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とりあえず、好きだといえなかった話。

じめじめ……
気分がのらない。のりやしない。
虚ろな目で歩いていたら

魔法陣(マンホール)に召喚されし者


完全に「呼ぶんじゃねーよ」の顔である。

さーせん。

でも、お出ましいただけてうれしい。とても。


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さて、“召喚”というと、水木しげる先生の『悪魔くん』を思い出す。

エロイムエッサイの呪文と魔法陣で、個性豊かな十二使徒を召喚する。


小学校の頃、アニメが放送されていて、大好きで見ていた。
土曜日の夜の放送だったと思う。
月曜日、登校すると男の子たちが『悪魔くん』の話で盛り上がっている。


わたしも、悪魔くんの話がしたい!

でも……
女の子は誰も、悪魔くんの話なんてしない。

あの時のわたしは、ほかの女の子たちが“好き”と言っていないものを“好き”ということができなかった。

今でも、言えなかったことがこころにひっかかっていて、教室の黒板の前から見た、楽しそうに悪魔くんの話をする男の子たちの様子が忘れられずにいる。



もうひとつ、好きと言えなかったものがある。


幼稚園の時、お弁当の中にピーマンが入っていた。

「うわー、ピーマンはいってるよ」

まわりの子たちが騒ぐ。

「ピーマンきらいっ」
「ピーマンいやっ」
「のこしちゃえ」

口々に話す。

「……うん。」


言われるまま、ピーマンを食べなかった。


言えなかった。
わたしはピーマンが好きなことを。


思い返すと、子ども頃は、世界がほんとうに狭かった。
なんだかわからないけれど、まわりから“なんかちがう”と思われてしまったらいけないような気がしていた。


でも、しばらくして、子どもらしい人間関係のこんがらがりも経験し、気づく。


なんかちがっても、また別のどこかが受け止めてくれるじゃん、と。
(で、本がいるから……に進化する。苦笑)



とりあえず、今は、もう躊躇うことはない。

『新・悪魔くん』のためだけにNetflixに入ろうとしたり、
妖怪のように台所の片隅で、ばりばりピーマンを丸齧りしたり……

家族や友人に笑われながら、好きなものは好きと言っている。

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