エイリアンパニック「鏡」

あの宇宙人、また来た。こちらとしてはもうお別れしてしまいたい。うんざりしている。が、どうやら私のことが好きなんだそうで困った。顔に張り付いた宇宙人の仮面と私の顔とを瞬間接着剤なんかで強力にくっつけてくれたらしい。剥がそうにも剥がせないでいる。
頑固で粘着質で奇妙なそれが体力や気力を奪い記憶までも忘れ去らせようと企んでいるのは知ってる。阻止して逃れようとしてようとしてみても、身体は動いてくれないから、あの優しい先生がくれたこの薬を飲んで眠るという生活がここ何日も何週間も何ヶ月も続いていて、元々飽き性な私はこの毎回同じことを繰り返し、眠ってという生活に本当にうんざりしている。
元気な頃は動き周り遊び回り興味から興味へ街を練り歩き知らない場所はないほどである。この辺の街を熟知しているつもりだ。
逃れることのできないこの宇宙人からの脳や身体や心の占領の終わりは見えずにいて、何処まであるのかわからない何も無いまっさらな道を永遠と歩いているようで、何もしていないし、ましてや出来ないのだが、常に疲れていて枯れてしまった心に潤いを与えてくれるオアシス、恵の水を誰かがふっと目の前に差出して助けをくれたらこの地獄から開放されるのかなとかそんなことを考える。降参だー許してくれーマイッタ。と直接大きな声で伝えたいが全くもって私を支配する主には伝わらない。一向に良くならないこの環境や状況から逃げ出したくなる。

真夜中から朝方にかけて外にひとり、出ていき、ぼーっと椅子の上に座り消えかけの隣のマンションの駐車場の電球を何時間も見ていたりした。家から数百メートル離れたところを何度も行き来し、意志と関係なしに独り言が出てくる。ご近所さんに気味悪がられていたのはそのときその一瞬では分かっているのだが、頭と身体がついてこない。私だってすぐそこの自分の家に戻りたいし帰りたいよ今すぐに。恥ずかしいし、嫌なんだよね、と思いながら何も出来ずにうろうろしていた。
家にたどり着くのにまっすぐ道を歩けないのでくねくねとしながら来た道を行ったり来たりしながらやっと帰ることが出来るがすごく時間がかかる。家の周りをうろうろして帰れないでいたとき、父母はそのほんの少しの間、外出中であった。その際にそんなことが起きてしまった。怖かった。

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