とりあえず、勝負は一瞬……
「あっ! 詩ちゃん見なきゃだよっ!!」
子の勉強が終わったのを確認し、いそいそと柔道の画面をつける。
ちょうど阿部詩選手の2回戦。
先手を取り、攻めている。格上相手に自分のペースで試合を運べそうだなと思った瞬間……。
畳を降り、歩けないくらい泣き崩れる。
心も体も鍛え抜いてきた人がこんなに涙するって……。
この一瞬にかけてきた時間の重さ、重圧、積み上げてきたもの。
ずっと追いかけてきたわけではない人間にも、痛いくらい伝わる。
そして、妹の敗戦に動じず、金メダルを取った一二三選手。試合後のコメント。その強さに心が震える。
さて、この、夜の柔道を見るまでの1日、わたしも小さ過ぎる戦いをしていた。
それは、
『絶対に見てはいけない!
男子サッカー、マリ戦の試合結果』
である。
朝4時、起きて見ようと思っていたのに、寝過ごしてしまったのだ。
「ライブで見た。面白い試合だったよっ」
夫がアピールしてくる。
うーーっ! そんなに面白かったなら、わたしも結果を知らない状態で見たいっ!!
午前7時、結果をシャットアウトしながら試合をフルで見られるところを探す(オンタイムで見るつもりだったので、録画していない)。
まずは、TVer……
あぶないっ!
結果をまとめたハイライトが上がっている。
細心の注意をはらいながら確認するも、まだ試合は上がっていない。
つぎは、TVの番組一覧。
これも、情報番組の紹介文には要注意だ。
おっ! NHKで午後1時からの録画放送を発見!
ただ、昼間にじっくり見るのは無理だ。
録画をして、みんなが寝静まった夜に見るしかない……。
午前9時、ここからがさらに戦いだった。
テレビをだらだらつけていようものなら、オリンピックハイライト。
YouTubeを立ち上げようものなら、普段の趣味嗜好をしっかり反映してくださり、サッカー情報。
ちょっと調べ物をしたくて検索しようとしても、サッカーの結果をおすすめされそうになる。
普段ならありがたいけど、
今は情報をシャットアウトしたいんだよーっ!
暑い中、つい暑苦しく叫んでしまった。
そんなこんなで、なんとか1日を過ごし、柔道の決勝までの間、マリ戦を観戦した。
が、この観戦中こそ、トラップだらけだった。
録画放送は、スターティングメンバーが最初しか見られない。
「あれ? このポジション、誰入ってる?」
と検索をかけようとして
「あっぶねーっ」
となり、
「所属チームどこ?」
と調べようとして
「やっばっ!」
となり……。
なんでもすぐ知りたい!
検索グセが発動すると結果がすぐそこに迫ってくるのだ。
というわけで、ケータイを離して、手はお膝で観戦した。
後半、押し込まれる時間帯を乗り越え、ついに1点をもぎ取る!!
(あぁ、あと残り何分だろう……)
本当に、そんな些細なことだった。
うっかりケータイの画面を開いてしまった……
「マリ、アディショナルのPK外し敗戦」
目に飛び込む見出し。
まだ見ていないアディショナルタイムのドラマが、丸わかりだ。
とりあえず、わたしの戦いは、一瞬の間に、PKを外したかのように崩れ落ちて終わった……
まぁ、まだまだ面白そうな試合はある。
とりあえず、オンタイムで見よう。
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