ひとくち小説#3

星々
「ふぁあ…」
車窓からの眺め、走る列車。どれも普段通り。

ただ少し、車内が騒がしい。
私は乗客の応対のため席を立ち、1号車へと向かった。

「な、なんなんだアンタ達は！」
「こっちこそなんなんだよお前は！」

動揺。状況がのみ込めず騒ぎ立てていた様子の二人の乗客。
一人は重装に身を包んだ屈強な男。
もう一方は柄の入った薄布を身にまとうひょろひょろとした男。

「お二方、まずは矛を収めていただけますか？」

一転、二人の視線が私に移る。

重装の男が尋ねる。
「き、君は何か知っていないか？この場所のことを」

私はいつものように答える。
「窓の外を流れる星。一度見つめてみてはいかがでしょう」

男たちは素直に応じた。
「な、なんだこれは…」
「え？ど、どういうこと？」

あったかい、つめたい、くらい、あかるい。
それは心だって同じ。

（あなた…私といてくれてありがとう…）
（こんな、クソみたいな世界なんて滅んでしまえ！）
（虚しいけれどきっと。そんな世界も美しいって信じたい…）

「お二方は死んだのです」
先ほどと違い二人に驚きはない。

「そうか。君の最後の記憶はなんだい？」
重装の男は薄布の男に尋ねる。
「言いたくない…」

「私は、裏切り…だろうな。愛する人に毒を盛られた」
「え…？そんなのって…」

「いや、彼女に恨みはないんだ。ただ在るのは悔しさだけ。なんで彼女にそんな選択を取らせてしまったんだって悔しさ」

「どうしてそんな風に思える？あなたは理不尽な目にあって死んだのに」
「それは…自分でもわからないよ。ただ、死にたくないって思った。彼女は誰かの死を背負うほど強くない。だから生きたかったな。生きて理由を知りたかった」

きれいな星。まっすぐで混じりけのない、黄色く輝く星。

「俺は…仕事の帰り道。ヤクザに絡まれて殺された」
「ヤクザ？」

「働いた帰りに、突然いたぶられて殺されたってことだよ」
「それは…許せないな」

「今すぐにでも帰りたい。母ちゃんに、二人にただいまって言いたいよ」
「うっ…うう…！」

「な、何泣いてんだよ！」
「君の想いが…！伝わってきた！なんて残酷な…」

「母ちゃん。昔から女で一つで俺のこと育ててきてくれてさ…昔から言うこと聞かないで、いっつも迷惑かけててさ…！それでさ…！」

めらめらと揺らぐ星。冷ややかだった星は次第に熱を帯びる。

「もうすぐ、子供も生まれるんだよ！！俺の子が…！３人で母ちゃんに見せてやろうってさ…！なんで、どうしてだよ！」

車窓から見える星々はいったいどこへ行くのだろう。
この列車は想いを運ぶ列車。必ず彼らの想いも紡がれる。

「救済だ…と考えています」
「え…？」

「生きるという行為に意味などはないですが、意義はある」
「ですから、あなた方はこの列車へ乗っている。私はそう信じています」

「ほら、窓の外を見てください。とても綺麗でしょう？」
満足した彼らを見ていると、こちらもうれしくなってしまう。
彼らは迷いなく散った星。だけど彼らもまた、いつしか迷いここへ来る。

「ですから、あなた方もきっと。ではないですか…？」

ここは夢想列車。想いを紡ぎ、誰かをどこかへ運ぶ場所。
今日もまた、想いを載せて輝けるどこかへ進んでく。

「ふぁあ…」

静かな車内。くすぶっていた淡い星達はもういない。
いつかまた、輝きを宿してここへ来る。

そう、またいつか。