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【随想】小説『タイタンの妖女』 カート ヴォネガット ジュニア

語ることが難しい小説だ。
読後感もなんとも言えない。
遠く遠くマラカイコンスタントと一緒に
旅をしてきたような気持ち。
なんとなく予想できる展開と、
そもそも予言された通りに進む物語に、
途中逸脱や偶然性を求めている自分がいた。
ランジャタイやヨネダ2000の漫才には
予測不可能性があるから楽しい。
この小説は、とても理知的なのだろう。
皮肉やユーモアの部分については、
あまりちゃんと理解できていないような気がする。
先がどうなるか種明かししたまま、
どのようにして読者を惹きつけて行くのか。
SFではあるが、 倒叙ミステリーの形に近いのか。
犯人は分かっていて、その犯人に辿り着くまで、
タイタンまで旅をする。
ただ、この物語には、名探偵が犯人を捜し出す能動性がない。
全部、犯人の筋書き通りに、登場人物がタイタンまで導かれるのだ。
この受動性の虚しさが、全編に漂っているように感じた。
ラムファードという超越的存在を、裏切る、予測不能な人間がいたら…
三体における史強のような人物。
アンクも、ビアトリスも、クロノも、ボアズも、スティブンスンも、ラムファードも…
幸せな瞬間があっただろうか。
ラスト近く、唯一能動的な行いが行われるが、
それが、まさかのトラルファマドール星のサロによる行いなのである。
人間には、最後の最後まで自由(意志)は訪れなかった。
いや、マラカイコンスタントは、最後に自由を獲得したのだったか?
雪の降り積もるバス停。
マラカイコンスタントが見た夢は、美しかった。


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