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韓国ドラマ「ムーブ・トゥ・ヘブン」:大きなテーマと小さな問題

ドラマ「ムーブ・トゥ・ヘブン:私は遺品整理士です」を見終わった。
1話が50分程度で全10話なため、気がついたら最終回を迎えていた。最終回の最後が次につながってもおかしくない感じだった。シーズン2があったらいいな。

なるべくネタバレをしないように気をつけて思ったことを書こう。
韓国ドラマ好きな方や社会派ドラマが好きな方には是非見てほしい。

あらすじ

アスペルガー症候群のグル(タン・ジュンサン)と刑務所から出所直後にグルの後見人候補になった叔父のサング(イ・ジェフン)。2人はグルの父が経営していた遺品整理会社「ムーブ・トゥ・ヘブン」で一緒に働くことになる。グルとサングは遺品の整理をしながら、故人が伝えきれなかった想いを残された人たちに届ける。人の気持ちを推し量ることが苦手なグルと気の荒いサングは、仕事を通じてそれぞれ成長していく。

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(左:イ・ジェフン // 中央:タン・ジュンサン // 右:ホン・スンヒ)

大きなテーマ:遺品整理

遺品整理会社とは故人の家の片付けをする会社だ。孤独死をした場合や住人が亡くなってしまい部屋の片付けができないときに、家族や近隣住民、警察、ソーシャルワーカーなどから遺品整理会社に依頼が届く。

このドラマは”遺品整理への偏見”に対して大きな問題提起をしている。

グルとサングは依頼を受けて遺品整理に向かう。2人は向かった先で依頼した人や近隣住民に心ないことを言われる。

「掃除はいつ終わる?」「気味が悪いから早く片付けて」「遺品整理会社の車を通り沿いに停めないで、隠れるように停めて」

作業をしていたサングは子どもに「おじさん、死体を片付けてる人?お母さんにおじさんと話すとバイ菌がつくって言われた」と声をかけられる。

遺品の中でも貴重品や思い出など重要なものは、家族や親戚や親しい友人に届ける。ここまでがグルとサングの仕事だが、届けに行った先でも「死んだ人の残したものなんかいらない」「金目のものだけでいい」と断られる。

グルとサングは「故人の最後の引っ越しの手伝いを」と丁寧に仕事をしている。しかし、世間の目は冷ややかだ。


ドラマの中の大きな課題は遺品整理業を広く知ってもらうとともに、この偏見を改善することにあるのだろう。「腐敗臭が困る」「早く処理してほしい」「事故物件になってしまう」とかそういうことではなくて、まずは「ここにはどんな人生があったのか」を考えることが求められているように感じた。

小さな問題:現代社会の様々な出来事

ドラマの中では各話ごとに最近の社会問題がうまく取り込まれている。「小さな問題」とは書いたが、どれも大きな問題ばかりだ。ネタバレになるためあまり多くはかかない。

例えば、グルがアスペルガーであることだ。
グルに初めて会った人は「AIだ」「狂った人」と彼を蔑視する。しかし、隣人のナル(ホン・スンヒ)はグルのことを「天才だ!」「グルより賢い人はいない!」と言う。サングも最初はグルのことをAIだと言っていたが、一緒に過ごしているとサングもなると同じように「グルは天才だ」と言うようになる。

遺品整理業もそうだし、死体もそうだ。
何者か分からないから偏見は生まれる。
遺品整理業がどういう仕事か分かってきたころから、サングの仕事への態度は変わる。依頼を受けたときはただの「遺体」だが、遺品からその人生を想像できれば「最期の姿」になる。グルの人柄を知れば「狂った人」ではなく「天才」になる。
社会にあるいろんな「偏見」に対して問いを投げかけているように思えた。

そのほかにも、DVやネグレクト、自殺など現代社会の様々な問題が取り上げられていた。最終回とその前の9話は「韓国ではこんなことがあるのか」と思わされたが、思い返せば日本でも最近、データがガバガバだったことがニュースになっていたことだった。

おまけ

トレーラーだけを見たときに一番に思い出したのは、日本映画「おくりびと」だ。「おくりびと」は納棺師の話でどちらも「死」に関するテーマであることと、職業への偏見という意味で二つの作品は通ずるところがある。

見始めてから思い出したのはアメリカ映画「レインマン(Rain Man)」
ダスティン・ホフマンとトム・クルーズの名作映画だ。

トム・クルーズ演じるチャーリーは父の訃報を受け、財産目当てに故郷に帰る。
しかし、財産は全て兄のダスティン・ホフマン演じるレイモンドが受け取ることになっていた。チャーリーはなんとしてでも、遺産を手に入れたいがためにレイモンドを連れ出す。サヴァン症候群のレイモンドにチャーリーは最初イライラした気持ちになるが、兄の特殊能力に魅せられ最後には「親友」になる。

サングは口は悪いが心優しい人である。グルとサングが仲良くなっていく様子はレイモンドとチャーリーのようだった。

上川隆也主演の日本ドラマ「遺留捜査」も思い出した。

似たテーマの映画やドラマは年月が経ってもあるということは、課題はまだまだあるということだ。何度も何度も繰り返し時代を超えていろんな視点から新しい出来事も含めて考え直さなければいけないのだろう。

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