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台湾「全民国防ハンドブック」2023版-日本語訳-

 中国からの圧力が日増しに強くなる中、台湾では2024年1月13日に総統選挙が行われ、民進党の頼清徳氏が次期総統となることが決まった。統一か戦争かと中国が迫り、これ以上の「現状維持」を認めない態度を示す中、中国によるさらなる軍事的恫喝や直接的行動が懸念される。
 このような状況において我々在台邦人としては日本ないし第三国への移動なども選択肢に入るわけだが、全員が自由に行えるわけではない。そのためまず台湾において政府は一般市民に対してどのような知識と行動が求めているのか?を知ることから始めるべきだと考える。
 ここでは毎年国防部が編纂、発行している全民国防ハンドブックを日本語に翻訳し、在台邦人各位の参考として供したい。

訳者注:
1.出典
69_2023061309580101_全民國防應變手冊.pdf 版を元にしています。

●ダウンロードリンク
https://aodm.mnd.gov.tw/UFile/down/69_2023061309580101_%E5%85%A8%E6%B0%91%E5%9C%8B%E9%98%B2%E6%87%89%E8%AE%8A%E6%89%8B%E5%86%8A.pdf

●各自治体別のバージョン(2022年版)、英語バージョンなどはこちらから。
https://aodm.mnd.gov.tw/front/down.aspx?menu=069&mCate=069

2.当該翻訳はあくまで仮訳です。意訳をおこない、厳密な訳を捨てている部分があります。表記にも揺らぎがあります。予めご了承ください。
3.本ノートは読者に最低限の繁体字中国語能力を求める部分がありますが、翻訳者はその点に一切責任を負いません。
4.中華民国国防部などが書いている部分があり、イデオロギーに合わない場合は加減してお読みください。
5.誤字を発見した場合にはご連絡ください。



序文

  1.  本ハンドブックを編纂した主要な目的は、市民に戦争状況下において発生しうる各種災害に対して必要な応急対処方法を提供することで、自助によるサバイバルを行ってもらうためである。
     ハンドブックの内容は主に戦時に発生しうる各種状況について、市民に有効な対処方法を提供するもので、平時の準備(緊急避難のための準備、防空サイレンの判別方法、周辺の重要拠点を知ること、正確な情報を得ること)および、戦時の対応(戦時に発生しうる状況、敵と味方の識別、緊急避難、戦場でのサバイバル、通信途絶対処、負傷時の応急処置、戦時での危機対処、市民の各種災害に対する対応法、緊急時の連絡先)などに分けて説明している。
     全民国防は国民全員の力と抵抗意志の表れであり、中央政府だけではなく都道府県、市区町村全員が共同で民主・自由の生活を守る任務を負うものでです。万全な準備を行うことで自分を守り、みんなで国家の安全を守ることができます。一緒に頑張りましょう。
    注記:
    1.本ハンドブックは全国民に平時の準備と戦時救急対応の参考とする物です。
    2.本ハンドブックは各地方自治体、政府、機関、学校などの特性に応じて修正・編集して運用してください。
    3.本ハンドブックは必要に応じて適時改正されます。皆さんの意見をお待ちしてます。


平時の準備

緊急避難の準備 

一、個人用緊急持ち出し袋

 戦争発生時に各人が緊急避難のために持ち出し、防空避難所などに向かう際に背負って行く鞄で、生命を維持するために必要なものを準備する。内容は個人の必要に合わせて調整すること。

1.必要な物
□バックパック
□個人の必要な飲食物(水、保存食)
□防寒具(寝袋、ブランケット、防寒衣類など)
□ライト(および電池)
□重要書類のコピー(身分証、戸籍名簿、健保カードなど)
□個人用医療用品(慢性病薬、救急薬品、処方箋コピーなど)
□軍手
□笛
□簡易サバイバルツール(小型ナイフ、缶切り、ステンレス製の食器など)
□携帯電話
□ラジオ(および電池)

2.その他
□サニタリー用品(トイレットペーパー、ウェットティッシュ、タオルなど)
□少額の現金・小銭
□モバイルバッテリー(満タン)
□軽量なビニール合羽
□おむつ、粉ミルク、哺乳瓶など
□生理用品
□家のスペアキー
□ペット用飼料

3.バックパックには更新日を記入し、半年ごとに検査を行って適宜最適な状態を保ちましょう。

二、家庭で備蓄すべき物資

 一時的に家の中で非難する場合、断水・停電・食品の欠乏などが起きる可能性があるため、以下のものを準備しましょう。
□3日分以上の食品と水
□小型、手回し発電機、予備電源や太陽光パネル
□救急箱(常備薬品を入れた物)

三、親友と緊急時会合地点を決める

 戦争発生時には通信途絶により家族とすぐに連絡が取れなくなる可能性があり、家族の安否の心配などで不安になります。このため平時から家族と緊急時会合地点(ミーティングポイント)を決めておきましょう。

  1. ミーティングポイントについては防空避難所、病院、学校、公園などを設定しましょう。「全民防災 e 點通 (https://bear.emic.gov.tw/)」で調べることができます。

  2. もし連絡が取れなくなった場合、通信が可能な時や修復後に「消防防災 e 點通 App」の防災カード機能や親友に協力を求める機能を使って連絡を維持してください。

    1. 防災カード:家庭、コミュニティ、学校、企業などでのグループ機能です。メンバーで決定したミーティングポイントや避難所を記録でき、参加メンバーを緊急連絡先に設定できます。災害発生時に通知やメッセージを送ることができるほか、メンバーがネットワークに接続されたときには安否や位置などの情報を共有することができます。

    2. 親友に協力を求める:もし親友と連絡がつかなくなった場合、親友を探す機能が利用できます。友人のデータを登録しておくと、災害対応センターの死傷者リスト、避難者・収容所リストなどと照合し、一致した場合には自動的に通知します。

  3. 出来れば記入済みの本ハンドブックも持ち出し袋に入れておいてください。

訳者注:全民防災 e 點通 (https://bear.emic.gov.tw/)では近隣の避難所を調べたり、集合地点の登録、アプリでプッシュ通知を行う行政区と通知内容の設定ができる。また、グーグル翻訳を使った日本語翻訳に対応している。

防空サイレンの音と識別

1.緊急警報:15秒の長音1回、5秒の短音2回、5秒間隔で3回繰り返す。全部で115秒。
2.解除警報:90秒の長音1回
聴覚障碍者は携帯電話のプレジデンシャルアラートやテレビ、手話放送などで知ることができます。


プレジデンシャルアラート例
サイレンサンプル音

周辺の重要拠点を知る

1.防空避難所

 全国に8万9405カ所(23年4月時点)の防空避難所(ビルの地下室や地下駐車場など)があります。施設の外壁(住所表記や駐車場入り口)などに防空避難のマークが掲示されています。また「警政服務 App- 防空避難專區」(https://adr. npa.gov.tw) や「消防防災 e 點通 App」で調べることも可能です。これらの場所は個人の所有物ではありますが、空襲警報や避難命令が発令された場合、市民の避難のために開放されます。

防空避難所マーク

2.緊急時責任病院と救急ステーション

  1. 全国各県市の救急責任病院
     救急責任病院は24時間診療のほか、急性脳卒中、急性心筋梗塞、緊急外傷、高危険度の妊娠や新生児に対する処置能力を有しています。高度対応可能な病院が46病院、中度対応病院が77病院、一般レベルが83病院、合計206病院有ります(23年4月末時点)。救急責任病院は衛生福利部のウェブサイトで調べることができます。戦時においては各救急責任病院は必要のない治療や検査、手術などを減らして患者の早期退院を行い、身分を問わず戦傷者の収容と治療に努めます。

  2. 全国各県市の救急ステーション
     戦時には全国の各郷鎮市区にある衛生所(保健所?)375カ所(23年4月末時点)に救急ステーションを開設します。医療系民間防衛団体によって運営し軽傷者の治療にあたります。市民の方は近くのステーションへ自ら足を運んでください。

3.民生必需品配給販売所

 現在、各地方自治体が計画設置している配給販売所は5777カ所(23年4月末時点)あります。市民は所在の直轄市、県(市)政府や郷、鎮、市、区役所で周辺の配給販売所を尋ねることができます。また、「消防防災 e 點通 App」でも開設地点を調べることができます。政府は市民の需要や市場の秩序維持のために配給販売拠点や方法を調整することがあります。

4.戦時被災者収容所

 全国の各直轄市、県(市)には戦時被災者収容所が3140カ所(23年4月末時点)あります。直轄市、県(市)政府や郷、鎮、市、区役所で周辺の戦時被災者収容所を尋ねることができます。また、「消防防災 e 點通 App」でも開設地点を調べることができます。

5.避難マップを作る

  1.  「消防防災 e 點通 App」では地震、台風、洪水に対する防災準備や情報を得られるだけでなく、居住地域や仕事場、家庭の防災カード機能やミーティングポイント機能、上記の各場所なども表示されるため、PCやタブレットなどで調べてダウンロードしたり、印刷して書きこむなどして避難マップを作っておきましょう。

  2.  村(里)事務所には平時から防空避難所、緊急時責任病院と救急ステーション、民生必需品配給販売所、戦時被災者収容所についてまとめたものがありますので行ってみるのもいいでしょう。

訳者注:台湾の一部書籍では、中央省庁、軍の基地、空港、港湾などは重要攻撃目標として狙われるため、有事が懸念される場合には半径2km以内に入らないように。と記載しているものがある。


正確な情報を得る

1.すぐに正確な情報を提供します
 みなさんがすぐに国防関係の正確な情報を得られるよう、戦時において国防は、記者会見、ニュースリリース、スポークスマンによる説明や真偽の比較が可能な資料などを使って、マスメディアを使って皆さんにお伝えします。皆さんは以下のウェブサイトから戦時の国防関連情報を正確に取得するようにしてください。
(1) 行政院「即時新聞澄清」專區https://www.ey.gov.tw/Page/5519E969E8931E4E
(2) 國防部全球資訊網 https://www.mnd.gov.tw/
(3) 國防部發言人臉書粉絲專頁 https://www.facebook.com/MilitarySpokesman
(4) 國防部推特 https://twitter.com/MoNDefense
(5) 國防部軍事新聞通訊社網站 https://mna.gpwb.gov.tw/
(6) 青年日報官方網站 https://www.ydn.com.tw/
(7) 漢聲廣播電臺官方網站 https://www.voh.com.tw/
(8) 財團法人中央廣播電臺 https://www.rti.org.tw/
(9) 內政部警政署警察廣播電臺https://www.pbs.npa.gov.tw/ch/index

2.戦時にネットワークが使えなくなった場合でも国防部は戦情速報、放送などを使って関連情報を発表します。
(1)戦時には同業のマンパワー、物資、資源を合わせて「戦情速報」を発行し国内外へ発信し、民心の士気を鼓舞し、軍事作戦任務を支援します。
(2)漢聲廣播電臺:
● FM周波数:
北部地區 106.5
高屏地區 107.3
臺東地區 105.3
中部地區 104.5
宜蘭地區 106.5
關山地區 105.3
南部地區 101.3
花蓮地區 104.5
金門地區 107.3

●AM周波数:
臺北 684/1116
桃園 693/936
臺中 1287
雲林1377
臺南693
高屏 1332/1251
宜蘭 1116
花蓮 1359/792
澎湖 1269/846

(3) 警察廣播電臺
(訳者注:警察が開設しているラジオ局。
公益財団法人日本台湾交流協会が緊急時放送を流すのもこの局です。)
●FM全國治安交通網:
臺北、桃園、嘉義、雲林、臺南、高雄、宜蘭地 區 FM104.9
新竹、苗栗、臺中、彰化、南投地區  FM105.1
花蓮、臺東地區 FM101.3
舞鶴地區 FM106.5

●FM地區治安交通臺:
臺北分臺、花蓮分臺、臺東分臺 FM94.3
臺中分臺 FM94.5
高雄分臺 FM93.1
宜蘭分臺 FM101.3

●AM地區治安交通臺:
新竹分臺 AM1512
臺南分臺 AM1314

フェイクニュースを見分ける

 まず、戦時において敗戦、政府が投降したなどというフェイクニュースを市民の皆さんは絶対に信じないでいただきたい。我々はこの点を強調したい。

  1.  敵がフェイクニュースを拡散し、社会混乱を生み、国軍の戦闘行為に不利な話題(和平交渉、抵抗をあきらめたなど)といった戦意低下、民心を揺るそうとする流言飛語は認知戦の手法であり、以下のようなディープフェイク技術や偽旗などを使ったものがある。

    1. 文字:有名ディアの報道を偽造したものなど

    2. 図画:偽の政府職員、学者などの写真を使ったものなど

    3. 動画:ディープフェイク技術などで顔をすり替えたものなど

  2.  デマに対する3つのノーと1つの必要の原則

    1. 作らない

    2. 信じない:確認できない内容を簡単に信じない

    3. シェアしない:怪しい文章や情報をシェアしない

    4. 確認する

3.教育部情報リテラシーwebに載っている方法に従い、情報の内容を精査しましょう
(1)正確性-タイトルを見ましょう。文章の内容が豊富で正確、表題と内容が一致しているか?表題が大げさで信じがたいものはフェイクニュースである確率が高いです。
(2)時間-時間を確認しましょう。提供された情報の内容が新しく更新が頻繁なものは、時間が合わないあるいは改ざんされたものがあるので注意しましょう
(3)客観性-データを調べましょう。ネット内の情報が客観的で価値を持っているかどうか。匿名の専門家を名乗ったり証拠に乏しいものは偽情報です (4)権威性-出典を確認しましょう。ネットで見た情報にデータの出典が明記されているまたは連絡先が記載されているなどがないウェブサイトは要確認です。

4.法務部調査局「フェイクニュース参考資料」やファクトチェックセンターなどでフェイクニュースかどうか確認することもできます。
(1) 台灣事實查核中心 https://tfc-taiwan.org.tw/
(2)MyGoPen 網站 https://www.mygopen.com
(3)Line 訊息查證 https://fact-checker.line.me/

https://www.jimin.jp/news/information/207344.html

敵に対する抵抗意志をしっかりと持つ

1.全民国防の重要性を理解し、国防関連事務に進んで参加する。
(1)「全民国防」は文字通り国民全員による国防です。国が無ければ家は存在しません。国家の安全を守るには皆さんの支持が欠かせません。国家安全は全員の共同責任です。
(2)全民防衛は「全民国防」の具体的実践として、中華民国国民である我々が村や里、会社、学校などの民間防衛単位、組織に参加し、「漢光演習、軍民連合防空(萬安)演習、自強演習、核安演習」と言った国家動員演習を通じて共同で国家安全を防衛する決心を示す時です。
(3)平和は防衛力と軍民が平時から行う準備のもと訪れます。常に警戒を怠らず、戦時下の厳しい状況を想定し、平時から万全な準備を行わなければ、戦時に国民全体の力を発揮することができません。軍民が心を一つにして敵に対抗することで、敵の行動を躊躇させ、我々の国家を守ることができるのです。
2.戦争は忘れたころにやってくる
(1)1958年の823戦役から今まで台湾海峡は60年余り現状を維持してきました。戦争は忘れたころにやってくる。そして備えあれば患いなし。という点は覚えていてください。敵軍はネットやSNSを通じて日ごろからその軍事力を宣伝し、台湾人と国軍の防衛力をかく乱しようとしてます。また軍事演習や戦闘機、軍艦による挑発、恫喝を行い、社会に混乱と恐慌を生み出そうとしています。
(2)例えば1990年8月2日から8日にかけて行われたイラクによるクウェート侵攻でクウェートは占領されました。この戦争の教訓として、我々は国家の危機に際しては一致団結しなければなりません。「1組の箸は折れるが、10組の箸は折れにくい」という言葉もあります。力を集中し、めげずに敵に対抗し続けることで国家は様々な危機を乗り越えることができます。
3.我々は民主法治国家です。
 戦争が発生した場合、国民全員が国家防衛の責任と義務を負い、法律を遵守し、慌てず、主体的に政府の発表や情報を集めて自身の安全確保を図ってください。


戦時の対応

戦時に発生しうる状況

  1.  敵が国内外のメディアやネットを通じてデマを流し、反政府、反戦機運を醸成する

  2. 敵のサイバー攻撃により行政や民間のシステムに障害を起こしたりして市民の政府に対する不信感を醸成する

  3. 敵の経済制裁実施により金融秩序や株式市場が崩壊。インフレにより通常の消費活動が困難になる

  4. 敵軍による航空、海上封鎖により輸出入や物資供給にダメージを与える

  5. 敵軍が台湾内に仕込んだ特殊工作員による軍事施設及びインフラ(発電所、ダム、浄水場、通信システム、レーダーサイトなど)に対する奇襲、破壊活動を通じた支援工作

  6. 敵軍のミサイル攻撃による建築物、道路、飛行場、港湾設備の破損、民衆の生命や財産が侵害される事態

  7. 大規模上陸作戦による民心の士気低下、大量の避難民の津波が押し寄せる

  8. 現在、国家安全維持最大の危険性となっているのが敵軍の台湾人に対する浸透吸収工作だ。秘密情報の収集方法は多元化しており、様々なチャネルで接触を図り組織を拡大化させている。また潜伏してその時を待っている。 国軍のいかなる情報についても与えないようにし、違法な収集活動の疑いのあるものはすぐに通報しましょう。

通報先:戈正平 携帯電話:0932491978  自動電話:02-85099090

敵と味方の軍人の見分け方

1.台湾軍の服装

2.敵軍

3.警察・消防の服装の見分け方


緊急避難

一、避難時の注意事項

 空襲警報を聞いたまたはSMSを受け取った場合以下の行動を速やかに採ること

  1. 室内にいる場合、その場または近所のシェルターや地下室に入ること。シェルターや地下室が無い場合、建築物の中でも堅固で窓のない部屋に入り、避難姿勢をとること。また、ガスや電気を切ること。

  2. 路上にいる場合、ドライバーと乗客は防空避難室のステッカーがある建物を目視かアプリで探し、軍隊、警察、民間防衛組織の人間の指示に従い避難すること。(ビルの管理人や住民は率先して地下室や地下駐車場の扉やシャッターを開放し、避難者を受け入れること) <台湾は建築基準法の施工細則で、6階以上の建物には既定の様式の地下室設置が義務>

  3. 高速道路、高架道路を運転中の車両は、速やかにそこを降り、2と同様に避難すること。もし周りに何もない場合はくぼみや地下道、橋脚など遮蔽物の影に隠れること

  4. 公共交通機関の場合、駅員の指示に従うこと。

空襲時の避難姿勢

(開始1分~)

(3分20秒から)

 四つん這い、窓に背を向け、背中を曲げる。胸を地面から15cm離し、両手で目、耳をふさぎ、口を軽くあける。

二、村(里)事務所が協力する事項

空襲発生時に村(里)事務所では以下のサポートを行います。
1.防空避難命令を確認し伝える
2.緊急警報やプレジデンシャルアラートを受け取った場合、直ちに村(里)のスピーカーを使って市民の迅速な避難と防空避難所への誘導を行います。
3.防空避難所の秩序維持を適時行います。
4.避難したかの確認や身分確認などに協力します。


戦場でのサバイバル

(1)断水対応

  1. 市民は貯水をするとき適宜濾過機を使用し、逆浸透膜や蒸留・煮沸したものを飲用すること。停水を確認したら揚水モーターを止めること。

  2. 戦時はエリア別給水が実施される。地区の給水事業者が宣伝車や放送を使って給水地点と時間を連絡する。また近隣の里の事務所でも情報を取得できる。

  3. 給水位置と時間はネットでも見ることができる。

(2)停電対応

停電発生時

  1. 懐中電灯を使用すること。ろうそくは使わない

  2. コンセントをすべて抜いてからブレーカーをあげること。

  3. 冷蔵庫は閉めたままで可能な限り開かない

  4. 避難前にブレーカーを切ること

  5. 電池式ラジオで情報を取得し、状況把握に努めること

電気復旧後

  1. 電気設備が正常に動作しているか確認する

  2. 冷蔵庫内の食品や薬品が変質してないか確認する

(3)被災した場合

  1. 居宅が戦火で住めなくなった場合は?

    1.  親戚を頼る:親戚や安全に到達できる場所に住み、住宅に被害を受けていない親戚がいませんか?

    2. 政府が開設する戦時被災者収容センタ-へ

  2. 戦時被災者収容センタ-ではどうすべきか?

    1. センターで身元を登録すれば一時的に生活と居住ができます。最低限の生活物資を配給します。センターの規定に従うほか、センター内でのボランティアを行ってください。

    2. センター内ではA.センター内でのルールを守ること 。B.ボランティアや作業員として運営をサポートして下さい

(4)民生必需品の配給販売

 政府は生活維持に必要な、かつ常温保管が可能な民生必需品や保存食を指定販売項目に指定し、国籍を問わず個人の身分証明書に基づいて、指定の方式・分量を販売拠点で販売します。

  1. 有償販売品;米、食用油、食塩、液化天然ガスおよびその他民生品

  2. 配給拠点は各直轄市、県/市指定の拠点

  3. 現有の一般商店を販売拠点にすることも検討中です。(これにより人が集中しなくて済みます。) ※現在は近隣の小学校などが指定されています。

(5)配給販売制度が運用できない場合

 敵の攻撃などにより民生必需品の配給販売が行えない場合、政府は軍民の需要、戦況(マンパワー、物資、輸送体制)を考慮したうえで民生物資の無料配布を実施します。


情報通信の途絶

  1. 戦時には通信施設が攻撃されやすく、大規模な通信途絶が発生します。国家安全と公共の利益維持のため、政府は軍の指揮系統支援、民間経済維持に向け必要な通信リソースを徴発します。戦時の通信資源は限られるため、皆さんは不必要な通信を控えてください。

  2. 戦時には敵の基地局破壊によりスマホの通信が途絶します。市民の皆さんはローミングなどで通信確保をしてください。あなたのスマホでどこかのキャリアの電波を受信したら112に電話をして救援を要請してください。

  3. 戦時に有線電話が通じなくなった場合、Wifiやスマホ使った通信をしてください 。

  4. 戦時にテレビ局などが破壊された場合、ラジオを使って国防関連のニュースを収集するようにしてください。


負傷時の医療救急

一、負傷時 ―自助と互助

1.爆発飛来物による穿刺、衝撃波による打撲-出血管理
直接加圧止血法
 ガーゼで傷を覆い直接加圧する。最も早く有効で簡単な止血法です。
傷口を持ち上げて止血する方法
 直接加圧止血法にプラスして傷を負った四肢を心臓より高くします。
止血点止血法
 直接加圧止血法で止血できない場合、親指や掌底で止血点を圧迫する方法。

2.火傷 ―救急処置

  1. 流す-清潔な流水を20分間かける。

  2. 脱がす-衣服を除去する。

  3. 漬ける-冷水に漬ける。

  4. 覆う-清潔な布で覆う。

  5. 送る-病院へ送り治療する。

二、戦火が止んだ時 ー病院へ送る

  1. 電話で119へ連絡し、周辺の安全地点で救援を待つ。

  2. 近隣の病院や救急ステーションへ送る。


戦場での危機対応

(1)ミサイル攻撃を受けて爆発・火災が起きた場合

  1. 戸外で被災した場合:火災・爆発位置から離れ、安全な避難場所へ。

  2. 室内で被災した場合:大声で隣人に声をかけて下へ外へと逃げる。扉は閉めるようにし、煙の拡散を防ぐ

(2)コミュニティで見知らぬ人が異常行動を採ったら

 警戒し、攻撃されない、逃げられるだけの十分な距離を取りましょう。一人で辺鄙なエリアや監視カメラの死角に行かないようにし、複数人で行動しましょう

(3)正体不明な爆発物や危険物に遭遇したら

 よくわからない爆発物・荷物・箱には触らないようにしましょう。その場で煙草を吸ったり、火をつけたりせず、早急に離れましょう。また隣人、運転中の車に近づかないように伝え、軍や警察に連絡して排除してもらいましょう。

(4)敵軍に遭遇し、銃で脅されたら

 ゆっくりと動き、動作は大きくしないように。言語や動作で挑発しないように。冷静に、敵を刺激しないように、また誤解されないようにし、生存率を高めましょう。

(5)住宅を敵に占領されたら

  1. もし自由に行動できるなら:速やかに戦時被災者救済センターや、家族と事前に取り決めたミーティングポイントへ逃げて家族と合流する機会を狙いましょう。敵が撤退するまで帰宅を試みないでください。捕虜になるだけでなく危険です。

  2. 自由に行動できない場合:敵を徴発せず、冷静に、敵を刺激しないようにし、生存率を高め、家を出られる機会をうかがいましょう

(6)毒ガスによる攻撃をされたら

  1. 化学兵器で使われる有毒化合物は塩素、ホスゲン、シアン化水素です。

    1. 高濃度塩素およびホスゲンは化学兵器の中でも窒息性に分類されるもので、呼吸器に作用し、喉へ痛み、目や皮膚に焼けるような感覚、呼吸困難、咳、息苦しさを起こします。

    2. シアン化水素は血液性に分類されるもので、血液への酸素吸収を阻害することで窒息死させるものです。意識障害や吐き気、呼吸困難などを引き起こします。

  2.  毒性化学物質の使用が確認された場合、政府はセルネットワークを通じ、携帯電話にエリア別の避難警報を送ります。

  3. 万が一毒性化学物質に触れてしまった場合には?

    1.  急いで逃げる:濡れたハンカチなどで鼻と口を覆い、風上に逃げます。雨合羽、日傘、コートなどを着て皮膚の暴露を減らします。

    2. 脱ぐ:安全な場所に逃げたらコートなどを脱ぎ、ビニール袋に入れて密封します。

    3. 洗う:毒性化学物質に触れた場合、汚染部位を市販の漂白剤を10倍に薄めたものに10分間漬け、アルカリ石鹸やきれいな水でよく流します。

    4. 覆う:綺麗な布で覆います。

    5. 病院:すぐに病院に送り、医師の診察を受けます

(7)ミサイル攻撃によって放射能災害が発生した場合

 政府は放射線モニタリングシステムを全土63カ所に設置しており、24時間ネットで見ることができます。

1.放射能災害が発生した場合

  1.  攻撃により原子力発電所が攻撃されて放射能災害が発生した場合、政府は市民への連絡システムやメディア、巡回広報車、放送、ネット、災害時警報セル通知サービス(CBS)、SMS,テレビなどで通知します。情報を受け取ったら「止まる・見る・聞く」を実施し防護に努めてください。

    1. 止まる「室内に留まる」 警報を聞いたら直ちに室内に入って窓を閉め、空調は室内循環モードに切り替えてください。鉄筋コンクリート製の建物は放射線の80%を遮蔽します。

    2. 見る「最新情報を得る」 テレビ、ラジオ、スマホなどで政府の発表や災害状況の取得に努めてください 。

    3. 聞く「政府の指示に従う」 政府は適時、市民の皆さんに避難、ヨード剤の服用などと言った指示を出すので従ってください。ヨード剤などを勝手に服用しないでください。

2.核攻撃を受けた場合

 もし核兵器による攻撃を受けた場合、高温及び爆風によって燃焼し、建物が損壊、放射性降下物などが発生します。その際に可能な防護措置は以下の通りです。

  1. 爆発を見ない。爆発で発生した光や火球を見ると失明します。

  2. 直ちに室内に入り、窓を閉める。(地下やコンクリート建造物が良い)

  3. 屋外では頭部を覆い、鼻と口をふさぎ、肌の露出を減らし、直ちに攻撃地点から遠ざかる。

  4. 室内に入ったら手、顔をよく洗い、着ている服を脱いで放射線汚染を減らします。

3.一般的な放射線防護

 一般的な放射線被害には外部被ばくと内部被ばくがあります。
(1)外部被ばく
外部被ばくは時間(TIME)・遮蔽(SHIELD)・距離(DISTANCE)の三要素で減らすことができます。 
時間:暴露時間を短くします。放射線防護でまずやるべきことです。
遮蔽:放射能を減衰する作用があり、放射線の暴露を減らすことができます。
距離:放射線源との距離が2倍になると放射線量は1/4に減ります。

(2)内部被ばく
内部被ばくからの防護は、
隔絶:放射線汚染エリアに居る時間を減らし、当該地域で食事をとったり、長居しないようにしましょう。放射性物質は飲食や呼吸、皮膚、傷口などから体内に侵入します。
代謝:放射性物質が体内に入った場合は水を多く撮り、代謝を高めましょう。また医療機関を受診しましょう
除染:除染を行い、放射性物質が体内に入る機会を減らしましょう。手洗い、洗顔、着衣を着替えることなどが有効です。

(8)各種災害に対する一般市民の採るべき対応

 戦争による火災、爆発、建物倒壊などの災害に遭遇した場合、市民は速やかに現場から離れ、安全な場所から可能な方法で警察や消防へ通報してください。


緊急ホットライン

警察:110
救援要請:112
緊急通報:119<?多分誤植
台湾電力:1911
中油:1912
金融サービス:1998
自治体サービス:1999
国防部サービス:1985
水道会社:1910

台北市水道局(02)8733-5678
金門県水道局 0800-002-117
連江県水道局(0836)22708
毒薬物問い合わせ (02)2871-7121
視聴覚障碍者による通報は各県警察、消防局がFAXやSMSで受け付けています。

付録(緊急持ち出し袋のリスト、緊急避難地図など)
※こちらについては省略します。

本ハンドブックは国内外および民間のガイドブックやサバイバルマニュアルなどを参考とし、国内の専門家や民間出版社と検討編集を重ねたもので、国防部、核エネルギー安全委員会、環境部、国家通信電波委員会、内政部、経済部、衛生福利部、教育部などの省庁の協力を得て作成されています。


訳者あとがき

 2022年版より中身が大幅に増補更新されて一応形となった当ハンドブックだが、各役所の宣伝のような文言や統一されているとは言い難いレイアウト、誤字などが見られ、公開当初のバージョンでは中国軍の服装を紹介するページの内容が全部間違えていてニュースで指摘されるなど、実に台湾らしいと言えば台湾らしい(悪い意味で)仕上がりであった。
 しかし、このハンドブックは普段戦争について考える習慣を持たない日本人にとって、有事には何が起きるのか?台湾の行政はどう反応するのか?自分は何をすればよいのか?という点について具体的に知り、考える材料となるのは間違いなく、翻訳することに意義はあったと思う。
 内容の中国語自体はおそらく小学校高学年から中学生でも分かる程度の難易度の文語体を排した文章で書かれており、中国語初級のリーディング教材には悪くないように思われる。興味のある方はぜひ、中国語版を一読してみて欲しい。

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