浪人④好きな人がいた

センター試験まであと数日。彼女といる毎日が続く。センター試験直前講習最終日、センター試験まであと2日。その日も講義の後、少し自習をしていた。少し自習をした後、彼女が帰ると言った。ろきちゃんも少し買い物したかったので一緒に帰ることにした。

予備校の階段を降っている時、珍しく彼女の口数が多かった。
「なんかさ、別に受かろうが落ちようがどっちでもいいっていうかさ、そりゃ親には悪いと思ってるけど………」
続く続く。7階から1階に降りるまで、ずっとネガティブな話をしていた。ちょっとビックリもしたし、なんて言ってあげたらいいのか、分からなすぎた。1年間、社会の外側の予備校で過ごしたろきちゃんたち浪人生の前には、どんな頑張れ!も軽すぎるし、そんな人たちが改めて奮起するような言葉など我ながら見当たらない。

予備校を出て
「……寒。雪だねぇ。当日はどうかな」
めちゃくちゃ関係ない話をしてしまった。もちろん、こんな会話の流れおかしいのは分かってるけど、なんで言ったらいいか本当に分からなかった。

「大丈夫だよ。なんの責任も根拠もないけど。少なくとも僕が1年間君を見てきて、この人に負けたくない、この人よりも努力してやるって思ったのは本当で。浪人生活送りながら、他の人に影響与えられるなんてすごいよ。普通自分のことで精一杯よ。あと、僕が憧れたんだ。いい結果頼むよ。全部試験終わってから考えたら。今考えるにしては難しすぎる。受験することだけは決まってるからさ」

くらいのこと言えてたら、違ったのかな。

その後、彼女はこの十字路を右に曲がれば駅があるので帰る、ろきちゃんは真っ直ぐ商店街に行く、所まで来た。
「じゃあね、また」
「私も真っ直ぐ行こうかな」
「そう」
そんなこと言われたらそりゃ期待する。でも、何をどう切り出したらいいかも分からず、さっきよりも圧倒的に口数が減ったまま商店街を2人で歩いていた。

途中、どんなご利益があるのかも分からない神社があった。なんとなく、そこに入り、お賽銭を入れた。彼女は何をお願いしたのだろうか。少なくともろきちゃんは、彼女に気を取られ、何もお願い出来なかった。

「センター試験頑張ろ」

そういって別れた。センター試験を経て、2次試験対策の期間に入り、2次試験を迎える。彼女とこの日以降喋ることはなかった。こっちから連絡先だったり、彼氏いるの?とか絶対に聞かないと思ってたから、彼女がどこの大学に行ったのかとか全く知らない。

でも、彼女のおかげで、浪人生活は勉強以外の楽しみがあったし、切磋琢磨というか、頑張れた。

本当にありがとう。

去年の年始、2年ぶりに彼女とセンター試験前に行った神社に、1人でお参りに行った。彼女がどこで何してるか知る由もないけど、なんとかろきちゃんが人前に出ることができるようになったら、その時は見て、気づいて欲しいなと、そうお願いした。

完結

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