【随想】ドラマ『笑うマトリョーシカ』早見和真(原作)
ハヌッセンは誰なのかというサスペンスで物語をラストまで引っ張ったのにも関わらず
ハヌッセンなんていませんでしたという壮大な梯子外し
それまでの過程が、謎解き(取材)が、回想エピソードは、いったいなんだったんだ
鈴木も
浩子も
佐々木も
諸橋も
富樫も
美和子も
羽生首相も
こいつ怪しいと思わせるだけに登場したのか
いや彼らは清家がどういう人間なのかを伝えるために存在していたのだ
「空っぽな部屋の真ん中で大丈夫と笑って見せた」
自分は空っぽなんだ
器でしかない
だから人が寄ってくる
入れ物
誰かが裏で糸を引いていると
勝手に憶測で思い込んでいる
誰一人として清家本人を見ようとしていない
浩子も美和子も鈴木も
寄ってくる人はみな清家を利用しようとしてくる
見くびるなよ
本当の自分は怒っているのか悲しんでいるのか
空っぽな入れ物=マトリョーシカである清家は、そんな自分を押し隠して笑っている
誰もが自分が清家を操っていると思っていただろう
しかしそれはすべて演技だった
利用していると思わせて実際は利用していた
清家は他者が自分を操りたいと思わせる魅力を演出していた
そして国民もその魅力に抗えない
清家一郎を総理にする
国民も鈴木や浩子、美和子と同様、清家をうまく操れると思って推挙するのだ
しかし、それは清家の術中である
ジャーナリスト道上だけが清家の本音を知っている
だがこれも清家の演出なのかもしれない