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【随想】小説『迷路館の殺人』綾辻行人

というわけで、『迷路館の殺人』
初綾辻行人さん。

迷路が好きということだけで、
『十角館の館』から読まないという暴挙。

ネット情報では、問題ないということなので、
信じることとした。

新本格といえば、
綾辻行人ということらしいので、
これは読まずにはいられない。

早速読んでみるが、
確かに、時代感がある。
新装改訂版ではあるが、
携帯もなければ、パソコンもまだ普及前の、
1988年の作品だ。

だから、密室は作りやすい。
館シリーズというだけあって、
特殊な館の中で繰り広げられるクローズドサークルものであった。

今回は、その館が迷路になっている、というわけだ。
変な館を作る、物好きもいたもんだ。
(美術家の荒川修作なら、作りかねないとは思った)

冒頭に迷路館の地図(間取り)が示されるが、
実際の建築物という設定だからか、
それほど複雑な迷路というわけではない。
指で辿れば、すぐにゴールできるような迷路だ。

だが、作中の登場人物たちは、ことごとくこの迷路に翻弄される。

確かに、迷路というのは、俯瞰で見ているのと実際に中で体験するのとでは、難易度に大きな開きがある。

迷路の中で、何度も角を曲がっていると、
だんだん方向感覚が失われてきて、今自分のいる場所がどこなのかわからなくなる…といった感覚は、
鬼怒川の巨大迷路パラディアムを体験したことのある人であれば、
皆共感できるであろう。

あの自分の位置情報がわからず、外界とアクセスができない心許なさが、迷路の醍醐味であり、恐怖でもある。

そんな極限状態に置かれたからか、
登場人物たちは、なかなか理解しがたい行動をとる。
結構無茶な作劇に感じるが、 
読ませる文章とウィットに富んだ仕掛けで
グイグイと物語に惹き込んでいく。

途中からは、コナンや金田一のような漫画を読んでいるような気にもなった。

最終的にはどうだったかというと、なんてことはない
見事ミステリーの迷宮の深奥にまで誘われて、ミノタウロスにグサッと仕留められてしまった。

迷路に足を踏み入れる際は、
くれぐれも入り口に戻れるよう目印をつけておくように。


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