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事例から学ぶ 企業アカウントの運用責任

今回は、今年5月に大きな話題となった小湊鐡道のTwitter公式アカウントの件を参考に、企業が公式アカウントを運用していく上での責任について考えてみたいと思います。

公式アカウントの投稿はなぜ止まった?

小湊鐡道の公式アカウント(@kominatorailway)は、5月20日の投稿を最後に今も沈黙を続けています(2020年6月30日現在)。その最後の投稿は以下です。代表取締役の名前と共にお詫びのメッセージが投稿されています。

これまでは運用ルールの整備が不十分なまま、公式アカウントを運用していたことを明らかにしています。ちなみに、InstagramFacebookの公式アカウントも5月前半を最後に更新されていません。

5月12日、上記の謝罪ツイートに先立ち、公式アカウントの前任の担当者が以下4件の連続ツイートを投稿しています。

連続ツイートにあるとおり、これ以前の投稿はすべて削除されました。なお、プレスリリースでは、会社は削除指示を出していないとしています。

Twitter上では、中の人にも少なからず問題があったように思われます。例えば、以下のような他人の著作権を侵害していると思われるような指摘も確認できました。

小湊鐵道SNS運用、何かしらのコンプラに問われたのかしら。著作権絡みでクリアじゃなかったのか、会社方針とは違ったのか。 実は公式Twitterのヘッダーに使われてたイラスト、トレース前の元画像は自分が撮った写真だったから、二次著作物でかつ企業絡みだったら自分にも一言連絡欲しかったなとも。

今後は企業として運用ルールなど準備を整え、しっかり運用されることと思います。


公式アカウントのフォロワー数推移

ここから、小湊鐵道の公式アカウントの運用について見てみましょう。

この公式アカウントのフォロワー数の推移を以下のグラフに示します。前担当者が担当し始めたという昨年6月には1,000人にも及ばなかったフォロワー数は、17,000人を超えるまでに増加しています。

フォロワー数推移グラフ

特に今年に入ってからの伸びが顕著です。投稿件数も、昨年の7月ごろから30人/月程度、今年に入ってからは200人/月程度にのぼっています。会社も先の投稿を通じて前担当者の実績を評価していることを明らかにしていますが、上記5月12日の連続ツイートからは会社の決定に対する残念な思い・悔しさがにじみでています。


小湊鐡道に関するツイートの傾向

公式アカウントがフォロワー数を増やしている間に、一般ユーザが語る小湊鐡道に関するツイート件数も増加しています。下図は、「小湊鐡道」を含むツイートの日次件数を月単位で平均値を求めたものです。

小湊鐡道ツイート件数月次グラフ

昨年前半には1日4件にも満たなかった件数は、昨年後半には大幅に増加しています。今年1月には15件/日を超えています。Twitter上で「小湊鐡道」の存在感、認知度が高まってきたことを示しています。公式アカウントの運用が少なからず貢献しているものと推察されます。

なお、昨年9月にツイート件数が増大していますが、主な要因は、台風の影響で運行情報の話題が急増したことです。9月30日には、以下の率直なメッセージも話題になりました。


小湊鐡道に関するツイートの拡散強度

この1年間で、小湊鐡道に関する話題で拡散した話題を見てみましょう。

以下のグラフは、2019年7月~2020年6月の期間において、「小湊鐡道」が含まれるツイートの件数推移より拡散強度(※)を求めたグラフです。

小湊鐡道拡散強度グラフ

また、ツイートの拡散が発生したタイミングにリツイートが多かった話題を下表にまとめました。投稿内容を見てみると、ネガティブな話題での拡散は確認できませんでした

小湊鐡道拡散事案一覧

※拡散強度の算出方法については、以下の記事を参考ください。

このような傾向も関係してか、前担当者がその任から外れた際には、

# 小湊鉄道中の人の不当解任に抗議します

というハッシュタグが生まれ、前担当者に同情する意見とともに、前担当者の復帰を求める声が集まっています。


過去に問題を起こしたアカウントとの違い

過去にも、長万部町のまんべくん47NEWSのてくにゃんなど、公式アカウントが閉鎖に追い込まれた事例があります。

まんべくんは、

どう見ても日本の侵略戦争が全てのはじまりです。ありがとうございました

と発信し、「これが長万部町の公式見解か?」と批判を受けました。

てくにゃんは、

死刑は世界に誇れる極刑ニャー!

リンゼイさんのお父上、申し訳ないが日本で無期懲役とは事実上の無罪放免なのですにゃ…

地方自治体やニュースメディアの公式アカウントの発言として望ましくないだけでなく、このような考えを持った担当者に運用を任せていた企業の姿勢も批判されました。これらの公式アカウントは、ネガティブな話題が拡散した結果、廃止に至りました。

小湊鐡道のTwitterアカウントでも、企業からすると望ましくない内容があったのだと思われますが、上の表のとおり一般人からすればさほど問題になったツイートはなかったように思われます。そのような状況もあり、企業への批判内容は、専ら前担当者を解任したことです。

まとめ

すでにページは削除されていますが、小湊鐵道公式アカウントの前担当者は日々の思いをnoteの記事としてづつっていました。今もいわゆる魚拓によってその一部を読むことができます。その中で次のような文言がありました。

(公式アカウントの運用に)
必要なモノ
・ネガティブな批判を受けても楽しんでしまうココロ
・委縮せずにアレコレやる度胸
要らないモノ
・企業公式アカウントなんだからこうあるべき!みたいな固定観念
・上司や役員への忖度

公式アカウントの運用過程で経験したユーザーの反応を学びとして、たどり着いたご自身の見解です。精一杯運用してこられたことが伝わってきます。同時に、組織に頼れなかったという孤独もうかがい知ることができます。

公式カウントを運用するということは、オンライン上に顧客接点を新たに設けるということです。世界中の誰もが入れる新店をオープンするようなものです。利用者は、公式アカウントの振る舞いも含めて企業のイメージを固めたり、理解を深めてたりしていきます

「デジタルの世界はよくわからない!」
「同業他社もやってるから、うちもやらなきゃ。とりあえず、無難に運用しておいて」

などといって、担当者にまかせっきりにする上席者の話を耳にすることがあります。それで、問題が発生したら担当者を責めるのは酷だと思います。それこそ〇〇ハラスメントとラベリングされそうな話です。

公式アカウントを運用するからには、最低限のルールを設けることもさることながら、上席者が公式アカウントを運用する責任を自覚し、担当者の不安や悩みを積極的に聞き、能動的に課題を解決する姿勢がリスク管理の第一歩ですね。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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【書いた人】
福田 浩至
株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理)

多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。