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映画〈海街diary〉:喪服と日常映画

長女、幸(綾瀬はるか)、次女佳乃(長澤まさみ)、三女千佳(夏帆)と彼女らの腹違いの妹すず(広瀬すず)の四姉妹が海街鎌倉でひとつ屋根の下、それぞれの想いを抱えながら家族になろうとする物語。豪華俳優陣と是枝裕和監督の映画だ。
このnoteでは映画の感想を姉妹たちの喪服に注目して書いている。また、是枝監督のインタビュー記事を読んで、〈海街diary〉を鑑賞するためのひとつの視点を述べている。

映画『海街diary』公式サイト, CAST ( https://umimachi.gaga.ne.jp )

鎌倉や山形の風景はとても綺麗で、鎌倉の四姉妹が暮らす家の様子はとても「日本っぽい」「The 日本の風景」だ。都市部のマンション暮らしの人たちには、とても幻想的な風景に見えるだろうし、日本に来たことのない人に日本の風景を紹介するにはとてもいい作品だろう。海辺の電車の横を中学生のすずたちが自転車で駆け抜ける様子なんかはなんだか懐かしく感じた(海街で中学生時代を過ごしたわけではないけれど)。

喪服と海街diary

映画の中では、四姉妹が喪服を着る機会は3回ある。

1度目:四姉妹の父の葬儀

このシーンは映画序盤であることから、彼女たちのキャラクターを服にのせているんだろうなと思わされる。

長女幸は白の襟の詰まったシャツに黒のジャケットに膝上丈のスカートでしっかり者スタイル
次女佳乃は引き締まった腰とスラリと長い足を印象付けるノースリーブとスカートで誰もが釘付けになる綺麗めスタイルだ。
三女千佳は黒系の半袖シャツにジャンパースカートに半端丈靴下でおしゃれで可愛いスタイルだ。

姉妹らが父の葬儀から帰るシーン

2度目:祖母の法事

視聴者はそれぞれのキャラクターの把握はできているため服装の印象は前回と引き続いている。すずが鎌倉の中学校の制服に変わっているくらいだ。三姉妹の母(大竹しのぶ)の喪服のスタイルは佳乃と千佳を足して割ったようなおてんばなおば様スタイルだ。

3度目:二ノ宮さんの葬儀

幸は1度目の葬儀とは異なり黒色のインナーになっている。
不倫関係にあった椎名(堤真一)ときっぱり別れたことが服装に影響しているんだろうかとついつい思ってしまう。父の葬儀には不参加の予定だったが、椎名のアドバイスにより参加していたため、もしかしたら、1度目の彼女の喪服のスタイルと椎名との関係があったのかもしれない。

佳乃は勤め先の銀行で昇進したこともあってか、フォーマルなジャケットを着ている。

千佳はこれまで同様のスタイルで、父親の葬儀の時と同じように周りの草花に興味を示し、手のひらいっぱいに花を集めている姿がある。

二ノ宮さんの葬儀に参列する姉妹ら

この映画は「お葬式」が大きなポイントであるため、制作側も喪服には注目してほしい思いがあるだろう。人生に数回しか着る機会のない喪服にはルールや制限もある。しかも、「だいたい誰が着ても同じ格好」になるのが喪服だ。その制約があるからこそ、喪服がキャラクターの個性を引き立てせる一つの道具になり得るのだと推察する。

「出てこない人間が重要な役割を果たす」

小さな衝突でゆっくり変化していくだけで大事件が起きないこの類のヒューマンドラマやのほほんとした日常を描いた映画が苦手な人は、この〈海街diary〉も退屈に感じられるだろう。正直、私も45分くらいのところで、この調子が続くだけなのか、と思ってしまった。

是枝監督はインタビューで

この物語は、出てこない人間が重要な役割を果たす作品なんだと改めて思い直しました。そう思って読み直すと、キーになる人物――4人の父親やすずの母親などの姿は出てこないんですよね。その人たちを意識しながらみんな、生きている。生きていない人間を回想で出さずに、どうやって生きている人間に重ねながら生きていくか?

シネマカフェ( https://www.cinemacafe.net/article/2015/06/12/31892.html  )

と登場人物たちについて話していた。
このインタビュー記事を読んでから映画を見れば良かったとやや後悔だ。

目にみえる流れゆく毎日の生活は退屈なもので、大事件が起こることなんてないのが日常だ。それに加えて、目の前にいる人たちより「出てこない人間が重要な役割を果たす」ときはままある。

このことを念頭に映画〈海街diary〉を見返せば何かもっと深いものを映画から得られるんではないだろうか。この映画以外でも、「出てこない人間」を想像して見ればよさそうだ。
この是枝監督の発言にはハッとさせられた。
しばらくしてから、また見直すことにしよう。
おわり。

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