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株式会社リコー・大越 瑛美さん「大企業と里山の連携」

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大越さん
  • 里山でも可能な、大企業との連携

  • アクセラレータープログラム「TRIBUS」の展開

  • リコーの環境関連事業

  • 京都・美山の地域内エコシステム

  • あうる京北で使うエネルギーをどうするか?

里山でも可能な、大企業との連携
昨年、2021年夏に東京から京北へ移住したという大越さん。家のまわりは、これまで見たことないような様々な虫に溢れ、冬になれば、車は雪に埋もれていく。そんな環境で暮らしながら、今は株式会社リコーのふたつの部門に所属し、基本的にはリモートで仕事を続けている。
大越さんが所属する株式会社リコーは、オフィス向け複合機などのOAメーカーとしてこれまで事業を続けてきたが、社会が大きく変動する中で、2020年にデジタルサービスの会社として生まれ変わる方針を打ち出した。その中でいま彼女は「TRIBUS(トライバス)」というアクセラレータープログラムに関わっている。
2019年から始まったこのプログラムは、リコーのさまざまなリソースを社外のスタートアップ及び社内起業家に使ってもらい、新たなイノベーションとなる新規事業開発を目指したもの。言い換えれば、「事業創造のための挑戦の場」。毎年募集領域が「生産現場のスマート化!誰もが付加価値の高い仕事へ」などと設定され、そのコミュニティには、応募者のみならず、サポーター、イベント聴講者、カタリスト(スタートアップに伴走しながらリコーのリソースを使う戦略を共に考えていく担当者チーム)、など誰もが参加できる。とくにサポーターたちは自らのスキルを登録し、社内副業制度を活用して挑戦する様々なチームを支援している。2019年は東京、2020年以降はオンラインで開催しているが、2020年からは東京以外の地域からの参加が増えたという。
ちなみに見方を変えれば、参画したスタートアップや起業家たちはリコーという大企業のブランドを背負っての新規事業になる。「そのことを足枷や重荷だととらえずに済むように、ブランドイメージはリコーの赤ではなく、青色を採用しているんです」と大越さん。それぞれのスタートアップもリコーも、お互いがフラットに連携できることを目指した、こまやかな気遣いである。

●アクセラレータープロジェクト「TRIBUS」の展開
TRIBUSから誕生した事業をいくつか紹介したい。まず一つ目が「リコーバーチャルワークプレイス」。主に建設業向けに使用されており、VRを使って一つの空間を共有し、バーチャル空間上に再現された“現場”でやりとりできるので、離れていても一緒にいるかのように作業工程を決められるサービスである。そして次に、女性のエンパワーメントをめざす「RANGORIE(ランゴリー)」というアパレルブランド。インドの農村部に暮らす女性たちと、適切な労働環境や賃金を取り決めたうえで、そこで生活する彼女たちに技術を習得してもらい雇用をつくりながら服飾ビジネスを進めている。ほかにも、TRIBUSの香りを開発した事例もある。これは、「TRIBUSとは?」という問いかけに対して様々な参加者からの声を言語分析した結果選ばれた香りで、「オンラインでのピッチコンテストのときは、新規ビジネスの提案者も運営メンバーも視聴者も各地からオンラインで参加します。リモート開催のなかで離れていても一体感が生まれるように、五感を刺激する香りを嗅ぐことで一体感を醸成したいと思いました」と、大越さんたち事務局によるアイデアだそうだ。

リコーの環境関連事業
静岡県御殿場市にある「リコー環境事業開発センター」。かつてはコピー機等の主力工場だったが、海外への生産ライン移転のため使われていなかった拠点をリノベーションして再活用した。ここはCSRとしてのみではなく、環境保全と利益創出の同時実現をすすめる環境経営のための一事業を実践する拠点として位置付けられており、ユーザー(お客様)起点にモノの循環ループをデザインすることが目指されている。リコーが1994年に提唱したコメットサークル(資源循環の基本思想)に則って、オープンループ/リユースループ/リサイクルループなどを検証しながら、資源の回収・活用がきっちりと管理されているそうだ。
さらに、リコーグループの全国各地の拠点自体も環境配慮型へシフトしはじめた。リコーが開発した照明・空調整備システムを導入し、すでに岐阜や熊本の支社はZEB化(Net Zero Energy Building)が進む。ほかにも、プラスチック素材を手軽で簡単に分別できる「樹脂判別ハンディセンサー」や、ブロックチェーン技術でトラッキングすることで再生エネルギーの発電から消費までの状況がわかる「再エネトラッキングシステム」など、多数の脱炭素化支援ビジネスの開発・技術開発に取り組んでいる。さらに京北では、廃校を活用したテレワーク拠点「京都里山SDGsラボ(ことす)」の運営にも関わる。

京都・美山の地域内エコシステム
そして2022年の夏には、「地域内エコシステム」モデル構築事業のうち事業実施計画の精度向上支援として、美山森林保全協議会と共に申請していた南丹市での取り組みが採択された。これは林野庁の補助事業であり、地域内のエネルギーと経済循環を目指す取り組みである
採択された取り組みのコアとなるのが、南丹市旧美山町の事業者「美山里山舎」のコンセプトである。ここでは極めて小規模な範囲でありながらも木質資源のフル活用が期待された。地域内だけで木質資源を活用するには、製材時に生じる端材も使いたい一方、従来の林業では、木材は丸太で出すのが当たり前。しかし美山里山舎では、森林のすぐ傍で製材を行い、製品となる木材と製材残滓を生み出し、木質資源をフル活用していく。メンバーは実際に美山の鶴ヶ岡地区(半径10kmほどの範囲)で搬出される森林ポテンシャルを調査し、活用案を提示しつつ、地域内の事業者らとも対話をして地産地消のエネルギー源としての可能性を共有した。
ほかにも美山は、森林サービス産業(林野庁)の準モデル地域としても選ばれている。これは、里山の活性化のために、森林空間を健康・観光・教育など多様な切り口で活用するアプローチ。養生をコンセプトに鍼灸治療を受けられる「MIYAMA 森の湯治場」が2016年より取り組んでおり、休職中の方を対象にした森に入るメンタルヘルスプログラムなどや、養生フェスもある。さらに、南丹市・森の京都DMO(観光地域づくり法人)を巻き込み豊かな森林資源を活用して、エネルギーの循環を活発化し、ひとの循環も生み出していく活動が今後整えられていく予定だそうだ。

あうる京北で使うエネルギーをどうするか?
ここから話題は、LOGINの拠点となる あうる京北でのエネルギーのことへ。理想は、薪ボイラーを活用し、バイオマスエネルギーとソーラー発電のハイブリットでエネルギーを賄う状態だ。山には燃料となるものがたくさんあるので、エネルギー源として活用できれば、山も少しずつ整えられていく。下記には、参加者から出た意見を列記したい。

mocca・辻さん「今、moccaの宿に露天風呂を作っているのですが、肝心のお湯をどう用意するかを考えていて、ペレットボイラーを試験的に使うつもりです。僕らが拠点にする兵庫県では、バイオマスや再エネ発電のための補助金があり、今後はその資金で地域にどんな再エネがあるか、調査する予定を組んでいます。ちなみにカフェスペースは、雰囲気が崩れるという理由で空調整備を置いていませんが、意外とクレームはきません」
冒険の森・伴戸さん「薪ボイラーやストーブは、導入したあとに薪や端材をどう集めるかが大事。例えば利用者に集めてもらい、お礼に缶ビールを渡すとか、楽しく集めて、エネルギー源にもなる仕組みを考える必要があると思います」

パースペクティブ・高室さん「地域の人が、余っている木材を持ってきてくれたら、あうるに用事ができて、あうるとしても良いきっかけになりますね」

元ヒダクマ・森口さん「ヒダクマも床暖房を木材チップボイラーで温めていました。ただボイラーは壊れることが多かったり、木材チップも隣町の高山市から買っていたんですよね。薪ボイラーを使わなきゃいけない、掃除しなきゃいけない、という意識が強くて、そこに人がつながる要素がなかったと思います。だからこそ目的意識が必要ですよね」

仲井電気・仲井さん「バイオマスボイラーは、端材の木だけで回せるのか。「ベアーズウッド」(熊の爪研ぎによって後がついてしまった木を活用したプロダクト)が、本来なら使えない木を活用しているように、アイデアやその人の視点次第で木の特性は変わる。つまり、すぐにその木が大事か不要かが判断しづらいと思います。あと一方では、今はスイッチを入れれば電気がつき、蛇口をひねれば水が出る時代だからこそ、ユーザー自身にもインフラの背景が見えた方が良いのではと思います。今日はバイオマス、明日は電気、などお客さんにも電力源が見えるとおもしろい」

伴戸さん「冒険の森では、冬期は森の整備をする期間にしています。きちんとした林業をしている人の森は綺麗なので、つながっていきたいです。あうるの場合は、別館の建物の前に車も入れるスペースがあるので、そこなら地域の人から木材を集めやすそう。ちなみに街中でボイラーを始動するとすぐに消防車が来てしまうので、場所を選ぶ必要はあります」

ROOTS・フェイランさん「宿泊の基本サービスを提供するあうるの本館とは分けて、たとえば別館ではお客さん自身が手を動かして泊まるような仕組みもよいなと思いました。例えばお風呂に入りたいときは自分たちでボイラーを燃やして湯を沸かすとか。サービスを受けるだけではなく、手を動かしてわかってくることがありますよね」

あうる京北・吉岡さん「いずれにせよ長期的なビジョンが必要ですよね。お客さんに共有して、啓蒙する点を記したいです」

元オムロン・小池さん「兵庫県は二酸化炭素を排出する大企業があるという理由で行政の環境意識が高いですが、京都府はまだまだ温度差があります。あうるでのエネルギー活用を通して、京都府にも働きかけられると良いですね」

京都信用金庫・津田さん「薪集めを、グリーンワーカーのように仕事・雇用に変えていくのもありかもしれませんね。おそらく薪集めの他にも必要な作業があるし、そうすれば地域雇用にもなります」

ここでは、リコー・大越さんのプレゼンから、あうる京北でのエネルギー活用について皆でディスカッションする時間になった。これまで電気ガス水道などの生活インフラは、自分たちが普段見えないところで稼働されていたもの。しかし、私たち人間の活動が地球へ影響を及ぼすようになった人新世の時代には、そこも見つめ直す必要が生じ始めた。インフラの見える化が求められる時代に、今回話題にあがったバイオマス・薪ボイラーは地域で実験的に運用できるという点で、とても可能性を秘めていることが共有された。完全なるオフグリッドを目指さなくとも、小さな運用源を複数もったマイクログリッドがありうる時代。地域の人も巻き込みながら、どのように楽しんで学びつつ、エネルギーがつくれるか。これからの挑戦の一つになりそうだ。

(次の記事は近日公開します)

書き手:中井希衣子


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