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終わる世界の終わりなき日常――#4 ロカストから遠く離れて 灰ミちゃん


最近恋人ができた。歳は二つ上で、わたしのように大学院に残るわけではなくとある外国の企業で働いている。
少し変わった知人の紹介で知り合ったのだけれど、はじめの頃は違う世界に生きている人だな、と思っていた。出会ったばかりから何度も好意を伝えられていて、なぜわたしにそんなに関心があるのかわからなかったけれど、とても優しい声をしていて嫌な気持ちはしなかった。



わたしが彼を好きになったのにはきっかけがあった。
それなりに仲が深まって、ふたりで会話をする機会も多くなってきたある日、「今度旅行でもする?」という話になった。そうしてあれこれと行きたい場所を挙げていくうちに、彼が奥多摩に行ってみたいと言い出した。奥多摩といえばロカスト本誌の2号目である「FAR WEST TOKYO」でも取り上げた東京の西の果てだ。
本誌では、「荒澤屋」という、旅館主による民話の語りが有名な温泉旅館を紹介している。

ロカストで旅行先の案として荒澤屋が取り上げられた頃からとても良いなと思っていたのだけれど、わたしは結局ほかのメンバーと奥多摩を旅することはなかった。
理由は極めて単純で、わたしは温泉や宿泊のような男/女の切り分けが生じる空間を避けている——というよりも避けざるを得ない——からだ。
実際、わたしは第3号のリサーチで岐阜に旅行した時も単独で宿を取り、朝にみんなと合流している。
ロカストが「集うこと」をテーマとしていても、その社会的インフラが、身体が、それを阻むということがある。
そして、こういった特定の空間での「いたたまれなさ」は、どれだけジェンダーが固定化されても、性別の移行が進んでも、あるいは社会が変わっても、わたしの中に残り続けるものだろうと考えている。

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