見出し画像

コミュニケーションを取り続けることで、会社は「共助」の役目を果たせる 林隆宏×糀屋総一朗対談2

ローカルツーリズム株式会社代表・糀屋総一朗と、地域を変える活躍をされている方の対談シリーズ、今回は株式会社モノサス代表取締役の林隆宏さんです。対談の2回目は、ビジネスを成功させていく鍵、そして地域といかにコミュニケーションを取っていくかについてです。

クリエイターの力を生かす

糀屋:神山の『かま屋』ってすごく成功してるじゃないですか。ああいうお店が出来上がったのは、どういうプロセスがあったのかな?ってことにも興味があるんです。こうやれば成功するっていう決まり事みたいなのはないとは思うんですけど、そこに至るまでの、キーポイントになったことってありますか?

クリエイターが入ってるってことですかね。「食」のところにはちゃんと「食」のクリエイターを入れる。『かまパン&ストア』で言うと「食パン」が一番のキラーコンテンツなんです。たくさん雑誌でも取り上げていただいてますけど、その食パンのレシピ開発をしたのは、この会社の一階で『パン屋・塩見』をやってる塩見聡史くんなんですよ。彼と、大手のグロッサリーストアでレシピ開発をしていた細井恵子と、製造責任者をやっている笹川大輔の3人でレシピを作り込んでるんです。それがスタートですね。

糀屋:ちゃんとクリエイターを入れる、と。

:そう。で、コロナの緊急事態宣言が出た時に1回お店を閉めて、それをきっかけにメニューを変えて、そこがすごくかま屋とマッチしたんだと思います。そのメニュー転換のプロデュースをやってくれたのもクリエイターなんです。先ほど話したジェローム・ワーグ。ジェロームは『かま屋』については、「もっといいやり方があると思う」ってずっと言ってくれていたんですよ。

糀屋:頼もしいですね。

:前がどんな業態だったかっていうと、おばんざいみたいな感じでバーッてお皿が並んでる1回盛り切りのバイキングスタイル。ジェロームからは「もっといいやり方があるじゃない」ってずっと言われていたんです。

画像1

で、コロナで1回店を閉めたときに彼がディレクションに入ってくれる事になった。まず「料理に手間をかけ過ぎてる」って。「農産物っていうのは農家の方が仕事をしてくれているもの。それを活かすんだ」と。「届いた時点で半分は出来ているんだから、料理人は残り半分だけやればいい」って言うんですよ。

糀屋:なるほど。

:それから今の定食スタイルにして、価格帯も見直して……そうしたらようやくちゃんとまわるようになったんですよ。その作り込みのところってやっぱりクリエイターの力なんです。

糀屋:確かにそうですね。クリエイターと一緒に仕事をするのには、どんなことが必須になりますか?

クリエイターを生かすためには、まず「与件」が必要だと思います。自分たちの中で「なるべく地域で作られた野菜しか使わない」とか「自分たちで作る」とか……「こういうことのために自分たちは会社をやっているんだ」みたいなことを与件とする。それによってクリエイティブが返ってくるので、その組み込みが両輪としてうまくいく条件ということですね。

糀屋:知り合いだったと言うことはあると思うんですけど、自分たちの会社の存在意義……今の言葉で言うと「パーパス」的な話をちゃんと議論したんですか?

:そこはもともとジェロームは理解してくれていましたよね。どっちかいうと僕らが彼らから学んでる部分がすごい多いので。

糀屋:では「お任せ」して、あとは「言われるがまま」にやったみたいな感じですか?

:「言われるがまま」ってわけではないんですけどね。もちろんクリエイティビティの部分はちゃんと受け入れないとせっかくの彼の力が生かせないんだけど「自分たちの活動としてそれがいいことか?」っていう与件部分は自分たちで持って、細かい部分はチェックしていかないと駄目なんです。

例えば……僕らは産食率を上げるためにやってるわけで、毎日「産食率」(使われている食材のうち何%が神山の中で採れたものなのか)を出す、ということは与件として伝えているんです。そこから来る、食材の選定基準とかは僕らの方で、こういう食材はOKだけどこれはNOだとか基準があるんですよ。鶏肉とかだと同じ会社さんが複数の厩舎で育てているところがあるんで、神山町産なのか、隣町産なのか、出荷されちゃうと一緒になっちゃうのでわからないんですよ。それでお肉屋さんには「神山町産だってわかってるときだけうちに卸してください」っていうお願いをしてるんですよ。

画像2

糀屋:へえ!!

:そういうところを僕らは大事にしてるんだ、ってことをクリエイターさんには伝えるのは大事なところですね。

糀屋:確かに!!

:会社に「ビジョン」や「ミッション」はいらないと言いましたし、自治体とか長いスパンで生き残っているものって実際にミッションとかないじゃないですか。「神山町に住む人はこんなことを考えねばならん」みたいなものがあったら気持ち悪いですよ。居場所にはそんなものはなくていいんです。ただみんなで一緒に何かやる「プロジェクト」には「パーパス」とかそういうものが必要だってことだと思うんです。

対面のコミュニケーションこそ「愛着」を生む

ーークリエイターとのコミュニケーションのほか、社内や地域でのコミュニケーションで意識されていることはあるのでしょうか?

:今ではご時世もあって、うちの社内でもリモートが多くなっちゃいましたけど、基本は会社に来て、直接コミュニケーションをとりましょうというのはずっと言っています。その理由は明確なんですよ。「愛着」の問題なんです。

例えば都市部に核家族で住んでいると「保育園に通っている子供が熱出しました」みたいな理由で困り果てちゃう人っていると思うんですよ。そんなことが何回か続くと「もう私は働けない!」とか追い詰められちゃう。でも僕は「そんなの仲のいい友達にLINEで『ちょっと代わりに迎えに行って!』とか、『手伝って!』で解決するじゃん」って思うんですよ。これは自助と公助との間にある「共助」っていう部分ですね。プライベートとパブリックの間にある「コモン」っていうものがあると思うんですよ。

画像3

ローカルにはまだ「共助」っていう部分が残っていたりするんですけど、都市部だとそこが抜け落ちちゃってる。じゃあ、そこをどうするの?ってなった時、そこの役割を果たせるのは「会社」しかないかもしれないと僕は思っているんです。その「共助」の部分を会社として担おうということですね。

会社としてパブリックには助けられないところを、僕ら役員が「どうルールを曲解して、うまくやるか」。そういう事をするのって、完全に「僕ら役員が本人に思い入れがあるかどうか」なんですよ。お互いに助けあえる人間関係があるかどうか。そういうところまで含めて「フルリモートでの社員っていうのはないよ」ってことなんです。直接のコミュニケーションが全く要らないんだったら、うちの会社にいなくていいんじゃないですか、っていう話ですね。

関係性を作るっていうのはすごく大事だと考えているので、去年は泊りがけで千葉まで運動会をしに行ったりとかしていますし、一緒にご飯を食べる、みたいなところも大事にしていけるといいなって思っていますね。

ーー地域で事業をされているケースだと、地方の方とのコミュニケーション的なズレというようなことをよく聞くんですが、その辺りは?

:まあ、あるでしょうね。でも、そこはめちゃくちゃ気をつけてます。難しいですよね。

糀屋:社内に関しても、地域での事業に関しても、人を手段的に使っていいのか? っていう話だと思うんですよ。「こうしたい」という思いが強すぎて、例えばマニュアル的なものを作ってしまうみたいな事とか……。地域だと特に「こういうフローで掃除をやってください」みたいなことを言ってしまいがちなんですけど、それって人が何かを考える余地をなくしてしまうみたいなところもあるんですよね。

:うん、そう。

「みんなで考える」と「やってもらう」のバランス

糀屋:『モノサス』の「ビジョン」とか「ミッション」みたいなものをあえて作らないっていうところも同じような話なのかなと思うんですけど、ユーザー化しちゃうことの危うさ。もっとどぎつい言葉を使えばドミスティケーション(家畜化)しちゃうみたいなことが地域だと起こりやすいと思うし、そういうことに対しての嫌悪感ってあるんです。僕も大島での事業については最初から「絶対に上から目線にならないようにしよう」と意識しました。

画像4

基本的には「みんなで作っていきましょう」って感覚なんですよ。ただ……ちょっと話はねじれていて……、とはいえ「みんな」では作りきれない、自分が密室で考えたコンセプトっていうものも必要だとも思っているんです。それをいかに「押し付ける」ように見せないか。要するにファシリテーターの仕事をするって事だと思うんです。関わってるって感じてもらうことが結構重要なのかなって。

:うん、うん。

糀屋:林さんの言う「みんな考えてもらう」とか、運動会みたいなことで「共同身体性を共有する」とかも、そういうことに関係してくるのかなと思って聞いていました。僕は地域事業で重要なのは、みんなでやる部分はやらなきゃいけないんだけど、でも、大事なところは自分で決めなきゃいけない部分もあるという、そこのバランス感。例えば『MINAWA』って僕が今大島でやってる宿も、コンセプトとかオペレーションとかデザインとかを全部地方に投げて「皆で決めてください」って言ったら、多分とんでもないのが出来るかもしれない。

:それはそうでしょうね。

糀屋:ハンドリングする部分と、みんなで動く部分をどうやって設計するか?そのバランス感覚が結構重要なんじゃないかな。

:そこは本当にそう思いますよ。田舎での「お土産モノ」って、ろくなものないですもんね。

糀屋:ろくでもないです(笑)。これは最近、はっきり言うようにしてます。

:でも本質的に溝は埋まらないかなと思いますけどね。

糀屋:そう、多分、埋まらない。だけど、誰かが突破してやるってことが重要なんですよ。

ーー何か、地域の人たちとのコミュニケーションできる方法ってないんでしょうかね?

:僕ら『フードハブ』では「かま屋通信」っていうタブロイド紙みたいなものを月に1回、新聞に折込みで入れているんですよ。

糀屋:え? 折込ですか。

林:僕は昔、仕事でチラシの折込とかめちゃくちゃやっていたガチ、ダイレクトマーケティングの人間なんです(笑)。「かま屋通信」っていうのは4ページの冊子みたいなやつなんですけど……。

糀屋:面白い!!

:チラシの反響率って例えば500分の1とか1000分の1で計算するんです。例えば30万人商圏だったら、いろんな新聞に10万枚とか折り込むわけです。そうなると1回チラシを配布するのに何十万円という金額がかかるんだけど、神山町は徳島新聞のシェアが8割から9割と非常に高くて、折り込み部数は約1700部なんです。「あれ? 製作費込いれてもほぼほぼ全戸に数万円で届くじゃん!」って。

糀屋:うわー! それめっちゃいいですね。

:自分たちでデザインして、編集できるんで、なんと全戸に毎月お手紙が送れるっていうことですよ。売り込みも一切なしで、自分たちがどんな活動してるのかとか、どんなメンバーがいるのかとか、商品を薦めるにしても「自分はこういうところが好きで置いてます」とか、そんな話だけを書いてるんですけど……これ、意外に読んでくれます。

糀屋:うん。

:ファイリングしてくれてるおばあちゃんもいるって聞きました。ローカルめっちゃ面白い! って思いますね。

ーー(笑)

糀屋:本当にいいと思います!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?