見出し画像

事例で学ぶ!企業アカウントが話題のトピックを扱う時の注意点

コロナウイルスの感染拡大は医療や経済だけでなく、人々の食生活に大きな影響を及ぼしています。マクロミル社が6月に調査した「新型コロナによる食生活と健康に対する意識調査」によると、料理をする頻度が増えたと答えた人は約50%(*1)にも及んでます。

(*1)質問「自宅での料理はご自身がメインで行っていると回答した方にお聞きします。2020年4月以降、それ以前と比べてご自身で料理をする頻度は増えましたか?減りましたか?」に対して、「かなり増えた(22.1%)」、「やや増えた(27.8%)」、「変わらない(48.0%)」、「やや減った(1.7%)」、「かなり減った(0.4%)」の5段階のリッカートスケールで回答を求め、「かなり増えた」と「やや増えた」の合計割合(49.9%)を記載した。

この影響からか、最近はソーシャルメディアを中心に料理にまつわる話題が目立ちます。スーパーの総菜や冷凍食品で調理を済ませることを批判する人を、批判する話題に注目が集まりました。これに反応した味の素の冷凍食品【公式】Twitterアカウント(@ff_ajinomoto)の対応はワイドショーや様々なニュースメディアでも取り上げられました。

今回は、この話題の拡散について深堀りし、企業アカウントが話題になっているトピックに関係する投稿をする際の注意点を考えてみたいと思います。


「手抜き」を含むツイートのトレンド

下のグラフは、「手抜き」を含むツイート件数の年初からの日次推移を示しています。

なお、今回もクチコミの対象をTwitterとして、Twitterの全量データを検索・分析対象とすることが可能なソーシャルメディア・アナリティクスツール「Brandwatch」をお借りし、データ収集を行いました。

手抜きツイート

8月に極端に増加したことが分かりますね。

話題が拡散したタイミングを見てみましょう。下のグラフはトレンド方式(*2)を用い、「手抜き」が含まれるツイートが拡散したタイミング(拡散期間)を棒グラフで示したものです。コロナ禍以前の1月や2月にも小規模な拡散があることが確認できますが、7月以降、拡散の規模が大きくなっていることが見て取れます。

手抜き.拡散強度png

(*2)トレンド方式の詳しい説明については、以下記事をご参照ください。


コロナ禍以前の「手抜き」ツイート

ちなみに、コロナ禍前のタイミングの拡散の原因は次のようなものです。

微笑ましい話題からジャーナリストの発言まで、バラエティー豊かな「手抜き」を含むツイートが確認できます。


コロナ禍の「手抜き」ツイート

冒頭の「スーパーの総菜や冷凍食品で調理を済ませることを批判する人を、批判する」の話題の起点となったツイートが以下です。

自分の価値観を一方的に押し付ける高齢の男性と、それに呆然とする子連れの女性の姿が浮かんできますね。高齢の男性への憤りと女性への同情を禁じえないエピソードです。ちなみに、このツイートには「手抜き」という言葉は使われていません。しかし、この話題が次のような「手抜き」を含むツイートを誘発してゆくことになります。


上のグラフで目を見張るのが、8月前半の該当ツイートの急増です。この原因は以下のツイートです。

食材が「ポテサラ」が「冷凍餃子」、批判した登場人物が「高齢者」から「旦那」に代わりましたが、話の構図は同じです。


"「冷凍食品」は手抜き"に反応する企業アカウント

味の素冷凍食品【公式】Twitterアカウントは、8月6日に次のような投稿をしています。

冷凍食品を使うことは「手"間"抜き」とし、かかる手間を味の素の工場が肩代わりしていると論理的に切り返しています。中の人が2児の母であることを明らかにしていることで、さらに迫力を増しています。この投稿はテレビのワイドショーでも取り上げられ、大きな話題となりました。数多くの賛同コメントが確認できます。

下表は、「味の素」を含むツイートと、そのうち「餃子」一緒に「好き」、「美味しい」、「ありがとう」などの好意的な単語が含まれるツイートの日次平均件数を週単位でまとめたものです。

話題拡散のきっかけとなったツイートが投稿された8月6日を起点に8月12日までの1週間を第0週とし、その期間の直前の1週間、すなわち7月30日~8月5日を第-1週、逆に直後の1週間、すなわち8月13日~8月19日を第1週としてそれぞれの期間における「味の素」を含むツイートの日次平均件数(A)とその中で好意的な単語が含まれるツイートの日次平均件数(B)をまとめています。

味の素(好意的なツイート)

第0週の前後でツイート件数(A)も好意的なツイート件数(B)も大きく異なることが分かります。第-4~-1週では、好意的なツイート(B)は1~2件/週程度でしたが、第1~4週では、4~30件/週に増加しています。また、第0週には突出した数字になっています。今回の事案をきっかけに、味の素に好意的な感情を抱いた人が増えた、あるいは表面化したことを示しています。


食品メーカーだけでなく、様々な企業アカウントも反応

他の企業アカウントの対応を見てみましょう。

その他の冷凍食品メーカーのアカウントで反応したツイートは、私が調べた範囲では確認できませんでした。ちなみに冷凍食品メーカーのニチレイは、自社サイト内のライフハックメディア「ほほえみごはん」で昨年11月に「冷食入れたら「手抜き」なの?」という記事で、夫の「冷凍食品」=「手抜き」という価値観に傷つく妻の心情を伝えています。ちなみに、ニチレイのTwitter企業アカウントには@nf_capmaignがありますがこちらでは、特に言及は確認できませんでした。

また、冷凍食品メーカーではありませんが、電機メーカーのシャープはTwitterアカウントで次のツイートを投稿しています。

ワイドショーなどで「冷凍餃子が手抜き」という話題が取り上げられた際、番組中のインタビューで若い夫が妻の目の前で「唐揚げも揚げるだけなので手抜き」と答えたことが話題となりました。これを受けての投稿です。自社製品の価値をしっかりアピールしていますね。さすがです。

また、ハッシュタグ # 唐揚げ手抜き発言 がトレンド入りしました。これに、家電量販店のノジマさんも次のように便乗しています。


「手抜き」ツイートのその後

冒頭のグラフの通り、さらに9月なってからも「手抜き」を含むツイートの拡散が発生しています。その原因ツイートの一つが以下です。

これまでの冷凍食品の流れとあまり関係がないように見受けられますが、このツイートから次のようなツイートが生まれ、共感を呼んでいます。

「手抜き」=「新しい発明の一般化」と解釈する意見です。そのほかにも次のようなツイートが目立つようになってきました。

食洗機や全自動洗濯機、冷凍餃子やお惣菜ポテトサラダを手抜きだなんてゆって欲しくない。全作業の効率化と言って欲しい。
乾燥機と食洗機を使ってることを母親に話したら「手抜きだよ」だってさ〜
私と同じように洗濯機や掃除機使ってる人に言われるのは納得がいかないね!!
電気掃除とか全自動洗濯機を使っても手抜きとは誰も言わないのに何故料理になると手作りじゃないと手抜きだというのだろう。
不思議だね。
レトルトでも冷凍食品でも同じ文明の力だろう。
料理に手抜きと言う奴は交通機関を使わないで徒歩で出社してみろよ。

手抜きと言われた「お母さんへの同情」が「文明の力を利用することは当然のこと」に昇華してゆくプロセスを見ることができます。


まとめ

最後に、今回の事例を通じて得られる、企業アカウントの運用に役立つ学びをまとめてみたいと思います。

アメリカの法学者であるキャス・サスティーン(*3)は、インターネット上でのコミュニティでは、同じ主義や意見を持つ人同士がつながりやすく、しかも彼らの議論はより特定の方向に先鋭化する傾向があるとしています。このような傾向を「集団極性化」と称しました。

(*3) キャス・サンスティーン(2001)『インターネットは民主主義の敵か』

今回の事例であれば次のように論調は変化してゆきました。まさに「集団極性化」の進行を見ることができます。

第一段階:同情(使用することを批判するのはかわいそう)
「"ポテサラは手抜き"はお母さんがかわいそう、発言した人は時代錯誤も甚だしい」

第二段階:肯定(使用することは良い面もある)
「調理に手間がかからない食材を利用するのは手抜きではない。時間的な余裕ができることは貴重」

第三段階:推奨(どんどん利用すべき。利用しないほうがおかしい)
「文明の利器を利用して時間や労力を省略することは当然」

今回紹介した味の素の冷凍食品やシャープの企業アカウントの投稿は、概ね好意的に受け止められています。味の素冷凍食品の企業アカウントの投稿に対して、食事の準備をする人を「お母さん」に限定したことに批判も出ました。しかし、きっかけとなったツイートに書かれている「お母さん」の発言を受けた投稿であることから、文脈に沿っているとして、逆に「批判した人の思慮が足りない」との反論が目立っています。

ところで、同様の投稿をどのような企業アカウントで行っても、同じような結果が期待できるでしょうか?リスク管理の観点から、注意するべきポイントを挙げます。

【リスク管理の観点から、注意すべきポイント】

(1)日常の運用でフォロワーと円滑な関係を結べていること

例えば、味の素冷凍食品の投稿をニチレイさんのキャンペーンアカウント(@nf_campaign)で実施したらどうでしょうか?

普段販促目的の投稿だけをしているアカウントからお母さんの気持ちに寄り添ったメッセージをいきなり投稿しても、多くの場合は「商品を売りたいがために、この話題を利用しているのではないか?」と考えるフォロワーは少なからず生まれるでしょう。味の素冷凍食品(@ff_ajinomoto)は普段から商品の訴求だけでなく、中の人の人格もわかるような運用をされています。

このようなアカウント運用をされていため、件の発言がアカウント運用者の意見として反発なく受け入れられたと考えます。


(2)タイミングが適切であること

紹介したシャープとノジマの投稿は、専ら自社の商品を訴求するツイートです。お母さんの気持ちに寄り添った内容ではありません。しかし、投稿タイミングはそれぞれ8月11日と8月10日です。最初にきっかけとなった冷凍餃子の話題の投稿があった8月4日からは1週間が経過しています。味の素冷凍食品さんの投稿日の8月6日からも4~5日程度経過しています。話題の中心も「冷凍餃子」から「唐揚げ」に移っています。仮に、8月4日~8月6日ごろに「唐揚げ」を「冷凍餃子」に変えて投稿をしたらどうなったでしょうか?

恐らく「お母さんの憤りを茶化すな」といった批判もでてきたのではないでしょうか?

2011年冬に大手家電量販店のTwitter企業アカウントが、大規模な地震が発生した25分後に「皆様、地震の影響は大丈夫でしたでしょうか。またこれを機に日頃の備えなど検討してみては如何でしょうか」というメッセージをショッピングサイトへリンクURLをつけて投稿をしたことがあります。「人の不幸に便乗して利益を得ようとしている」として批判が殺到し、当日のうちにアカウントを閉鎖に追い込まれました。しかし翌日には、このアカウントに対し「過剰に反応しすぎ」との論調に代わってゆきました。

このように、人々が感情的になっているタイミングでのふるまいには注意が必要です。

時流に乗っても反感をもたれない投稿をするには、アカウントの個性を自覚し、主張するタイミングを十分に考慮することが大切ですね。


【今回使用した「Brandwatch」の特徴や機能についてはこちら】


【関連記事はこちら】

【書いた人】
福田 浩至
株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理)

多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
▼▼ プロフィールからお気軽にフォローください ▼▼