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終わる世界の終わりなき日常――#6 強くて優しくてかわいくて最後にはこの世界から愛される人に 灰ミちゃん



わたしは好きになった人の前以外で誰かのとなりで涙を流すことができない。


前の前に好きだった人は、関係の中でわたしにたった一度しか好きだと言ってくれなかった。
彼とは何度も身体を重ねていた。わたしは何度も彼に好きだと伝えていた。運命の人だと思っていると伝えていた。とても魅力的な人だった。わたしがわたしのことを偽物だと言うとそんなことないと言った。彼は自身の考えていることをよく話した。わたしはその話を聞くのが好きだった。彼は自身の感じていることを話さない人だった。わたしは彼のことを知りたいと思っていた。彼と関係を持ったばかりの頃は本当に楽しかった。遠くにいた人だから会える時間は短かったけれど、会っていない時もすべての時間が幸福で満たされていた。日常で辛いことがたくさんあってもわたしはすでに救われていると思っていたから気にならなかった。わたしはいつか彼の恋人になれると信じていた。

けれど次第に彼とわたしはうまくいかなくなってしまった。彼はわたしのことを意図的に傷つけるようになった。きっと、わたしも彼のことを意図せず傷つけていた。わたしは彼の、自己への感傷と世界への憎しみでできた自尊心が好きになれなかった。でも、それはわたしにもある部分だった。彼氏ができたと彼に電話で伝えた時、幸せになってねと言われた。わたしも彼に幸せになって欲しかった。わたしは泣いていた。それが彼に対して流した最後の涙だった。彼も少し泣いているように聞こえた。


前に好きだった人はたくさんわたしに好きと言ってくれた。
彼とは付き合いはじめてから身体を重ねた。ベッドの上でじゃれあうのが好きだった。きっとお互いがお互いのことを同じくらい好きだった。幸せが溢れてわたしが泣いてしまうと「すぐ泣いちゃうの可愛いね」と笑った。お互いがお互いのことを一対一で好きな恋愛は初めてだった。とても魅力的な人だった。彼はわたしにたくさんのことを話したしわたしもたくさんのことを話した。感じていることも考えていることも話しあった。初めて男性と同棲に近い関係になった。一日中家で一緒にいるのは幸せだった。このままずっと一緒にいられると思っていた。このままお互いのことをもっと知って、もっと好きになっていくのだと信じていた。

彼と喧嘩ばかりするようになったのは前回の連載に書いた通りだ。8月3日の夜、彼と別れた。わたしは彼にとって子供過ぎたし彼の言っていることや考えていることがわからなかった。今でもうまくいかなくなった理由がよくわからない。わたしは彼の言葉の棘に耐えられなかった。わたしだけが泣いていた。


この1ヶ月間いろいろなことが起きた。いろいろなことを思った。
ルソーを引くまでもなく、日記という形式はそれが日記そのものではなくても日記的であるということによって「告白」の様相を示す。
個人的なことから抽象的なものへ。そしてまた具体へ。出来うる限り時系列に沿って記述する。


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