Netflixのフィードバックカルチャーの作り方
組織成長にフィードバックは欠かせない。そのフィードバックは心理的安全性がなければ活性化しない。これまで心理的安全性が無ければ率直なフィードバックな成されず組織にイノベーションが起きないと考えられてきた。
その意味でネットフリックスの以下の「優秀でなければ解雇される」ことを表した Keeper Test は解雇される不安がよぎり「もし余計なことや的を得たことを言えず優秀でないと判断されたら」と心配になり心理的安全性の低下につながるのが普通だ。
https://www.slideshare.net/reed2001/culture-1798664/26-The_Keeper_Test_Managers_UseWhich
しかし、ネットフリックスは心理的安全性がとても高く、従業員は口うるさいやつと思われる心配をせずに役職を問わず改善を促すフィードバックを発言している。例えば、ある従業員がネットフリックスCEO(リード・ヘイスティングス)にこのようなメールを送っている。
一般的な企業で従業員が「社長の態度が悪い」ことをどれだけ指摘できるだろうか。普通は指摘を言う側も受ける側も息が詰まりそうになって思考が不快な負のスパイラルに陥りそうな所、ネットフリックスは以下のステップを経てフィードバックのカルチャーを作ることで回避した。
①優秀な人材で組織を作る
②部下から上司に率直なフィードバックをさせる
③率直で、そして思いやりのあるフィードバックを送る
④いつでもどこでもフィードバックをする
①優秀な人材で組織を作る
エルトン・メイヨー氏が実施したホーソン実験ではチームメンバー全員の目的とモチベーションが同等であれば成果が向上する心理効果が見られたが、オーストラリアのウィル・フェルプス教授は優秀なチームに「嫌味な人・怠け者・悲観論者」が含まれた場合にチームの成果はどれほど低下するのか実験を行った。
結果、1人でも含まれていた場合にチームの成績が30~40%低下することがわかった。大多数が優秀で目的も統一されていたのにも関わらず、ボトルネックが1人いるだけでチーム全体のパフォーマンスが下がってしまう。
ネットフリックスではそういう人は解雇させられる。仮に輝かしい成果を生み出す才能があっても協調性が無ければネットフリックスのカルチャーに適合してないとされる。
フェルプス実験のように私腹を肥やす思惑があるフィードバックほど意味のないものはない。多くの企業はそういうフィードバックを無くすようにレビューのガイドラインを作って是正させてきた。しかし、そもそも会社と相手のためだけを考えられるメンバーだけで構成された組織であればどうだろう。話し手も受け手もコミュニケーションが楽に、そして会社が楽しくなったのだ。
「嫌味な人・怠け者・悲観論者」が居ないということがフィードバックを伝えるハードルを下げ、「優秀」であることが議論を豊かにし、「協調性」があることがフィードバックに敬意を持ち、次のフィードバックに繋がる。これがネットフリックスの土台となり、フィードバックをより効果的にしている。
これは多くの企業が実行できるステップではないかもしれない。採用の見極めからスタープレーヤーの離職対策、報酬原資の確保など多くの課題がある。ただネットフリックスはそれらの問題よりも優秀な人材で組織を作ることが長期的に利益があると考えている。
以降のステップはそんなネットフリックスで行われていることだが、ハイスペック以外のメンバーがいる企業にも参考になると思う。
②部下から上司に率直なフィードバックをさせる
フィードバックをしろと言って簡単できるものではない。ネットフリックスではフィードバックしやすいように以下のテクニックがある。
①1on1では必ずフィードバックを議題にしてフィードバックすることは当然の行動と示す。
②フィードバックを受けた上司は感謝の気持と共に「このフィードバックとあなたがチームとって有益な仲間であること」を伝える帰属のシグナルを示す。
②を体現しているのは他でもないネットフリックスのCEOリードだと言う。例えばリードはある日、MTGでのイライラした態度を部下の部下の部下の若いロシェルから注意される。上記でリードに注意した人物からのメールを紹介したが、その人がロシェルだ。そしてリードが返信した文章が以下になる。
③率直で、そして思いやりのあるフィードバックを送る
ただ単にフィードバックすればいいというものではない。フィードバックには正しいやり方があり、ネットフリックスではフィードバックの研修プログラムもある。
率直というのは思ったことを口にすることではない。相手にどんな影響を及ぼすのかを気にしなければならない。そのためにネットフリックスにはフィードバックのガイドラインがある。
フィードバックをする側のガイドライン
相手を助けようという気持ちで:相手を傷つけたり自分を優位にするための発言は許されない。相手が前向きな気持ちで自らの力で改めようと思い立たなければならない。
行動変化を促す:問題を指摘するだけではなく何をするべきかもセットで伝える。
フィードバックを受ける側のガイドライン
感謝する:言い訳ではなくまず感謝を伝える。
取捨選択:フィードバックされた行動を取るべきかどうかは本人に委ねられる。それはフィードバックする側も本人の決定を尊重する。
ネットフリックスはフィードバックをしてくれる人を大事にしている。会社が推奨していることで率直に発言できる。さらにフィードバックした相手を傷つけることになったとしても、その人が改善して成功する方が大切だという考えを持っている。
④いつでもどこでもフィードバックをする
普通の組織ではプレゼンターに行動変化が必要だと気づいてもフィードバックはプレゼン後に行うが、フィードバックのカルチャーが正しく浸透していればプレゼン中であってもフィードバックをするべきだ。これによりフィードバックの効果が最大限に活用される。
ただし、これが可能なのは①で悪意を持った人が組織にいないからだ。相手を想わず伝え、受け取った側も感謝しなかったとしたらリスクが伴う。
アーロン・イリザリーによる共著 Discussing Design(邦訳:みんなではじめるデザイン批評)にはフィードバックのタイミングについて書かれている。
ネットフリックスはなにも心理的安全性を軽視しているわけではなく、むしろ発言によるネガティブな思考をしないようにカルチャーで配慮している。しかし心理的安全性によって発言の背中を押すだけではなく協調性の無い人間を採用しないことで議論の頻度と心理的安全性が合わさり質の高い議論が可能になっている。
参考書籍
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