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short stories

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#掌編小説

時代のはざまで(小説)

濃紺の遮光カーテンは分厚いのに、外の光を受けて透き通っている。淡く、部屋中が青く染まっていて、まるで海の中のようだ。ぴちゅぴちゅと聞こえる鳥の声は幻想的で、私は自分が夢の中に揺蕩っているような気もしていたし、意識は明晰で何のわだかまりもなくまぶたもひらくので、あっと驚くほど美しい目覚めを迎えているのにも気づいていた。でも、すぐに起き上がるのはなぜか悔しくて、もう一度目をつむる。が、二度寝の余地はな

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短歌に寄せる三つの掌編(小説)



たまごサンドをつくろうと思ったのだった。市販のサンドイッチはどこか機械めいた匂いがするから、サンドイッチだけでなく、市販の食べ物なにもかもが機械めいた匂いがするから、なんでも作ろうと思ったのだった。

蛇口をひねり、細く水を流しながらたまごの殻をむく。朝六時半。台所にある給湯器横の窓から、朝の静かな光が注いでいた。隣人の部屋から目覚まし時計が鳴る。止まる。動く音がかすかに聞こえた。知らない隣

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