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男子大学生が短編小説書いてみた

僕の彼女

午前4時 薄らと夜が明け始め、朝刊がポストに入った音が聞こえた。
「そろそろ寝ようか」
「朝日が出てから寝ようよ」
僕の彼女は朝日を見ることが好きだ。毎日夜更かしをしているわけではなく、私が次の日の仕事が休みの時だけ夜遅くまで起きている。しかし二人で映画を観たり、各々がYouTubeを見たりしていると自然と時間は過ぎていく。僕もどちらかと言えば夜型の人間であるので、夜更かしをすることはそこまで苦ではない。しかし、彼女は夜更かしをすると毎回朝日を見てからではないと寝ないのであった。正直、日の出まで待つことは厳しい日も何度かあったが、彼女は僕の体を揺さぶってまで起こしてくる徹底ぶりだ。僕は時たま
「今日は寝かしてくれないか」
と頼むが彼女は
「あとちょっとじゃない」
「少しだけ、ね?」
駄々をこねる子供のように言ってくるので従わざるを得ないのである。しかし、朝日を見るという行為はなかなか希少なことであるし、なおかつ朝日に照らされる彼女の顔と輪郭とは、自分の彼女ながらにどこか人間らしくない神々しいものを感じていた。シャープで透明な顎、薄く透き通っている白い肌、どれをとっても素敵である。

夜更かしをした日はいつも彼女の方が早く起きている。僕は大体午後3時くらいに多少の頭の重みを抱えながら起床するのだが、彼女はというと、せっせと僕と自分の分の昼食をこしらえているのである。
「おはよう」
「おはよう、よく寝られた?お昼ご飯は焼うどんでいいかしら?」
「ああ、いつもありがとう」
彼女の焼うどんは絶品であり、私の大好物だ。味付けはおたふくソースがベースで、キャベツ、にんじん、天かすが入り、強火で炒めることにより、なんともソースの焦げた香ばしい出来上がりになっている。
「いただきます」
「いただきます。少なかったら私の分あげるわね」
他にも彼女が作る料理は全て僕の舌にぴったしと合致している。食の好みが合うのはすごく助かるものである。僕が仕事で疲弊しながら帰宅した時に、嫌いなものが食卓に並ぶとつい口を出してしまう。そこで喧嘩になるとさらに疲れるという悪循環がそこには待ち受けている。彼女とはこの負のサイクルが無い。食事が終わるとたわいもない会話をしながら二人で食器を洗い、それが終わると二人でソファに腰掛け映画を鑑賞する。僕と彼女は大の映画好きで好きな映画作品も趣味も同じであり、互いに面白そうと感じたものをレンタルDVD屋で借りてくる。見終わると、あの俳優の演技はこうした方がいい、あのシーンはもっとbgmを下げて神妙な演出をするべきだなど、文句や批評を言い合ったりする。夜更かしをした次の日はこのようなどこにでもありふれている日常の時間軸を、僕と彼女は共に歩んでいるのだ。

とある月、僕は仕事が繁忙期に入り休日というものを忘れ去っていた。もちろん次の日の仕事に影響を及ぼす夜更かしは以ての外であった。そんな月のある日彼女が体調を崩した。普段体調を崩すことが少ない彼女だったが、高熱を出した。珍しいことだ。僕はその日は仕事を休み1日彼女の看病をした。彼女は
「ごめんなさい、忙しい時に。けど私はもう大丈夫!」
と空元気に言うが、僕は
「たまには休みなよ。いつも家事を任せっきりにしてた僕の責任でもあるよ。今日は僕が家事をやるから」
「いや、でも...」
「大丈夫だから、寝てて良いよ」
彼女はまだ納得していないようだったが彼女を半ば強引に布団に押し込み、寝かせた。いくら仕事が忙しくても、彼女に家事を任せっきりにしていたことを反省しながら、彼女がいつも作るように、炊事をし、洗濯などいろいろな家事をしていると、その日は終わってしまった。
夜になると彼女は
「何から何までありがとう。しっかり休めたから、明日からはもっと美味しい料理作るわね!」
と言うが、頬がまだ薄赤かったので僕は
「1日やったくらいでそこまで感謝をしないでくれよ。少しずつで大丈夫だよ。」
と声をかけると
「ありがとう、最近朝日を一緒に見られてないから見たいなぁ。」
と甘えた声で言ってきたが、私が
「だめに決まってるじゃ無いか、また熱をぶりかえすよ。今日は早く寝よう」
と言うと
「....分かった。」
と不満そうに言ったが素直にその晩は寝た。
しかし、次の日になっても彼女は熱が下がらなかった。熱が下がらないどころか、むしろ悪化していた。少し心配になった僕は仕事をその日も休み、彼女を医者に連れて行った。しかし、医者は、笑いながら熱としか判断できないから心配するなとのことだった。不安は全く解消できなかったが家に帰ると彼女を布団に寝かせ、おかゆを作ってやり食べさせた。一日家事をこなし、彼女も少し体調が落ち着いたのか寝ていたので、僕はソファに座りテレビをつけた。

ふと目を覚ました。その時外は暗くなっていた。休憩のつもりが寝てしまっていたのだ。時間を見ると午前5時だった。もうすでに朝日は上っている。彼女の容態を確かめるために、寝室に入るとそこにはすでに起きている彼女がいた。
「起きられたのかい?体調はどう?」
と問いかけたが返事は返ってこない。不思議に思った僕は彼女に近寄った。するとそこには”人間のようなもの”が座っていた。目は開きっぱなしで、上ったばかりの太陽を見つめ、不自然な格好で固まっていたのである。その”人間のようなもの”は死んでいると表現して良いのだろうか?しかし特段動揺はしなかった。人間が自分の寝室で死んでいたら混乱はするがあくまで彼女は”人間のようなもの”なのである。


僕はすぐに彼女の製作会社に電話をした。
「すみません、先週購入した当社の人型アンドロイドが動かなくなってしまいました。月に二回は朝日に当て充電をさせていたのですが....」
と言うと担当のものは
「申し訳ございません。故障だと思われます。当社の方でリコールさせていただき、すぐに新しい製品をお届けいたします。」
と言うので、僕は
「ありがとうございます。」
と礼を言って電話を切った。説明書には月二回の充電さえすれば、1ヶ月は動くと書いてあったがなぁ、と内心思いつつ、新しい製品が来るなら良しとした。

次の日の朝、返品用の段ボールと、新しい彼女が届いた。
「やれやれ、設定し直しか。」
と少し落ち込んだ。このアンドロイドは様々な好みまで細かく設定できるので、一度設定してしまえば良いのだが何しろ時間がかかるのだ。
「自動充電にするとロボット感が出て嫌だったが、寝たい時に寝られないことは辛かったな」
と前回の彼女の反省を活かして設定を少し変更した。全て終える頃には深夜になってしまったので、朝日が彼女にしっかりと当たったことを確認して、その日は布団に入り寝た。

「おはよう」
「おはよう、よく寝られた?お昼ご飯は焼うどんでいいかしら?」
「ああ、いつもありがとう」
ソースの香ばしい香りがキッチンから漂ってくる。

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