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追記 - After Reports - 小山・思川

 今年1月にアップした台風19号の被災地である小山市を再訪した。前回の記事では簡単に紹介したもののきちんと写真を撮れていなかった、白鴎大学大行寺キャンパス付近や豊穂川水門を歩いてきたのでご報告する。

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 白鴎大学大行寺キャンパスは思川のごく近くにあり、在籍者数は小山駅前にある本キャンパスを合わせると4,700人になる比較的大きな大学だ。栃木県内の大学では唯一法学部を擁している。
 その白鴎大学の学生向け通知によると、昨年2019年10月12日に日本を襲った台風19号による水害で、大行寺キャンパスの本館を除くすべての校舎・9棟の1階部分が浸水。復旧までには一週間ほどかかる見込みと知らされた。浸水による被害によって停電・電話の不通はもちろんのこと、トイレや水道までが使用できなくなっていた。
 10月15日から10月19日までは原則立入禁止となり、この期間に大行寺キャンパスで行われる予定だった授業は別の日に振替になるか、本キャンパスにて行われることになった。

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 実はこの台風が直撃した夜、大行寺キャンパスの校舎上階には近所に住む学生や教職員約100名が避難していた。あっという間に水かさが増していくキャンパスを眺めながらの夜はさぞや恐ろしかったであろうと想像できる。こういった学生たちが、浸水したキャンパスの写真や動画をSNSに多数アップし、リアルな災害の夜をシェアすることになった。
 その様子をつまびらかに見ていた学生たちは、水が引いた後のキャンパスの片づけを行うべく、これまたSNSでボランティアを募った。翌日10月13日朝、大行寺キャンパスにはSNSの呼びかけに応じた学生たち約130名が馳せ参じていた。
 その後も学生ボランティアたちは集まり、休講最終日の10月19日までに延べ400名以上の学生が参加することとなった。

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 被災から半年近くたった3月のこの日、キャンパス内にはひっきりなしにトラックが出入りし、同じく浸水の被害に遭った、隣接する「はくおう幼稚園」と合わせて、周辺の整地作業が行われていた。堤防を挟んだ河川側の土地も、グラウンドなどに利用されていた部分がかなりのダメージを受けた。こちらも大型ダンプが行きかい、重機が腕を振るって土を均していく。
 昨年の冬に訪れた際は、この辺りは一面砂漠のように何もない空間だったが、今は少しずつ人の手が加わって、温かみのようなものが戻りつつある。折しも春の訪れを告げる花々が咲き誇り、荒涼とした大地にわずかながらも色を添えていた。絶望的な荒廃の中でもきっちりと花を咲かせる自然には、敬意と畏怖が入り混じる。

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 一方で、まだまだ復旧が進まない部分も垣間見える。豊穂川との合流地点にある水門は、今回の水害では残念ながら力を発揮しきれず、合流部分に破損を起こし越水の起点となってしまった。こちらはこの時点ではまだ応急処置しかされておらず、壁面は倒れたままだ。豊穂川自体は大変に細い川で、流れも大きくなく大仰な水門など不必要に思えるが、この川は過去に何度も氾濫を起こした暴れ川であり、その度に対策が取られてきたが、なかなか思うようには自然を抑えきれない。水門以降の合流部にも流木などが放置されていて、その光景は美しくはあるもののおぞましくもある。

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 漂流物等も多く残存しており、ゲートボール場として使用されていた空地は見るも無残な状況である。こういったグラウンドレベルでの清掃や流木除去は行われないだろう。予算の関係もあろうが、これらは自然の一部であるとも言える。だから春になれば花も咲くし、大雨が降れば水嵩も増すのだ。

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 日刊建設新聞によれば、小山市の補正予算(専決処分)の15億2,500万円がこの一帯である思川緑地と崩落した小宅橋の再建に使われることが決定した。思川緑地は総面積165,000㎡のうち、野球場・ソフトボール場などの65,830㎡が土砂堆積のため使用不可能になった。これらの表土洗浄作業がつい先日、2020年6月1日までに完了している。
 本格的な梅雨のシーズンを前にして、人が携わる空間に関しては一通り修復できた形だ。原状回復だけで良いのかという未来への議論は残っているが、そういう議論ができるのも平常時の証である。

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 最後に東京新聞の記事を一部ご紹介しよう。
 白鴎大学大行寺キャンパスにはもちろん図書館があるのだが、その多くの蔵書は地下の保存庫に所蔵されていた。しかし、2015年の東日本豪雨時にこの地下にまで浸水し、約5万冊の蔵書に大きなダメージを受けたのだ。
 その時の経験を活かし、今回の台風19号の被災時にはキャンパスに避難していた学生約100名が、自主的に地下と1階に保管されていた約2万冊の本や電子黒板・PCなどを2階へと移してくれた。図書館自体は地下・1階と浸水被害を受けたが、本は守られたのだ。
 白鴎大学図書館分館の館長は、「学生が研究にモチベーションを持つには、本が存在すること自体が重要。知的財産が守られ、ありがたい」と感謝の言葉を述べている。

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