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365個の星 2022年7月7日

2年くらい前から日記をつけている。色んな事を忘れないように。特に「好きな言葉に出会った日」を忘れないように。

大きなイベントがあったとか仕事が上手くいったとか、そういう忙しいことよりも、今はふと良い言葉に出会った時や、誰かと運命的な出会いをした、良いお話ができたな、と思う日が好き。もちろん忙しい日も楽しいけど。

自分の心にずっと残っている言葉。それに初めて出会った日。初めて聞いた日。言ってくれた人に出会った日。それが何年何月何日だったのか、日付という名前を付けたい。名前を付けて、ちょうどその日がきたら誕生日みたいに思い出して、心の中で「(おめでとうー!)」と言う。そうやって嬉しくなるのが好き。

今特に知りたいのは、高校生の頃に倫理の先生が言ってくれた言葉。あれに出会った日。


「大人にも先生にも、何にもなり切らないことを、僕は大切にしてる」


確かこんな言葉だった。聞いたその瞬間に稲妻が走ったとか、特にそういうことは無かったから、ちょっと曖昧だ。それでも自分は、いつも気がつけばこの言葉を心の中で反芻し続けていて、何かあるごとに出会った日のことを考えている。今日までずっとずっと忘れずに人生の支えになってくれている言葉だから、あの日はきっと運命的な日だったんだと思う。思い出せたらいいのになと思う。

日記をつけていなかった時に出会った言葉だから、いつ聞いた言葉なのか分からない。先生に聞いたら、分かったりするんだろうか。

多分、無理だと思う。授業の本質に関する話ではあったけれど、内容そのものというよりも、そこから派生した話みたいな感じだったから。

授業の内容の細かい部分は、そこまで詳しく覚えていない(先生ごめんなさい)。でも本当に、あの時間は、あの時間で出会った言葉が、今も自分が迷ったときに心の手助けをしてくれる。

つい何かになり切りそうになったとき。完全体になった!完璧だ!と思いそうになったとき。自分の考えを「絶対あってる!」と思ったとしても、誰かの考えに「そんなの絶対間違ってる!」と反対したくなっても。どっちにもなり切らない。そのことが、自分の心をずーっと漂っている。おかげで毎日が曖昧だ。

どうしてもなり切りたくなった時は、大きく言い張りたい時は……それはその時。そんな日もある。たまに。


あの言葉の誕生日を思い出したい。

でも、思い出せなくてもいいかなとも思う。 

『星の王子さま』に出てくる王子さまが、パイロットである主人公に、こんなことを言っていた。


「夜になったら、星をながめておくれよ。ぼくんちは、とてもちっぽけだから、どこにぼくの星があるのか、きみに見せるわけにはいかないんだ。だけど、そのほうがいいよ。きみは、ぼくの星を、星のうちの、どれか一つだと思ってながめるからね。すると、きみは、どの星も、ながめるのがすきになるよ。星がみんな、きみの友だちになるわけさ」

「ぼくは、あの星のなかの一つに住むんだ。その一つの星のなかで笑うんだ。だから、きみが夜、空をながめたら、星がみんな笑ってるように見えるだろう。すると、きみだけが、笑い上戸の星を見るわけさ」

『星の王子さま』
著者 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
訳者 内藤濯

これと同じことなのかもしれない。

夜空を見上げると、たくさんの星がある。街の光で隠れてよく見えないけれど、きっとある。

王子さまはきっと、それのどれかに住んでいる。

分からないけれど、どこかにいる。


それと同じだ。

本当に大切な言葉は、誕生日なんて分からなくていい。かつてのどこかが誕生日なんだから。高校生の頃の一年間の、365日の日付のどこかに、あの言葉の誕生日があるんだから。その中のどれか一つだと思って、今日も言葉を反芻する。それだけで嬉しい。私はもう大丈夫。

見えないけれどきっとある。王子さまもあの言葉もきっとどこかにある。そう思うだけで、私はもう大丈夫。

今日も明日もきれいな夜。私だけの笑い上戸の星を見る。

大切なものだから、目には見えない。


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