【パロディ】東海道中膝栗毛_初編(6/8)
前回のお話は僕の愚痴が主体でしたので(温かいお言葉を下さった皆様、心より感謝申し上げます)、今回こそ物語を進めたいと思います。
小田原の手前には宿の客引きがたくさんいて、弥次・北はその中の1人と話をつけ、連れ立って今夜宿泊する旅籠屋へ向かいました。
宿に着くと、女中さんが洗湯を運んできます。
彼女の顔を一瞥した弥次さんが、北八に囁きました。
「見て。最高に美味そう」
「彼女は僕の今晩のおかずなんだから、手、出すなよな」
「図々しいこと言うな。彼女は俺のものだ」
「...お前なに動揺してんだ。草鞋履いたまま足洗うなよ。桶のお湯が泥で真っ黒になっちゃっただろ」
そんなこんなで二人は座敷へ上がり、その女中さんが柳行李や三度笠をひとまとめにして床の間へ置くと、北八は、
「ねぇ女中さん、煙草盆に火を入れてきてよ」と言いました。
彼女が頷き 二人に背を向けると、弥次さんが、
「『煙草盆に火を入れる』だって? 君は本当にばかだな。煙草盆に火を入れたりしたら焦げるじゃないか。『煙草盆の中にある、火入れの中に火を入れる』と言うべきだ。言葉は正しく使えって、いつも言ってるだろう。それに、女性に向かって『入れてきてよ』とはなんだ。『入れてきてください』だろ」
と、北八に絡みます。そして、北八が何か言い返す前に、
「ところで、腹減ったな。今から飯を炊くのかな?」と、続けました。
北八は、こいつ、リアルでもバーチャルでもほんと言うこと変わんねぇな、と思いつつ、別の理由で右の口角を上げ、口を開きました。
「『言葉は正しく使え』って言ってるやつがそんなこと言うのって、どうなの?」
「...何が?」
「飯を炊いたら粥になっちゃうじゃん。『米を炊く』って言うべきだろ」
本編では、弥次さんが、
「ばかなこと言うなよwww」と返し、和やかな雰囲気になっていますが、リアルでこんなことが起こったら、一触即発の場面になっているところです。
それはともかく、二人がじゃれ合っていると、女中さんが煙草盆を持って戻ってきました。
北八はそれを受け取りながら、
「ねぇ、お湯ってもう沸いた? 僕、早く風呂に入りたいんだけど」と言います。
すると、ここぞとばかりに弥次さんが、
「お湯が沸いたら熱すぎて入れないだろ。水が沸いてお湯になったら入らないとね」と、会心のドヤ顔で宣いました。
リアル北八でしたら、「てめぇ人の揚げ足ばっかり取りやがって!」と、155cm以上160 cm未満の身長で、193cmの相手の胸ぐらを掴みにいっているところですが、本編では、揶揄されたことに腹を立てるどころか、甘んじてとはいえ一番風呂を弥次さんに譲ってあげています。
とんでもない大人の対応です。とても真似できそうにありません。
ちなみに、僕の部屋は、日本では母さんが、イタリアではリアル弥次さんが掃除をします。
今年24歳になる男がこれでは、確実に世間からマザコン認定されてしまいます。
僕も、「勝手に他人の部屋に入んな。掃除なんかしなくていいから」とは言うのです。しかし、二人は、開けっ放しのドアから垣間見られる僕の部屋の散らかりように耐え切れず、手を出すべきではないと分かっていながら、つい介入してしまうとのことでした。
一方、混雑した電車やエレベーターの中などで、他人*の衣服やかばんなどが自分の腕や足に触れることには耐えられません。[*家族・友人は大丈夫です。noteでやり取りさせていただいている皆様は友達ですので、混雑した車内で僕を見かけることがございましたら、お気軽にお触りください(?) ]
万が一、他人の持ち物が自分の体の一部に触れようものなら、冬場であればその箇所をアルコール消毒し、夏場であればトイレに駆け込み石鹸で洗わないと、不潔な気がして発狂しそうになります。
一度、混雑した電車に乗った際、夏だったため、近くに立っていた人の腕が衣服を介さず直に自らの腕に触れたことがありますが、そのときは過呼吸を起こし、次の駅で扉が開いた瞬間 途中下車して、ホームの片隅でしばらくうずくまっていました。
このように、僕は自室が汚くても全く気にならないのですが、実はちょっとした潔癖症なのです。かけ流しでもない限り、誰かが入った後の浴槽に入ることなどできません。
そんなことを知る由もないバーチャル弥次さんは(リアル弥次さんはもちろん知っています)、北八を差し置いて風呂場へやってきました。
そこで見たものは、なんと、上方で流行りの五右衛門風呂だったのです。
僕の稚拙な説明文を読むよりも、ネットで画像検索した方がよっぽど分かりやすいのは百も承知ですが、五右衛門風呂とは、土かまどの上に大鍋をかけ、その上に底を抜いた風呂桶を取り付けて浴槽の水を沸かす風呂のことです。
風呂桶には蓋がなく、底板のようなものが湯面に浮いています。
湯...じゃなかった、水を沸かすときにはそれが蓋の代わりとなり、湯に入るときは、浮いている底板を下に沈めながら、大鍋の底に直に足が触れないように入るのですが... 江戸暮らしの長い弥次さんは、そんなことは知りません。
蓋だと思い込んでいる底板を取り出し、湯に片足を突っ込むと、そのまま べったりと大鍋の底へつけてしまいましたw
「ぁ熱っっっつ!!」
なんだ、これ...? 釜がむき出しになってる... こんな風呂に一体どうやって入れっていうんだ? と、頭の中はクエスチョンマークでいっぱいでしたが、「どうやって風呂に入ればいいのか」なんて、誰かに聞くのも気が引ける...
そこで、辺りを見回してみると、トイレの側に一足の下駄があったのでした。
嫌な予感しかしません。
トイレの側にある一足の下駄...
便所に入るときに使われる下駄に決まっています。
リアル弥次さんの名誉のために言っておきますが、きれい好きな彼は、絶対にこのようなことはしないでしょう。しかしながら、バーチャル弥次さんは、その下駄を履き、五右衛門風呂に入ったのでした。しかも上機嫌で鼻歌まで歌っています。
しばらくして北八が、
「おい、いつまで入ってんだ、いい加減上がれよ!」と怒鳴ると、弥次さんは風呂から上がり、さも楽しそうに 履いていた下駄を物陰に隠してから座敷へ戻りました。