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ドラマで描かれる韓国/北朝鮮の「監視」:韓国ドラマ「愛の不時着」

これまでAmazonプライムビデオで韓国ドラマを見ていたが、ついにNetflixを見るようになった。そして、話題の「愛の不時着」の1周目を無事に見終わった。

生活描写の部分が細かいために韓国と北朝鮮の暮らしがドラマから垣間見えたような気がした。その中でも最終回までたどり着いて、ドンと心にきたのは韓国と北朝鮮の「監視」の描かれ方だった。このことについて、北朝鮮側、韓国側のドラマ内での事柄を述べ、その後まとめとおまけとする。

*写真はgoogle画像検索から拾っています。K-boardに掲載されている記事からも画像を拝借しました。

北朝鮮

【第3話】ユン・セリが中隊長リ・ジョンヒョクの家で暮らし始める。ジョンヒョクの上司で保衛部少佐のチョ・チョルガンは、セリとジョンヒョクを不審に思い、2人の家の盗聴を始める。

ジョンヒョクは総政治局長の次男であり、以前からジョンヒョクとチョルガンは対立関係にある。過去にジョンヒョクの兄がチョルガンの不正を暴こうとした。不正が暴かれる寸前にチョルガンは、ジョンヒョクの兄を盗聴し、殺害した。チョルガンはジョンヒョクとセリを監視することでリ・ジョンヒョク家族を失墜させようと企んでいる。

チョルガンは盗監聴室に勤めている部下チョ・マンボクに、ジョンヒョクとセリが暮らす家を盗聴させ、全てを伝えるように指令を出す。

マンボクは盗監聴室に勤めているため「耳野郎」と市民から侮蔑的な呼ばれ方をしている。

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【第5話】ユン・セリを帰国させるためのパスポートを作るため、リ・ジョンヒョクとセリは平壌ホテルに宿泊する。

ジョンヒョクは総政治局長の父親の力を借り、セリを国際的な体育大会に補欠選手として参加させることを考える。体育大会に北朝鮮代表として参加するという名目で、パスポートを作り大会期間中に違う国に逃げ、韓国に帰国させることが狙いだった。

平壌ホテルの個室に着くや否や、ジョンヒョクは部屋中に仕掛けられている盗聴器を探し始める。ランプや壁、リモコン、天井のライトなどそこら中に盗聴器があり、セリは驚く。

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【北朝鮮部分で一貫していること】村の女性たちに監視され、噂される。

中隊長のリ・ジョンヒョクは村の女性たちに人気がある。彼女たちはジョンヒョクの生活に関心があり、ユン・セリが不時着してからはセリの行動も見張っている。村の女性たちとセリは時間を共にすることで仲良くなり、信頼関係を築いていく。

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北朝鮮側からは次のようなことが描かれている。

軍部には盗聴を担当する「耳野郎」と呼ばれる仕事があり、ターゲットになれば知らない間に自宅まで盗聴され、報告される。ホテルや個室には盗聴器が仕掛けられている。そして、村に住んでいる住人たちは住人同士でお互いの生活を監視している。北朝鮮に住む人々は「耳野郎」の存在も盗聴器が仕掛けられていることも周知である。

対する、韓国はどうだろうか。

韓国

【第11話】無事に韓国に帰国したユン・セリ。リ・ジョンヒョクはチョ・チョルガンがセリを追って不法入国したことを知り、同じルートで韓国に入る。セリが夜眠れず散歩に出掛けたとき、ジョンヒョクとセリは韓国で再会を果たす。

ジョンヒョクとセリは2人でカフェに入る。セリはジョンヒョクに、韓国ではいろんなところに監視カメラがあり、ジョンヒョクが韓国にいることがばれてしまう可能性があることを伝える。セリはカフェから出るときに自身が身につけていたマフラーでジョンヒョクをグルグルまきにして顔を隠す。

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翌日、セリはジョンヒョクが北朝鮮から入国したままの格好では良くないと思い、デパートに連れて行く。セリに新しいスーツをプレゼントされたジョンヒョクは服装を新たにし、デパートを出ていく。

ジョンヒョクはデパートの出口で自分が出た後も人が出てきたため、ドアを押さえて待っていた。セリはジョンヒョクがついて来ていないことに気がつき、振り返るとドアマンのようなジョンヒョクの姿があった。

ジョンヒョクのあまりの格好良さに、デパートに来ていた女性たちがジョンヒョクの姿を動画で撮影し、動画投稿サイトに投稿する。すると、その動画は瞬く間に韓国中の話題となる。

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【第14話】ユン・セリとリ・ジョンヒョクがパパラッチに撮影される。

セリが入院している間、ジョンヒョクは病院内でもボディーガードとしてセリを見守っていた。セリがベッドから立ち上がろうとして、ジョンヒョクに抱き上げられているところをパパラッチに盗撮される

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【第15話】韓国国家情報院はリ・ジョンヒョクが北朝鮮から韓国へ不法入国者していることをつきとめる。国家情報院は監視カメラの映像からジョンヒョクの韓国滞在中の様子を把握する。

デパートでドアを開け続けるジョンヒョクの映像は一般人が動画を撮り、動画投稿サイトに投稿したものだった。その他にも、街の中に設置されている監視カメラにジョンヒョクの行動はしっかりと映されていた。

坂道の上から滑り落ちてくるベビーカーをキャッチするジョンヒョク、木に引っかかってしまった風船を取って子どもに渡してあげるジョンヒョクなど、どれもが「模範市民」かのような善良で優しいジョンヒョクの姿だった。

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韓国側からは次のようなことが描かれている。

街の中には至る所に監視カメラ(CCTV)が設置されている。有名人であればパパラッチに追われることもある。一般人でも動画を撮影し、動画投稿サイトに投稿することができる。そして、その動画はネット上で一気に拡散され話題となる。韓国に住む人々は監視カメラで撮影されていることも、動画投稿サイトの存在も知っており警察だけではなく一般市民も利用している。


ドラマで描かれる韓国と北朝鮮の「監視」

ドラマから2つの国の監視体制を比べてみると、人びとの行動をより監視しているのは、北朝鮮ではなく韓国であることがわかる。行動を監視されることから逃げるのであれば、命の保証はないがク・スンジュンのように北朝鮮に逃れることが賢明であることがわかる。ドラマの中で詐欺行為を働いたスンジュンは韓国警察の手から逃れるために北朝鮮に逃亡していた。


北朝鮮ではターゲットにならなければ特に盗聴されることはない。ホテルなどには盗聴器が仕掛けられていることはわかっているため、ホテルに泊まるときにはそれをまずは探して取り除きさえすれば盗聴されることはない。


他方、韓国では顔までしっかり判別ができる監視カメラが街中に設置されている。

韓国ドラマでは、財閥やお金持ちが自分たちに不利なことがあると監視カメラの映像を警察や記者より先に収集して、策を巡らすシーンはよく見かける。ドラマと現実は異なるが、よく見かけるということは、韓国で生活する人びとにとってはこのことがわりと身近な事柄であるとも言えるだろう。

加えて、一般の人びとの映像発信だ。動画や写真を撮影し発信することは、スマホを持ってさえいれば/ネット環境がありさえすれば、誰にでもできる。スマホを持っていればすぐに撮影できるし、そのままSNSに投稿することができる。

北朝鮮の監視や盗聴に比べて、韓国の監視は手軽で身近だ。そして、行動を監視されていることを忘れてしまうくらいに、普遍的なこととして存在している。


以上のことが、「愛の不時着」では鮮やかに描かれていた。他にも韓国と北朝鮮がいろんな部分で対比されていた。韓国ドラマの細部へのこだわりは心底感心させられるし、考えさせられる。

「愛の不時着」おもしろかった。ヒョンビンもソン・イェジンも素敵だったし、なんと言っても第5中隊の4人組と「耳野郎」からは目が離せなかった。ソ・ジヘとキム・ジョンヒョンのカップルはめちゃくちゃいいし、ジョンヒョンよかったよね。


おまけ:ミシェル・フーコーを思い出す

話は変わって、監視といえば、ミシェル・フーコーの『監獄の誕生』だ。

現代社会は監視社会とも言える。今、私がnoteを更新しているこの瞬間も、アクセス履歴を見れば私の行動は把握できるわけだし、カフェで記事を書いているならばカフェに行くまでの道のりや店内に設置された監視カメラに私は映っている。

今、この瞬間も私たちは監視されているのだ。

ある意味では、技術が発展すればするほどプライバシーは侵害されていく。どこに出かけるにしても、「善良な市民」としての振る舞いをしなければならなくなるから、「誰にも邪魔されないプライベート」なんてものはなくなるのだろう。

そんなことを思い出した。フーコーを再読するべき日は近そうだ。

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