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チ ャ リ ン コ 禁 止 。

基本的にチャリンコという言葉は
自転車に乗る人々を嘲り笑うために広がった侮蔑語です。
現在、自電車乗りを揶揄する
チャリカスという呼び名と大差ないでしょう。
それを踏まえるなら
自転車を趣味だと公言する人なら決して使うべきではありません。
その言葉はもともと「盗み」を意味するスラングで
1970年代の広辞苑には
盗み関連の意味だけが記載されていたようです。
そこまで知って
まだ
チャリンコという言葉を使いますか?

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江 戸 時 代 か ら あ る 言 葉

ネット検索を用いて様々な情報を入念に調べてみると、その語源は江戸時代に使用されていた「子供のスリ」を意味する俗称「ちゃりんこ」に辿り着くと思います。通常の言葉で表現すると「子供の巾着切り」だったらしい。それが長らく「盗み」に関する隠語として昭和の時代までも使われ続けてきました。隠語ですから、真っ当な人間は使用しなかったようで認知度は低かったのでしょう。おそらく、不良仲間の間だけで通じるような言葉として利用されたのだと思います。例えば「駅前で手頃な自転車を探してチャリンコしてきたぜ」だとか。そうなんです、そもそも自転車というのは「チャリンコ」される対象なのです。

もともと隠語ですから、周囲の人間には正確な意味が伝わらず、いつしか盗まれる対象の「自転車」をチャリンコと呼ぶように変化していったのでしょう。確かにその勘違いも、オノマトペ/擬音語的にはそれほど違和感はなかっただろうと感じます。
この辺りの話は、自転車の専門家であり作家でもある小池一介氏が非常に詳しく、ご本人が匿名で発信し続ける情報サイトにて詳しく解説されています。自転車業界としては割りと有名なサイトですが、匿名を貫いていらっしゃるようなので、具体的なアドレスなどはボクとしても記述できません。英国式◯◯◯生活という言葉が、探すための鍵となるでしょう。もし、辿り着けたなら「チャリ」でサイト内検索を試みてください。芸術や宗教に関しても非常に造詣が深い御仁ですので、たとえ自転車への興味が薄くとも色々と興味深い内容に出会えると思います。

語源については江戸時代からの隠語、そして日本中にその言葉を流布した存在までも調べられました。喜劇俳優の由利徹さんが、子供向けの特撮テレビドラマ『がんばれ!! ロボコン』の中で自転車のことを「チャリンコ」と呼びまくっていたようなのです。ただどうなのでしょう、幼児が観る番組ですから、それほど影響はなかったのではないでしょうか。
根気強く調べ続けてみると、それらしき存在に辿り着きました。どうやら俳優の水谷豊さんが、とても人気を博したテレビドラマ『熱中時代・刑事編』の中で自転車のことを「チャリンコ」と読んでいたらしいのです。これなら幅広い年齢層、とくに自転車が身近な存在で新しい言葉を欲している若者たちには広く知れ渡ったことでしょう。おそらく流布した犯人は水谷豊さん、ある意味もはや隠語とは言えなくなってしまったのです。

とはいえ、実は両方ともリアルタイムで観ていたボクなのですが、年齢が低かったためか正直あまりピンときません。熱中時代の2年後に放送されて、名前だけは有名になった『じゃりン子チエ』に関して、ここまで近い呼称にもかかわらず、まったく自転車のことは連想しませんでした。今でも下駄のイメージしかありません。
ちなみにボクは松田優作さんの『探偵物語』が大好きで、その番組内で初めてトルコ(石鹸の国)という言葉を認識しました、内容は微塵も理解できませんでしたけど。
そう言えば名古屋をはじめ東海地方では、自転車をケッタマシーンケッタと呼ぶようです。この言葉はボクが成人する頃に知りました。どうやらペダリングを「蹴ったくる」と呼ぶことが由来らしく、チャリンコの語源とは異なり健全な様子。下駄と似ているのは何某かの意味もなく偶然なのでしょう。

自分の記憶を辿るならモーターサイクル、日本でいうところのバイク乗りが、同じ二輪の存在である自転車乗りに対して、侮辱してマウントを取る言葉として使われていたような気がします。1980年代は確か、ただ自転車に乗っているだけでも「あいつら、中◯人かよ」と耳を疑うような言葉で揶揄する人間が大勢いました。自転車の市民権が今よりずっと低かったのです。
高級すぎる自転車も考えものですが世紀が変わる頃、ロードバイクと呼ばれる存在が普通の日本製オートバイ、要は自分のバイクよりも高額だと知り、下世話な価値観の輩たちが多少は黙るようになったのでしょう。とは言え現在は、マナーの悪い自転車乗りがネット上で「チャリカス」と揶揄されるようになってしまいました。悪評ばかりの「撮り鉄」と同列、もしくはそれ以下の扱いです。確かに2020年代は、自己中心的で攻撃的な競技用・自転車乗りが溢れかえっているのも事実でしょう。そんな彼らはチャリカスと呼ばれても仕方ありません。

参考までに…
1974年10月 4日〜1977年 3月25日:がんばれ!! ロボコン
1979年 4月 7日〜1979年10月 6日:熱中時代・刑事編
1979年 9月18日〜1980年 4月 1日:探偵物語
1981年10月 3日〜1983年 3月25日:じゃりン子チエ

駐輪された誰かの超高級ロードバイク、1,350,000円也

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情 報 操 作 の 疑 い

ボクが情報を収集するにあたり、御多分に洩れずウィキペディアも利用している訳ですが、こと「チャリンコ」に関しては、正直ほとんど頼りになりませんでした。実はこの件に関して10年以上前にもウィキを利用したのですが、その頃の情報と現在の情報とでは、内容がかけ離れてしまっているのです。当時は、チャリンコという言葉は自転車の俗称で、その語源は「盗み」を意味する言葉だったと記載されていました。
ところが、現在確認してみると語源に関して、擬音が由来の説と、韓国語が由来の説、その2つが目立つよう最初の項目として記載されているのです。1970年代の広辞苑には「盗み」を意味する内容だけが記載されていたのにも関わらず、本来の語源は後方の別枠へと追いやられているのです。これは明らかにミスリードを誘発させる不自然な記載としか言いようがありません、チャリンコという言葉をこのまま定着させようとする意思すら感じられます。

個人的には、2013年の7月からNHK・BSでその言葉に近い『チャリダー』という番組が始まって以降、ウィキの記載が怪しくなったのではと推測します。この番組、最初は単発ものだったようで2015年の4月からレギュラー番組化されたらしい。ありがちな話ですが単発時は語源を詳しく調べなかったのではないでしょうか。もしそうであれば、天下のNHKともあろうものが、たとえスラングとはいえ「盗み」を意味する言葉を使用していたことが後から発覚し、大問題に発展したのではないかと思われます。

おそらく皆様もご存知だとは思いますが、ウィキの情報は決して間違いがない訳ではありません。大手メディアの依頼であれば情報操作などカンタンなのです。昨今、NHKが情報操作のうえ言論統制している事実が様々な場面で露呈していますが、それに比べればウィキの情報を書き換えるくらい朝飯前でしょう。

つい先日、ボクの投稿で「東京国際フォーラム」を題材とした記事のコメント欄で少し触れましたが、ウィキの情報を上から読みすすめると、設計した建築家が渡辺邦夫氏と認識する様に書かれています。これも完全に意図されたミスリードでしょう。
本当に設計したのは、国際公開コンペで決定した建築家、ラファエル・ヴィニオリ・ベセイ氏。渡辺氏は構造家ですから、ラファエル氏の名前が出る前に、渡辺氏が設計したと明記するのは通常なら有り得ないことです。普段から疑心暗鬼になる必要はないと思いますが、もしの反対の情報と遭遇したなら、まずはウィキの方を疑うのが適切なのかも知れません。情報は莫大な金額を生み出すのもご存知の通り、本当に恐ろしい世の中になったものです。

自転車を大切にしない人々が生み出した世界

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擬 音 語 と い う 証 拠

チャリンコの語源をオノマトペ、擬音語に由来するとの説があります。だけど待ってください、自転車のベルはチリンチリンって表現されるのが普通ですよね。チャリンはお金の音なんです、だからこそ「盗む」という言葉に充てがわれたのではないでしょうか。日本の場合、自転車のベルは音色の美しい響きから、元々は真鍮製が使われていたと思われます。仏壇のチ~ンは「おりん」という仏具を鳴らす音ですが、このおりんこそが真鍮で製造されているのです。日本人のほとんどが知っているあの音は、心に響く澄んだ美しい音色ですよね。
中国製やら台湾製は知りませんが、日本人の音に対する感性を見くびらない方が良い。たとえ江戸時代でも、そのチャリンは小銭が落ちた時に鳴らす音の意味に他ならないでしょう。

因みに、日本の硬貨に使用される材質は、500円玉=ニッケル黄銅、100円玉=白銅、50玉=白銅、10円玉=青銅、5円玉=黄銅、1円玉=アルミニウム、新しくなった500円玉は、ニッケル黄銅、白銅、銅の3種類の金属が使用されています。

写真に写る金色のコインはイタリアの20セント硬貨。これがなんと真鍮製なんだそうです。もしもイタリアだったなら、盗むのスラングですらチリ~ンコになって、自転車さえもチリ~ンコと呼ばれていたかも知れませんね、だってオノマトペが由来ならそういう事、そういう音色ですから。

イタリア製の自転車部品と20セント硬貨、奇跡の邂逅

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未 来 派 に つ い て

内容が少しそれますが、このイタリア製コインに刻まれた不思議なレリーフの正体は、未来派という前衛芸術運動の主要メンバーだったウンベルト・ボッチョーニさんの作品で、本来は『空間における連続性の唯一の形態』というタイトルのブロンズ製の立体造形になります。今年の3月に亡くなられた坂本龍一さんが、1986年に発表したアルバムのタイトルに用いている、あの未来派ですね、坂本さんの作品名は『未来派野郎』でした。未来派の絵画といえばジャコモ・バッラさんの『鎖に繋がれた犬のダイナミズム』が有名なのでしょう。あの足が幾重にも重なる表現は、日本のマンガ表現に多大な影響を与えたはず、ボクは勝手にそう信じています。赤塚不二夫さんが多用していましたね、現在のマンガやアニメでもギャグ表現のひとつとして頻繁に登場するのは、きっと誰もがご存知だと思います。

未来派の影響といえば、自転車に使用されるメカニカルなパーツの造形にも多大な影響を与えました。コインの載せられている銀色の金属部品は、自転車の後方用・変速機でリア・ディレイラーと呼ばれています。イタリアの自転車部品メーカー、カンパニョーロ社の製造した古い製品なのですが現代でも非常に人気のあるタイプです。このデザインはアメリカ人女性の作品と伝わっていて、そのプロダクト・デザイナーはイタリア未来派の作品、まさにこのコインに刻まれた、ボッチョーニさんの立体作品からインスパイアされたと語っているようです。発端となったのは後追いする部品メーカー、日本のシマノ社が製造したエアロ形状の先駆者、デュラエースAXの存在あってのことだとも言われています。

※以下の数行、超マニアックな話
前の項に配置した画像、コルサレコードRDの刻印タイプはストローク調節ネジが通常ならばマイナスネジ。刻印の最終型と思われるプラスネジのタイプを選択したのには大切な意味があります。男性諸君ならジェットストリームアタックを仕掛ける機体のモノアイを思い浮かべてください。

カンパニョーロ社のコルサレコードで組まれた、黒い二輪車

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尊 敬 の 念 は あ る か

ところでこのボッチョーニさんの作品、日本のアニメで見覚えがありませんでしょうか? そうそう、初期のガンダムに登場するモビルスーツ、型式番号:MSー09ドムのデザインもボッチョーニ作品からのインスパイアのようです。ガンダム・デザインの起源となるメカニカルデザイナーの大河原邦男さんは、元々のMSー06ザクをイタリア製の男性スーツをイメージして創造したようですから、根底となるテイストとしてもブレていないのでしょう。

カンパニョーロ社のコルサレコード・シリーズと、ツィマッド社(仮想)のMSー09ドム・シリーズとが、発想の起点が同じだったというのはとても興味深いことです。確かに双方ともデザイン要素に多大な影響を感じますが、出来上がったものが双方同士では似ても似つかないのです、そして双方のムーブメントを具現化した造形は革新的で本当に素晴らしい。恐らくこれこそがインスパイアとパクリとの違いではないでしょうか。
インスパイアという行為にはリスペクト、尊敬の念が込められています。それに対してパクリはただ単に盗んでいるだけで、リスペクトする精神がまるで感じられません。そして、チャリンコという言葉にも相手を尊敬するような気持ちが皆無だったのです。パクリもチャリンコも「盗み」を意味する隠語として使われる不名誉で不誠実な言葉ですから、尊敬の念などあろうはずがありません。

百歩譲って、その語源がどうであれ、他人を揶揄する言葉を自分に対して使うのは、絶対に間違っていると断言しましょう。デザイナーなどのクリエイターなら自分のことを「パクラー」と呼ぶのに等しい。どう考えても、自転車好きの人が自分のことをチャリカスと呼ぶのは不自然だと思うのです、日本語にはもともと銀輪という素敵な言葉も存在するのですから。先述した作家、小池一介氏の「英国式◯◯◯生活」によると、日本では明治の頃、1897年には既に自転車のクラブが存在していて、その当時はまだ日本山岳会なるものは存在しておらず、登山を嗜むのよりも早く自転車を嗜む方々の集団が形成されていたようです。

 クロームメッキの施された真鍮製のベルを装着

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チ ャ リ ン コ = パ ク リ 、 自 転 車 = リ ス ペ ク ト 。

パクリはもちろん禁止されている行為ですが
それとまったく同じ理由でチャリンコするのも禁止なのです。
ましてや
自転車を愛すべき存在と感じる人が使うのは言語道断。
その言葉を使っても許されるのは
真っ当な運転をする自動車ドライバーくらいだと気付いてください。
大好きな自転車のことを
チャリンコなどと呼ぶような乱暴者は
自動車のシートから
チャリカスなどと揶揄されている事でしょう。
尊敬される必要はないけど…

それでいいの?

自ら進んでチャリンコに成り下がる必要はない


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