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企業アカウントはネガティブな話題をどう扱えば良いのか?

Twitterの企業アカウントの中には、人間味を出して、読者に親近感を持ってもらおうとするアカウントや投稿があります。最近あまり言葉を聞かなくなりましたが、軟式ツイートなどと言われたりします。

例えば、シャープ(@SHARP_JP)やタニタ(@TANITAofficial)の公式アカウントなどがよく知られています。これらのアカウントはTwitterユーザーと積極的にコミュニケーションをとり、距離を縮め、親しみのある企業イメージを醸し出しています。

企業の公式アカウントをどのように運用するか

しかし、いつも楽しい投稿だけしている訳にもいきません。企業がネガティブな話題を発表をしたタイミングに、公式アカウントが冗談交じりの投稿をしたら批判する人も出てくる可能性もあるでしょう。以前、シャープがリストラを発表した際、公式アカウントでは、運用担当者の率直な「悲しい気持ち」を表現して話題になりました。

企業がネガティブな話題を発表をする必要がある場合、企業のソーシャルメディアアカウントはどのように運用すればいいのか。実際の事例をもとに考えてみましょう。

国産自動車メーカーのリコール情報から考える

ちょうど国産自動車メーカーのリコールに関するニュースを見かけたので、これを例にして考えていきたいと思います。国土交通省は自動車のリコール制度を次のように説明しています。

リコール制度とは、設計・製造過程に問題があったために、自動車メーカーが自らの判断により、国土交通大臣に事前届出を行った上で回収・修理を行い、事故・トラブルを未然に防止する制度です。
(中略)
リコール届出があったときは、プレスリリースを行うとともに、国土交通省Twitter公式アカウントや、審査・リコール課Google+公式アカウントにおいて情報発信を行っております。

このように、国土交通省のTwitterやGoogle+の公式アカウントで情報発信すると定めています。

(注)国土交通省のページにある審査・リコール課Google+のアカウントへのリンクはデッドリンクになっており、アカウントの存在を確認できませんでした。

国土交通省によると、令和元年度のリコール届出件数は国産車229件、輸入車186件です。毎日1件以上の届出があることになります。

下表は、今年の4月1日から6月20日までに届出があった国産自動車メーカーのリコール情報のうち、自家用車を対象としたものです。先の説明のとおり国土交通省のTwitter公式アカウント(@MLIT_JAPAN)ではすべてての届出を投稿しています。該当するツイートに対するリツイートといいねの件数を右2列に記載しました。

リコール一覧

この中から、6月に届出を出しているスズキとホンダのTwitterアカウントを詳しく見てみましょう。

スズキのTwitter公式アカウントの発信状況

スズキは四輪公式アカウント(@suzukicojp)はフォロワー14.6万人です。リコールを届け出た6月18日の投稿を見てみましょう。以下です。

リコールの話には一切触れていませんね。リプライは3件寄せられていますが、リコールに関連することは一切ありません。なお、翌日6月19日の以下の投稿もリコールにはまったく触れていません。

ただし、1件だけリコールに関するリプライが確認できました。

リコール多過ぎだよ
認めるだけまだマシだけど

ホンダのTwitter公式アカウントの発信状況

次に、ホンダのTwitter公式アカウントを見てみましょう。ホンダの公式アカウント(@HondaJP)はフォロワー数は23.2万人です。こちらもリコールを届けた6月4日の投稿を見てみましょう。

投稿は以下の2件です。リコールの報告を投稿しています。6月4日にはこの2件以外の投稿はありません。

それぞれのツイートに対する、リツイートは94件と104件、リプライは13件と11件でした。いずれのリプライも「凍結されたアカウントによるツイートです」というメッセージで表示されないものが大多数を占めますが、閲覧できるツイートには、次のような意見がみられます。

ホンダファンですがリコール多過ぎです
残念です
品質管理しっかりしてください!
応援してます!
エアバックの時といい、安全装置にたいして軽視してませんか?普通そんな部品でのリコールなんて考えたくもないです。どんな些細な事でも。本田宗一郎氏が生きてたら、怒鳴り声と一緒にスパナ飛んできますよ。

お叱りにあたる声ですが、ホンダに対する愛情も感じられる意見です。いずれにせよ、リコールを報告するツイートがネガティブなツイートを生み出していることが分かります。

リコールに関連するツイートの傾向分析

それそれの自動車メーカーのリコールに関するツイート件数推移を下図に示します。各メーカー名と「リコール」の両方の単語を含むツイートをSocial Insight(ユーザーローカル社)を用いて収集できた件数をグラフ化したものです。

リコールツイート件数グラフ

拡散規模をトレンド方式で計測するとホンダが58.5に対し、スズキは814.7となりました。スズキの話題のほうが拡散したことが分かります(※注)。

もっともホンダはエアバック装置とシートベルトに関係する内容で対象は1万台もありません。一方でスズキは、エンジンや緩衝装置に関係する内容で対象は115万台。リコールの内容も影響範囲も大きく異なるため、単純な比較はできませんが、影響範囲の割にホンダの話題が多かったように感じます。

※注:トレンド方式、拡散規模の算定方法は下記記事をご参照ください。


スズキの話題の拡散を強めた最大の原因はニュースサイトのツイートです。最もリツイートが多かったのは、産経ニュース(@Sankei_news)からの以下のツイートです。211件のリツイートが発生しています。

下表は、6月18日のスズキのリコールを話題にしたツイートのリツイートの多い5件を示したものです。

スズキRTランキング

産経ニュース以外に、Yahoo!ニュースの記事のリツイートや自動車情報サイト、レスポンス(@responsejp)やCarwach(@car_watch)の公式アカウントからのツイートも数多くのリツイートがされています。

同様にホンダも見てみましょう。下表は6月4日のホンダのリコールを話題にしたツイートのリツイートの多い5件を示したものです。

ホンダRTランキング

最もリツイートを生み出したのは、既に紹介したホンダ公式Twitterアカウントから発信された2件のツイートです。自動車情報サイト、レスポンスやCarwach、もちろん国土交通省の公式アカウントからも発信していますが、リツイート件数は公式Twitterアカウントからのツイートには及びません

まとめ:ネガティブな話題をどう扱えばいいのか?

今回比較したケースにおいては、ホンダはTwitter公式アカウントからリコールの情報を発信していますが、スズキは発信していません。国土交通省も、リコール情報を公式アカウントで必ず発信するようには求めてはいません。

では、どちらが適切な運用なのでしょうか?

例えば、自分が該当するメーカーの自動車を持っている場合、愛車がリコール対象か否か、対象であった場合にはどのような問題があるかいち早く知りたいでしょう。そもそもリコールの届出はできるだけ早く対象者に伝え、速やかに対応をしてもらうことが目的です。該当メーカーの愛車のオーナーがたくさんフォロワーにいるアカウントであれば、リコール情報の発信は制度の目的にも沿った運用です。

一方で、Twitter企業アカウントとの交流を楽しんでいるユーザーや他メーカー車のオーナーにとっては、リコール情報にはさほど関心はないでしょう。このような情報が届くと、アカウントから離れたくなるユーザーもでてくることも考えられます。

つまり公式アカウントの「目的」「最も交流を深めたいユーザー」によって、企業のネガティブな話題を公式アカウントで発信することが望ましいのか否かが変わってきます

これらの事例は、自社アカウントの運用方針を定める上で参考にすることができます。適切な運用方針を立てるためにも、アカウントを運用する目的と交流したい対象をしっかり定めることが大切です。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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【書いた人】
福田 浩至
株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理)

多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。