見出し画像

勝手に添削:『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』 (6)

6回目の添削・校正。ついに第1章の本文に入った。
本文は序章やあらすじと比べてかなり読みやすくなった。が、やはり悪文が時々目に付く。

第1章 ヨーロッパの歴史

 アテネのライバルとして知られるドーリア人のポリスがスパルタです。「スパルタ教育」の名で現在も知られるようにリュクルゴスの制といわれた厳しい教育制度と軍国主義をとっていました。スパルタは強大な軍事力と活発な遠征を行い、ギリシアのポリスの中では広大な支配領域を持っていました。周辺の民族をしたがえ、戦争奴隷を多く獲得したことがスパルタの人口構成を特徴づけ、軍国主義をさらに促すことになったのです。

山崎 圭一. 一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書 公立高校教師YouTuberが書いた (Kindle の位置No.581-585). SBクリエイティブ株式会社. Kindle 版.

 引用した文を見ていこう(太字部分は書籍でも太字)。
 まず太字部分の1文は、「スパルタ教育の名で現在も知られるように」を入れる位置がおかしい。スパルタ教育の語源となるのは「スパルタ」というポリス(都市)であって、この文の主題の「リュクルゴスの制」ではない。「スパルタではリュクルゴスの制をとっていた」→「スパルタ教育の語源にもなっている」という順番で書いた方が正確だし、修飾語が短くなって読みやすくなる。

 次の文の「スパルタは強大な軍事力と活発な遠征を行い」は明確な誤り。この文は「スパルタは軍事力を行う」「スパルタは遠征を行う」を並列した構造になっているが、前者がおかしいのは一目瞭然だろう。ここは「強大な軍事力」とか「強大な軍事力をもって / もとに」とかに修正すべき。
 読点の後に続く「ギリシアのポリスの中では広大な支配領域を持っていました。」も、少し違和感がある。「活発な遠征を行った結果として、広大な支配領域を獲得した」という因果関係があるはずだが、原文では「活発に遠征し、」と単に順接で文節同士を繋げてしまっている。ここは「~ため、」とか「~結果、」とかを使った方がよいだろう。
 あるいは「支配領域を持っていました」ではなく「支配領域を手に入れました」と書き換えれば、「~し、」と順接でつなげても違和感はない。原文では読点の前が「~する」という動作を、読点の後が「~を持っている」という状態を表しており、両者が一致していないのがよくない。どちらも動作にしてしまえば問題は解消する。

 最後の1文「周辺の民族をしたがえ、戦争奴隷を多く獲得したことがスパルタの人口構成を特徴づけ、軍国主義をさらに促すことになったのです。」では、「スパルタの人口構成を特徴づけ」の部分に違和感を覚える。
 まず「人口構成を特徴づける」というのは翻訳調で、日本語らしくない。それからこの表現は抽象的で、何が言いたいのかよく分からない。たぶん言いたいのは「スパルタの人口構成では戦争奴隷が多数を占める」的なことだと思うが、それは「戦争奴隷を多く獲得した」を読めば自明でもある。そのため、「人口構成を特徴づける」は省略するか、もっと具体的に書き換えた方がよい。
 専門知識がないので書き換えに自信はないが、書き換えるとすれば「一般市民よりも戦争奴隷の数の方が多いといういびつな人口構成になった」といった具合だろうか。ここまで具体的に書けば、スパルタの人口構成がどう特徴的なのか誰でもイメージできるようになる。

修正案

 アテネのライバルとして知られるドーリア人のポリスがスパルタです。スパルタはリュクルゴスの制といわれた厳しい教育制度と軍国主義をとっていました。強大な軍事力をもとに活発に遠征を行い、ギリシアのポリスの中でも広大な支配領域を手にしました。周辺の民族をしたがえ、戦争奴隷を多く獲得したことで、軍国主義をさらに促すことになったのです。こうしたスパルタの政治体制は、現在の「スパルタ教育」の語源にもなっています。

 助詞など細かい点も少し修正した。「スパルタ教育」の話は、余談みたいなものなので結局最後に持ってきた。


 この本の校正も少し飽きてきてしまったので、校正希望の書籍や悪文満載の書籍などあればぜひコメントいただけるとありがたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?