見出し画像

作詩の戦略

日本時間午後9時すぎ。風呂上がり。半裸で髪も乾かさず、横浜の実家からイタリアにいるアンドレアとZoomを繋ぐ。
「お前コメント欄に何であんなこと書いたんだよ!」
開口一番、僕は言った。


※この記事は、日本人の僕とイタリア人の友人アンドレアがイタリア語で交わした会話を、日本語に訳したものです。
ほぼ会話のみで構成されているので、どちらの発言であるかを明確にするため、僕の台詞にはL、アンドレアの台詞にはAを、「」の前に付けてお送りしたいと思います。


A「だって、間違ってたから」

L「そんなこと聞いてねぇよ。何でコメント欄で僕の間違いを指摘したんだ?って言ってんの!」

A「だって、kaekoikが君に色々教えていたから、俺も教えてやろうと思って」

L「公共の場で誰かと張り合おうとするの、やめてくんない? それに、kaekoikさんは別にそういうつもりでコメントしたんじゃないの。コミュニケーションの一環として『神曲』の構成をだな...」

A「それにしても、君の返信コメントは笑えたよ。『神曲』を読んだのに "endecasillaboエンデカシッラボ" で書かれていることを知らないし、音節も正しく分けられていないのに、それがたまたま11音節だったからって、『ほんとだ』って...www」

L「...今言ったことをコメント欄に書かないでくれたのはアリガトウ。でも間違ってることもワッツアップかテレグラムで言えば済むことだろうが!」

A「だって、kaekoikはコメント欄で教えてたもん」

L「kaekoikさんは僕とワッツアップでもテレグラムでも繋がってないからな」

A「まぁ、とにかく。重要なのは君が正しい知識を習得することなんだから、そんなことはどうでもいいよ」

L「よくねぇよ! ネット上で思いっきり無知をさらけ出した僕の身にもなってみろ!」

A「誰も気にしてないって。君以外の全員は君が無知だということを最初から知ってるんだから...」

L「あ゛ぁ?!」

A「じゃぁ君に、君が無知じゃないと証明するチャンスをやろう。"endecasillaboエンデカシッラボ" ってなーんだ?」

L「ばかじゃねぇのか。そんな簡単なこと聞くな。11音節から成るフレーズのことだろ」

A「じゃぁ、”Ora cen porta l’un de’ duri margini” は何音節でしょうか?」

L「O/ra/ cen/ por/ta/ l’un/ de’/ du/ri/ mar/gi/ni だから...12」

A「正解。では次の問題です。このフレーズは "endecasillaboエンデカシッラボ" ?」

L「は? 12音節なんだから違うに決まってんだろ」

A「...ちなみに、君、これが何の一節か知ってる?」

L「...えーっと、それは...具体的な作品名は分かんないけど、この感じだとペトラルカ...かな。多分」

A「どの感じだよwww これはね、『神曲』の一節。つまり...」

L「...endecasillaboエンデカシッラボなのか? でも...どう数えても12音節だろ!」

A「そう。endecasillaboエンデカシッラボは、『11音節から成るフレーズ』じゃない。10音節目にアクセントが落ちるフレーズのことなんだよ」

L「...待って。これって、僕が無知なの? なんかお前、めちゃくちゃ詳しくない?」

A「別に詳しくないよ。高校で勉強しただけだ」

L「...僕は高校で習うような基礎知識もないくせに詩なんか書いて、しかも自分のことをDantinoダンティーノなんて呼んでたのか...」

A「おい、泣くなよ...? ごめん、ちょっと言いすぎた... まぁ、全ての詩がダンテやペトラルカのように作り込まれているわけではないし、そもそも、重要なのは表現するべき内容なんだから、そんなに気にすることない...」

L「ただ単に短文を並べただけの文章を詩とは言わないの! ギミック満載じゃなかったら詩じゃないんだよ!」

A「ギミックって...」

L「でも僕、どんなのがあるか全然知らないもん。こんなんじゃ詩なんか書けないよ。っていうか、各行末尾の単語が韻を踏んでるだけの駄文を自信たっぷりにネットに載せちゃって、どうすんだよ、あれ...」

A「いつかみたいにやけを起こして全部消したりするなよ。せっかく一生懸命書いたんだから... 趣味なんだから、楽しくできればそれでいいだろ...」

L「うるさい...! 普通に戦ったら、僕はダンテには勝てない...」

A「いや、どんなに姑息な手段を使ってもダンテには勝てないよ...」

L「うるさい! 趣味だろうが、どんなに姑息な手段だろうが、僕はダンテに勝ちたいの!」

A「...ローリス、明日一緒に本屋へ行こうか*。作詩を勉強できそうな本を1冊探そう。いいのが見つかったらイースターの荷物の中に入れてあげる」
*Zoomを繋いだままアンドレアが書店へ入り、僕は横浜の自室からモニターを通して立ち読みしたり、店員さんに質問したりします。