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【パロディ】東海道中膝栗毛_發端(2/9)

昔々、今の静岡県にあたる駿州府中すんしゅうふちゅうとかいう所に、弥次郎兵衛やじろべえという人が住んでいました。
”弥次郎兵衛” という名前はちょっと長すぎて入力が面倒臭いので、以降、”弥次やじ” と略させていただきたいと考えております。
え?「辞書登録すればいいだろ」ですって? いえいえ、それさえも面倒臭いのです。

弥次さんの親は結構やり手の商人で、親の七光りである弥次さんはそれなりのお金持ちでした。しかし、女遊び、酒、食べることが大好きな弥次さんは、秒で有り金を使い切ってしまったのです。
ちなみに、リアルの弥次さんも、女の子と酒と食べることが大好きですが、金銭感覚はしっかりしている...というか、いわゆる守銭奴ですので、バーチャル弥次さんのようになってしまう可能性は低いと思います。

さて、バーチャル弥次さんに話を戻しましょう。
ただでさえ金遣いの荒い弥次さんは、ある一人の、非の打ち所がない新進気鋭の美少年を大好きになってしまい、彼に対しても貢ぎ始めたので、ちょっともうガチで生活が立ち行かなくなり、この少年を連れて駿州府中すんしゅうふちゅうを出ていかざるを得なくなってしまいました。
その際、弥次さんが詠んだ歌がこちら(↓)、リアル弥次さんの直筆です。

借金は 富士の山ほど あるゆえに
そこで夜逃げを 駿河するがものかな

うまいっ! “夜逃げをする” と、“駿河者” がかかってる!
ろくでもねぇ主人公だな...と思いましたが、誰にでも取り柄はあるものです。

そんなこんなで弥次さんは、江戸の神田八丁堀に家を借りることになりました。それでもやっぱり酒はやめられず、わずかな貯えもあっという間に使い果たしてしまったのです。
そこで、弥次さんと暮らしていた、非の打ち所がない新進気鋭の美少年は言いました。
「なぁ、僕を大人と認めて元服させてよ。いつまでも子供扱いすんな」

弥次さんは眉をひそめて答えます。
「君を元服させるだって? ベッドメイクもまともにできないのに? 今朝だってまるで動物の巣穴みたいだったから、俺が整えてやったんだ。まったく、君は何度言ったらわかるんだ。朝起きたらまず...」

非の打ち所がない新進気鋭の美少年は、
「うるせぇ。だまれアル中」と、弥次さんの言葉をぶった切りました。そして、こう続けます。
「いいか、よく聞け。僕は元服したら奉公に出る。もう目をつけてる商人がいるんだ。そこで稼げば少しはうちの暮らしも楽になるだろ」

それを聞いた弥次さんは、いよいよ呆れた様子でかぶりを振りました。
「奉公? 料理もできない、食器もまともに洗えない、自分の部屋すら掃除もしない君が?」

非の打ち所がない新進気鋭の美少年は、そんな弥次さんを嘲笑し、自信たっぷりに言いました。
「お前は本当に馬鹿だな。奉公に家事スキルなんていらねぇんだよ。黙って言う通りにすれば、時代も場所も性別さえも問わない年上キラーのこの僕が、お前にいい暮らしをさせてやる」

それから、非の打ち所がない新進気鋭の美少年は、弥次さんに元服させてもらい、さらに、 “ローリス” ...じゃなかった、“北八きたはち” という名前をつけてもらって、とある裕福な商人のところへ奉公に出ました。そして、リアル北八とは違って、本当にそれなりの金を稼ぐようになったのです。
しかし、北八が稼いでくる金も、入ってくるなり食費として消えてしまい、弥次さんの暮らしは一向にまともになることはありませんでした。

ある日のこと。そんな暮らしを見かねた近所に住む友達が、弥次さんに “ふつ” という名前の女の子を紹介しました。
性格には難ありですが、幸いなことに弥次さんは、まぁちょっと腹は出ていますが、アドニスを思わせるかなりのイケメンだったため、ふつちゃんは弥次さんの奥さんになってくれました。しかも、家事や家計の管理もしてくれて、弥次さんをとても大事にしてくれたのです。

...おやおや、どうやら弥次さんの家の前で、ふつちゃんと近所の奥さんが世間話をしているようです。ちょっと耳を傾けてみましょう。

近所の奥さんが、
「ねぇ、奥さま、申し訳ないのだけれど、お醤油を貸していただけないかしら?」と言いました。

ふつちゃんは、にっこり微笑んで、こう答えます。
「あら、それはいいですけれど、”貸す” ということは、そのうち返してくださるということかしら? 同じメーカーのものを同じ量お返しいただけるのなら、お貸ししてもいいですわ」

「まぁ、冗談がお上手ですこと」

「あら、冗談じゃございませんわ。それより、奥さま。うちの酔っぱらいをお見かけになりませんでした? まだ家に帰ってこないんですの」

「まぁ、そうですの... あら、噂をすれば影がさすとはよく言ったものね。ほら、ご覧になって。弥次さんのお帰りだわ」