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地域復興に必要な人材とは?1 自らが動き働く「ローカルエリート」の重要さ

ローカルツーリズム代表の糀屋総一朗です。これまで、「なぜ地域は衰退するのか」、そして「地域循環経済の必要性」というテーマで書いてきました。今回は具体的に、どのような人材が地域復興に必要なのか、その人材がどう動いていくべきか、といったことについて書いていきたいと思います。

これからの地域創生に必要な人材は「ローカルエリート」

私が大島で体験した経験も踏まえて、これから地域創生に必要な人材とは、どんな人物像なのか?をお話ししたいと思います。

私はこれまで、日本各地で地域創生に関わるたくさんの人たちとお会いしてきました。その中で、成果を残している人達にはいくつかの共通点があります。

・身銭をきって地域に投資をする。
・事業をつくってちゃんとかたちにする。
・自らも手を動かす。
・地域の人たちとコミュニケーションがとれる
・地域の魅力を価値けする「外の目」をもっている。

私の造語ですが、こういった特徴をもつ人たちを「ローカルエリート」と呼んでいます。「エリート」というと「偏差値の高い大学を出て」「金融や商社に入社して」みたいな偏差値エリートを思い浮かべられるかもしれませんが、まったくそうではありません。

さきほどあげたローカルエリートの特徴をみても、単なる偏差値エリートではなく、それを上回るかなり高度なレベルの人材であることがわかるかと思います。

よく、ライバルの多い都市部よりも、地方のほうが事業は簡単という人がいますが、実際には「ヒト・モノ・カネの制約がきびしい地方で事業をゼロからつくりあげる」というのは想像以上に大変です。むしろ、都市部で事業を成功させる以上に困難な部分も多々あります。だからこそ、上記のようなスキルを持った人材が必要なのです。

何度も書いていることですが、地域創生のためには、外部の目が必要です。地域の人たちに見えにくい、価値のある地域の魅力を発掘しなくてはなりません。さらに、その魅力を実際の事業に落とし込んで価値付けし、都市生活者や外国からの旅行者にサービスやモノとして提供する。地域の活性化には、それが実現できる高度なスキルを持つ人材が必要です。

たとえば、地域創生の分野での有名人である木下斉さんは、高校生の時から商店街の活動をはじめ「まちづくり」のリアルに関わって、大変な修羅場も体験していました。その後、早稲田大学を卒業してから、一橋大学の大学院で「まちづくり」についての研究も行っています。現在、彼が主宰する「一般社団法人エリアリノベーションアライアンス」では、地域創生に関わる人材開発や、地域事業への投資も行っています。まさしく、ストリートとアカデミックのハイブリッドの人物と言えるでしょう。これからの日本の地域創生の分野には求められているのは、こういういった「ローカルエリート」の存在なのです。

「MINAWA」のスタートは「人」から始まった

ローカルエリートとは別の意味でも、地域振興には「人」が大きな力になります。私が宗像市・大島に宿泊施設「MINAWA」をつくるにあたって、島の内外の多くの人たちの力を借りることとなりました。その方達の力がなければ間違いなく成立しなかったと思います。

まず、お客様との窓口として、お客様からうけた連絡に対してメールや電話で対応する仕事は、当社のバックオフィス全般を担当してくれている山口さんと言う女性にお任せしています。お子さんがいらっしゃるため、子育てをしながらの業務になりますが、これまで完璧に業務をこなしてくれています。

それから「MINAWA」を含めた大島全体における新たな事業を運営するまちづくり会社「合同会社渡海屋」のメンバーも重要な人材でした。大島と本土の神湊(こうのみなと)で整体院を経営しながら、ゲストハウスの運営もしている田中さん。大島との出会いのきっかけを作ってくれた福岡市のデザイナー谷口くん。そして、リクルート社で『じゃらん』を担当している山下さんです。

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合同会社渡海屋のメンバー

「渡海屋」では田中さんのゲストハウスを通して、観光で島を訪れる人たちのために、レンタカー、レンタサイクル、釣り竿レンタル。最近はテントサウナや、1日キャンプセット、BBQセットまで貸し出すレンタル事業も始めています。

お客様は「MINAWA」の宿泊客とは全然違う人たちがメインになりますが、希望があれば「MINAWA」のお客様も利用できますし、観光客意外にも、地元の漁師さんが「テントサウナ貸してくれ」なんてこともあります。

また、天然のジビエや魚介を独自のこだわり製法で丁寧に手作りした犬用の高級ペットフード「島素材」の販売も始めました。今は、島の「何でも屋さん」というわけです。

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高級ジビエペットフード「島素材」

宿の経営だけでなく、島全体の観光ということを考えるようになったのは、一つに「渡海屋」の設立の影響があったということです。

デザイナーの谷口さんには、彼が昔勤めていた設計事務所を紹介いただき、「MINAWA」の内装を手伝ってもらっていました。洗面台やキッチンなどの水回り。テラスにデッキを敷く工事もお任せしました。

大島の皆さんの手もお借りしています。「MINAWA」の清掃に関しては「渡海屋」の田中さんを通して島のママさん達を集めてもらいました。小さい赤ちゃんやこどもを引き連れてMINAWAの清掃をしてくれています。細かい指示に対しても対応していただいて本当に力強いです。

また、「MINAWA」は部屋にキッチンはありますが、料理を出すレストランはありません。そのため、朝食や夕食ではデリバリーで近所の飲食店から食事を取る方法をご案内しているのです。例えば朝食は「むすびカフェ」という近所のカフェにデリバリーをお願いしています。

また、夕飯は「つわせ」さんという民宿をアテンドしてご飯を食べていただくこともあります。MINAWAはスタッフを常駐させるような宿ではないため、そこはどうしても島の皆さんの力が必要になります。これは、ささやかではありますが「島に雇用」が生まれるという副次的な成果にもつながっています。

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「地域の魅力」にサービスを繋ぎ合わせることで「新しい価値」が生みだすことができたと思っています。そのためには、外部者と地域の協力が必要だったのです。

これから必要になる外部の力

「MINAWA」の運営だけならば現状でも充分なのですが、私が目標としている「エリアリノベーション」「地域復興」となると、他にも人材が必要になってきます。それは、さらなる「外部の力」です。

以前「地域循環経済」の話を書いたときにも触れたことですが、大事な「お金」の問題に立ち向かうには「調査」と「分析」も重要な部分です。これは実際、地域住民の中でなんとかできるということではありません。しかし「地域のためにやるべきことは何か?」を考える時、避けては通れないことです。

「調査」して「分析」して「問題点を洗い出す」。ビジネスでは当たり前のことが、地域創生事業ではなぜか抜け落ちてしまい、失敗につながっているケースが多いのです。

大島の場合で言えば、エネルギーコストがとても大きいことが現時点でも明らかです。主要産業である漁業に関して、漁船のガソリン消費は避けて通れません。私の試算ですが、総生産の15%ほどは漁船や車両に使うガソリン代で海外に流出しています。円安が進行した場合、さらにエネルギーコストは上昇します。また、古い家屋が多く、断熱の家も少ない。そのため、質素な暮らしぶりではありながらエネルギーは想像以上に消費されているのです。

このような、地域のかかえるコストが、他にも明確になってくれば「では、そこの部分をどういうふうにリカバーしていったらいいか?」という問題が出せますし、それを解決するための具体的な打ち手を考えることができます。「地域循環経済」について書いたときに紹介した下川町では、最初にしっかりとコスト調査を行なっていたことが印象的です。

「地域復興」について学者が書いた本には「最初はまず調査から」と書いてあるのですが、それが実際に復興に携わる現場の人たちにまで下りてきていません。「調査」の上で「分析」するための知識とノウハウがないのです。そうなれば、そこを担えるのは私たち外部の人間ということになるのです。

コストの調査だけではありません。地域の開発ということを真剣に考えるのであれば、生態系や自然環境の調査も必要になってきます。大島の森や林には全く手が入っておらず、どんな環境になっているのか誰もわからないのです。

例えば、腐葉土の状態。腐葉土がたまりすぎるとそれが海に流れ出て、それが原因で藻が発生したりする原因にもなります。実は「森をどう作るか」ということは「海」とも直結してるのです。近年、漁獲高が減ってきている、という原因の一つに、森の環境も関係しているかもしれません。海流や水質の問題もあるだろうし、今時点では何が原因かちょっとわからないのですが、漁業を営む島だからこそ、専門家による生態や自然の調査も必要なのではないかと考えています。これも、地域住民だけではどうにもならないことの一つです。これからは地域でシンクタンクを雇うことも必要な時代だと言ってもいいでしょう。

市民科学を意識する

私は地域の衰退を防ぐために、「知識」と「刺激」について、外部者の目が必要だと思っています。

前述した「調査」や「分析」は特に「知識」をもたらすという意味で重要です。また、外部の目として「地域住民が気付かない魅力」をちゃんと掘り出していくことも、「知識」の一つです。

地域の価値に気づくこと。それは「地域の誇り」、「シビックプライド」の醸成に繋がります。ただし、地域の意識を醸成させていくためには、外から来た人が上から目線で捲し立てて、上意下達でやるのでは意味がありません。地域と人たちと共に行動していくということが必要なのです。千葉の熊谷市長は次のように言っています。

「古来発展してきた都市の多くは街道沿いで、各地の商人たちが行き交っていた場所です。よそ者の視線が注がれ、よそ者の目で価値が掘り起こされて、磨き上げられてきた歴史があるわけです。だからどんどん外の人に見てもらって『これ、いいじゃないですか』と地元の人たちに言うと『実はこんないわれがあって』とストーリーも掘り起こされていく。気づくことは内部の人には難しく、隠れたストーリーは外部の人だけでは永遠にわかりません。これが地域にとって望ましいコラボレーションなんです。」(「地域再生の失敗学」光文社新書)

つまり、よそ者の目だけではなく、地域住民がもつ知識や伝承、記憶といったものを、うまく組み合わせる必要があるということです。

そのためには、外部者は”地域に「知識」や「感覚」を教える”というスタンスではなく、「気づいてもらう」きっかけを作ることを心がけるべきだと思っています。地域の人が気づいていない、自分たちの土地の魅力に「気づいてもらう」「見つけてもらう」。それに呼応して、地域の人たちは、積極的に「学び」「吸収」していく心構えをすべきです。

日本では、あまり聞かれない言葉なのですが「市民科学」という言葉があります。これは「科学の民主化」という話に繋がります。例えば「新型コロナ」の問題でも「原発事故の放射能」の問題も同じことです。専門家が出てきて専門的な見地を述べる。専門家からすれば「一般人はわからないだろうけど、私たちの言ってることが正しいんだ」と言い、大衆は「よくわからないけど信じる」しかない状況に陥る。これでは、本当の意味での民意は得られません。専門家の意見は大事ですが、そこから学び、理解して前に進んでいく姿勢を保ちましょう、というのが「市民科学」という言葉の意味です。市民一人一人がある程度の科学的な知識を持ち、理解できる感覚があるという事を目指しましょう。その上で考えるということが大事なんだ、ということです。

「市民科学」という考え方は、地域に「外部の目」や「外部からの知識」を取り入れ、それを地域の住民が真摯に向き合い、学んでいくことを考えるときに重要な示唆に思えます。

続きは8日(水)に公開です。


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