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エイリアンパニック「春の気配」

突然やってきたそれは、不気味な宇宙人に遭遇してしまったかのようで、そしてそれは宇宙人と海の中で一緒に遊んでいる時間だったのだと今になって思う。遊んでいる自分に話しかけることは出来なかった。宇宙人。なんのことだか、何が起こっているのか分からなくて何も出来なかった。その声を聞くことや目を見ることが怖かった。

春の気配を感じる。窓の外の桜の花の蕾も膨らみ、今にも弾けてしまいそうだ。鮮やかな花弁をいっぱいに広げて私たちを今年も喜ばせてくれるのだろう。頭が痛い。身体が休まっていないのだ。そして朝の会はいつも眠たい。先生が今日一日の予定を連絡する。話す言葉は右から左に筒抜け状態で頭に何も入ってこない。意識が朦朧としている。本当に眠たい。昨夜は一晩中、よく分からない例の何かに頭を支配されていた。しかしこれは、今に始まったことではない。実を言うとここ1年ほどまともに眠れてない。眠れたとしても1、2時間程だ。課題に追われていたとか、映画を何本も夜中中観ていたとかそんな簡単な誰でも1度はありそうな理由で眠れていなかったのではない。睡眠の質が悪いのは、間違いなくその“宇宙人”が邪魔をしてくるからだ。時計の音が段々と大きくなってくる。この閉鎖された生活空間に独り逃げられずに何時間も過ごすことにもう慣れてきてしまっていた。夜は長い。ぐるぐるぐると、頭を働かせ続けて、暗い考えが身体中を流れているようだった。朝も来て欲しくないが、夜という時間の流れはじっとりとしていて気持ちが悪かった。

机に突っ伏して寝ていた。眠りから冷めたとき、クラスのみんなはもう移動していた。目の前に夕陽がいた。このクラスで唯一、心を開いて話すことができる友達だ。夕陽に朝の会で先生から連絡されたことを聞いた。夕陽は優しい。波長が合い、話しやすい上に、共通の趣味があって、入学当初から仲良くしている。試験が終わったばかりだったからついこの間カラオケに行ったばかりだ。夕陽は歌が上手い。朝の会の連絡内容は進級の準備のため、各教室の掃除を分担して行うということだそうだ。昨夜もよく眠れなかったのだろうと夕陽はなんとなく分かっていたようで、起きるまでの間、少し待っていてくれた。

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