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J1第30節 ベガルタ仙台戦雑感

前節、首位川崎相手に結果としては完敗だったものの、一美選手のゴールやバケンガ選手のデビューだけでなく、総じてpositiveな内容の試合を披露した徳島。一方、残り試合がだんだんと少なくなってきて降格の足音も大きくなってきているのもまた現実である。今節の相手はすぐ下の順位の仙台。結果いかんによっては残留の目が風前の灯と化してしまいかねない重要な6ポイントマッチとなった。

先発は前節から2人を変更。トップには満を持してバケンガ選手が先発起用。トップ下は前節ゴールを決めた一美選手が引き続き入る模様。レッドカードによる出場停止明けの岸本選手が先発に戻ってきた。先週末に行われたエリートリーグで負傷交代となった渡井選手、名古屋戦から欠場が続いている宮代選手は今節メンバー外となった。渡井選手はJ2で手倉森監督が率いる長崎から連続してゴールを奪っており、「手倉森キラー」とも呼ばれるタレントであったため、欠場は痛いところ。

仙台はプレスには来るものの、徳島ゴール前まで追ってくることはなく意図を持って「行き過ぎない」ようにしていた。これは昨年J2で手倉森監督率いる長崎が徳島と対戦した時にも実行していたやり方を再現しているように見えた。コンパクトにして待ち構えて奪ったら速く攻めるというのが手倉森監督が考える徳島対策なのだろう。これに対し徳島は序盤から岩尾選手を降ろしてビルドアップ。一美選手がライン間に落ちてきてボールを触ったり、後ろから両サイドに長いボールを出したりして攻撃を試みるが、全体としてペースはスロー。仙台がサイドからのクロスで何度かゴール前でのシーンを作ったものの、前半通して大きな動きはないままスコアレスでハーフタイムへ。

後半も前半と同様に固い展開で淡々と試合が進んでいく。それでも時間経過とともに徳島は中盤の中央でもボールを受けられるようになったり、高い位置でプレッシングしボールを奪う場面が見られるようになったりして、次第に相手を押し込む形が増え始める。相手が少しずつ消耗してきたのかもしれないし、保持時に福岡選手を高い位置へ上げるようにするなど前半よりもアグレッシブに戦うという戦術面での微調整があったのかもしれない。64分には鈴木徳選手の惜しいミドルシュート。このあたりから前半全くしなかった得点の匂いがわずかながら漂い始める。

終盤を迎え、後がない仙台は上福元選手の所まで決死のプレスを敢行。スペースができるのでどうしてもオープンな展開になってくる。このままゴールが生まれずに試合終了を迎えることになるのかとも思い始めた90分、遂に均衡が破れる。右サイドからのCK、岩尾選手の蹴ったボールはマークを振り切って中央へ飛び込んで来たバケンガ選手にピタリ。バケンガ選手の強烈なヘディングシュートはGK正面をついたので弾かれたものの詰めていた石井選手が流し込んでゴール。オフサイドの有無に関してVARのチェックが入ったが、無事認められワンテンポ遅れての歓喜が訪れる。そのまま試合は終了し、1-0で徳島が勝利。待ち望んでいた勝ち点3を手に入れた。

遂にトンネルの出口にたどり着いた。残留を争う相手に競り勝ち連敗を止めることができた。今皆が欲しかったのは勝利である。「徳島の勝利だけ」。ゆえに今節はそれで万事OKなのである。

今節は特に前半において試合が停滞していたように見えた時間が長かった。ボールは保持するが攻める時も人数をかけずにシンプルにサイドに長いボールを出すことを繰り返し、ペースを上げずに戦った。ともすれば「つまらない試合」と感じることもあったかもしれない。しかし、試合後のコメントにあるようにポヤトス監督としては「試合をコントロールしていた」と言う。

ペースのコントロールに加え、攻撃はリスクを冒して真ん中へパスを撃ち込まずサイドへの展開を主とすること、守備においてサイドへ展開された時もCBは極力真ん中から動かさず対応(西谷選手の頑張りありきだったが)することなど、徳島は一貫して仙台の「入ってきたところを狙って奪って速く攻める」という狙いを意識して相手のサッカーをさせないことを最優先としているように感じられた。自分たちの強みを前面に出すより、相手を見て相手に合わせてサッカーをすることに監督は勝利の確率を高く見出し、そしてそれは正しかったということであろう。

おそらくこれは仙台のような「比較的徳島と個の力の差が小さいチーム」が相手であったからうまくいったという側面があるようにも思われる。強烈な個の力のある選手がキーポジションに入れば結局力で押し切られてしまうのは今年何度も見てきたところ。仮にそうだとするとこれから何試合か残っている残留を争う相手との対戦では、今節のようにポヤトス監督の戦術家としての手腕が大いに発揮されるではないかと期待もされる。

大きな勝利で矢印は確実に上を向いた。もちろん、まだ降格圏にあるというのが現実。いばらの道は続く。それでも希望はまだ残っている。力強くそう言い切れるくらいの勇気を与えてくれる、今節の勝利はそれくらい大きな意味を持つのである。

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