰りを提案することができない。

消費者も店側も忖度している状況ですが、双方が希望を口にし、コミュニケーションが取れればその食べ残しは食品ロスにならなかったかもしれません。つまり、コミュニケーションロスが、食品ロスを引き起こしていると言えます。

「買い物は投票」の意味を深掘りしてみよう

私は著書『食品ロスはなぜ減らないの?』(発行/岩波書店)の中で、「買い物は投票」という言葉を使っています。「投票」と聞くと、「私はこれを買う」「私はこれを選ぶ」といった表面的なことをイメージされるかもしれませんが、投票(購入)するからには商品の生まれた背景やプロセスにも興味を持ち、知った上で買っていただきたい、との意味が含まれています。すぐ食べるから値引きシールが貼られたものを買う、賞味期限が迫った食品を集めた専門店を選ぶ、特売の商品であっても自宅にストックがあるから今日は買わない、ということも「投票」の一つの要素です。

小林 富雄.食品ロスはなぜ減らないの?.岩波書店, 岩波ジュニアスタートブックス,2022

加えて、投票は1人で完結することではありません。結果を集計し、その投票が社会全体に何をもたらしたのか、ということまで考えるべきとの思いを含め、買い物に「投票」という言葉を使っています。
食べることと無関係の人はこの世にいません。だからこそ一人ひとりが自分に合った「投票」を行い続けることで、食品ロスの削減につながっていくと考えています。まずはその食べ物がどのように育てられ、作られ、ご自身の元に届いたのか、どう売られていたのかに興味を持つことからはじめてみませんか。

食べることと密接に関わっている食品ロス対策は、楽しく取り組まなければ続けることが難しくなります。

例えば、食べたことのない食品が半額だったので買ってみることを、「未知なる食品との出会い」と捉えてみること。外食の席で食べ残しが発生しそうな場合、お店の方とコミュニケーションを取って持ち帰りが可能か聞いてみること。規格外野菜を選んで購入し、おいしく料理して周りの人と共有してみること。これらも立派な食品ロス削減対策です。

まだ食べられるものを捨てない、残さないということ以外にも、できることがあるとお分かりいただけると思います。こうした小さな積み重ねも、参加する人が多くなればなるほど結果が伴ってきます。

本気を伝えるクリエイティブが、社会を動かすはず

食品ロス解消につながる行動は、内発的に行うから意味があるもの。だからこそ、クリエイティブの力は大事だと思います。

私は現職の前に、マーケティングリサーチ会社に勤務していました。仕事柄、一般消費者にデータや現象をどうしたら伝わるかを常に考え、その手法の一つとして、ビジュアライズする重要性を意識するようになりました。
その後大学教員になり、メディアに出ることが増えてからも、学生や一般の方々に食品ロスの問題が「どう見えているのか」「私の発言がどう感じられるのか」を考えて、アウトプットするようにしています。

例えば江戸時代には、夏に売り上げが伸びない鰻屋からの相談に、発明家の平賀源内が『本日、土用丑の日』と書いた張り紙をするよう提案しました。これは思考のスイッチを切り替え、アウトプットを工夫し、当時の人々の心を掴んだ食品ロス解消に導くクリエイティブの一つ。現代も文化としてしっかり根付いているほどの大ヒットキャッチコピーです。

現在、メディアやスーパーなどで、食品ロス対策に関する取り組みが紹介されることが増えてきました。捉え方は人それぞれですが、広告や啓蒙活動で強制されることに興醒めしたり、反発したい気持ちが湧いたりする方もいらっしゃるかもしれません。そうした気分にさせるのは、おそらくそれらの広告や啓蒙活動から「本気度」が伝わってこないからではないかと個人的には考えています。
時には皮肉や過激なものもスパイス的に組み込みながら、食品ロスを社会の問題として提起し、解決する取り組みを社会に溶けこませるような表現を見つけて欲しいと思います。

取材を終えて - (左)小林教授 (右)ロスをロスするProject 明石麻穂


執筆:森千春(株式会社ワードワーク)
取材:明石麻穂(ロスをロスするProject
   森千春(株式会社ワードワーク)
撮影:鹿島祐樹(株式会社エンビジョン
イラスト:三橋元子(ロスをロスするProject

※この記事は、2023年6月1日にロスをロスするProjectのWEBサイト「ロスは、きっとロスできる」に公開した記事をnote用に編集したものです。

WEBサイトも続々更新中ですので、ぜひご覧ください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?