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#短編小説
いつか忘れる話(小説)
夫がトイレに行くというので、大型ショッピングモールのレストラン街を時間つぶしになんとなく歩き始めた。抱っこひもで眠る娘の頭ががくんと後ろにのけぞっている。額の寝汗を指でぬぐった。娘がむずがるように言葉にならない声を出す。上下に動かすと首がゆさっゆさっと揺れるのが心地よいのか、また、娘は眠りの世界に落ちて行った。
弾むように歩く。行き交う人を見るともなしに見て、レストランの食品サンプルを見て、また、
Dear My Sister(小説)
「たぁこちゃん」
小さな子どもの声というのはとても独特だと思う。休日のショッピングセンターや昼間の公園、そういうところから聞こえる彼らの声は決して私の世界とは交わらないと思える。甲高いとは違う、媚をうる女の声とも違う、滑らかで甘いザラメの付いた飴玉のようで、タマゴボーロのようで、小さなキーホルダーのようで、でもどれでもない、軽やかなひねりを持った声だ。その声に、自分の名前を呼ばれたことにどぎま