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【パロディ】東海道中膝栗毛_初編(4/8)

飯盛女めしもりおんな代節約のため父子おやこごっこを始めた弥次・北は、戸塚で宿をとることにしました。

戸塚は、宿の客引きが半端ないことで有名な宿場町なのですが、二人の元には誰も勧誘に来ません。

もしかしたら僕たち、気持ち悪がられてるのかな...と、北八が心配し始めたころ、通りがかった旅籠屋の前にいる女中さんらしき人に、弥次さんが、
「今晩空いてます?」と、声をかけました。

聞き方がいやらしかったからでしょう。女中さんは、
「今晩は貸し切りです。合宿あいやどはお断りしております」と、冷たく言い放ちました。

どうやら戸塚宿は今夜、満員のようで、どんなに捜し歩いても先ほどと同じように断られ続け、一向に宿泊先が見つかりません。

実は満員っていうのは嘘で、戸塚宿の全宿から嫌われてんじゃねぇか...? と、北八が心配し始めたころ、宿の場末で、弥次さんが空いていそうな旅籠を見つけ出しました。

「今晩泊まれますか?」
弥次さんは、宿の亭主に聞きます。

「お二人さまですね。さぁどうぞ、お泊りください。戸塚宿の旅籠屋はみんな満員ですが、当宿だけは空いております」

えっ? それ、どう考えても怪しいだろ。他は満員なのに、なんでここだけ... と、北八が訝しんでいると、弥次さんが、
「こんなに綺麗な旅館なのに、どうしてでしょうね?」と、無邪気に疑問を投げかけました。

「当宿は今日が開店初日でして、あなた方が初めてのお客様なのです... おい、なべちゃん! 早くお客様に洗湯を差し上げて!」
亭主がそう言うと、女中・なべちゃんが、湯で満たされたたらいを持って来て、代わりに、弥次・北の柳行季やなぎごうりと風呂敷包を座敷へ運んでいきました。

二人も座敷へ上がろうという段になった、そのとき。
北八が驚くべき提案をしました。
「弥次さん...じゃなかった、父さん、お前の草鞋わらじも僕のと一緒に括っておこうか?」

ちょっと “草鞋わらじを括る” というのが気になりますが、江戸時代には、草鞋わらじのストラップをどこかに括りつけて玄関に置いておく風習でもあったのでしょう。
しかし、問題はそこではないのです。

リアル北八はイタリアで生活しているとき...
「なぁアンドレア! 僕の靴がないんだけど、どこかで見なかった? あぁもうイライラするなぁ! なんでこうしょっちゅうなくなるんだよ!」

「靴は決まった場所で脱げっていつも言ってるだろう! どうして君は俺の言うことを聞かないんだ!」
...といった感じで、リアル弥次さんに怒られます。

その北八が、自分から、しかも弥次さんの分まで、靴を揃えて脱ごうとしているのです。
これは少し大げさに褒められて然るべきです。

しかし弥次さんは、なんと、こんなことを言い出したのでした。
「ついでに俺のゲートルもすすいどいて」

「は? 僕が? お前のゲートルをすすぐの?」
北八はそう言って弥次さんを睨みつけます。

弥次さんは北八を睨み返し、
「親の言うことは聞けよ」と、言いました。

「...わかったよ」
北八は短く答え、弥次さんからゲートルを受け取ります。
「そもそもゲートルって何だよ、脚絆きゃはんだろ。ゲートルなんて言ったら一気に軍隊っぽくなるよな... イタリア軍の元兵士にあんな顔で睨まれたら、言うこと聞くしかないじゃん。ガチで怖いんだけど...」
彼はそんなことをつぶやきながら、ゲートル...じゃなかった、脚絆きゃはんをすすぎました。

こうして、座敷に上がった二人は、お茶を持ってきた女中さんの顔をまるで庭石のようだと揶揄して笑い合い、風呂に入って、酒を飲みながら食事を始めます。

女中さんが銚子のお代わりを持って座敷に入ってきた、そのとき。
いい感じに酔っぱらった北八は、
「あんたも一杯飲みなよ」と、女中さんに酒を勧めました。

「いえ、わたしは結構です」

「そんなこと言わずにさ。ねぇ、今夜一緒に遊ぼうよ。 このさかずきはその印...ね?」

弥次さんは見かねて、
「すみません。息子はもう酔っぱらっているみたいで」と、割り込みます。

すると北八は、今度は弥次さんに絡み始めました。
「なぁに言ってんだよ。むしrrrrrroすげぇ強くなったような気がすrrrrrru。親父、お前のツrrrrrra、マジでわrrrrrraえrrrrrruんだけどwww」

江戸弁、そしてイタリア語のお家芸である巻き舌でふざけ始めた北八に恐怖を感じた女中さんは、なんとかさかずきを飲み干し、それを生酔いの北八には返さず、弥次さんへ渡します。すると北八は、
「ぉお、このクソ親父。彼女からご指名だ」と、弥次さんに言い放ちました。
そして、女中さんに、
「なぁ、お嬢さん、こいつのあとに僕がいること、忘れないでよね」と言いながら抱きつこうとしましたが、彼女は驚きのあまり、その場を逃げ出してしまいました。

...リアル北八は下戸ですので、このお話は完全なる虚構ですが、それでも、他人事とは思えません。なぜなら、今回の北八は、まるで僕の弟を見ているかのようだからです。

リアル北八の弟は、いわゆる酒乱です。
その事実が白日の下に晒されたのは、彼が小学校6年生のときでした。

3月のある夜。僕の父親が残業を終えて会社から帰ってくる途中、道路で騒ぎながら歩いているガキの群れと出くわしました。
集団の中心には、完全に様子のおかしい一人の少年が、別の少年二人に体を支えられ、引きずられるように歩いています。

そう。この完全に様子のおかしい少年こそが、卒業式の打ち上げでベロベロに酔っぱらった僕の弟だったのです。

翌日、弟は母さんにめちゃくちゃ怒られ、自室を抜き打ちチェックされました。
すると、どうでしょう。机の引き出しやベッドの下から、酒とたばこが大量に出てきたのでした。

そうです。僕の弟は不良だったのです。

なんということでしょう... 天使のような兄に、悪魔のような弟...

それ以降も、この悪魔のような弟は、親の監視をかいくぐり、飲酒・喫煙を続けます。
しかし、泥酔してゴミ捨て場で寝ているところを警察に保護されたり、酔っぱらった勢いでケンカをして警察に補導されたりして、結局母さんにバレてしまうのでした。

ある日曜日の昼。弟の悪事を告げる警察からの電話を切った母さんは、その場で泣き出してしまいました。すると、父さんが、
「とりあえず保護されてよかった。迎えに行く前に外で食事をしていこう」と言い出したのです。
ちょうど家にいた僕も、食事だけは一緒に連れて行ってもらえることになり、ハンバーグとエビフライとイチゴのパフェを食べました。とても美味しかったです。

...なんということでしょう。脱線しているうちに、2,600文字を超えてしまいました。
これから話を戻すわけにはいきませんので、今回はこの辺で筆を置こうと思います。
ご清聴ありがとうございました。