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地域はなぜ衰退してしまうのか?2 「外部の目」こそ復活へのヒント

ローカルツーリズム株式会社代表の糀屋総一朗です。前回の記事で、地域の衰退は地元住民の意識によるところもあると書きました。では、具体的に何を変えていけばいいのか。現状で私が考えていることをお話していこうと思います。

前回の記事はこちら

大島の「現在」

MINAWAの運営をしていく上で、現在の大島の状況をリサーチすることになったのですが、そこでも地域の問題に直面することになりました。行政の数字をいろいろ調べていると、実は1人あたり所得は上昇しているのですが、実際に大島の中に入って現地をみているうちに「これ結構やばいな」と感じはじめました。

まず大島の住民の高齢化という部分が目をひきました。2021年9月末時点の65歳以上人口割合は49.2%と大島の人口の約半分が年金生活者です。年金で生活する方々が、大島の課題を洗い出し、適切な対応をとるための前向きなアクションをとるということは常識的には考えにくいでしょう。

大島にはこれまで、うまく経営されていた民宿があるのですが、それも島に活気があった頃の時代につくられた宿で、すごく大きい建物です。ところが、今、この宿を切り盛りしているのは80歳くらいになったおばあちゃん1人だけ。今では広い宿の中を掃除するのも大変です。

若い経営者なら「ああしよう」「こうしよう」という改善策を検討したりもできるのですが、今では「これから、どうやってここを維持させていくか」という、ある種保守的に経営されているように見えます。

高齢化に加えて、地域の問題は産業の部分にもあります。前述のとおり、人口減少にともない、漁業従事者の1人あたり所得は上昇傾向にありますが、平成20年と比べると、直近の漁獲量は半分にまで落ち込んでいます。

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一昨年はイカが全然取れなくて、漁師の方々も違う仕事を副業としてせざるを得ないということもあったと聞いています。おそらく気候変動の問題など、生態系には複雑な要因がもあると思われますが、本当の原因はわからない。ただ、気候がちょっとずつちょっとずつ変わっていったり、住んでる魚が変わっていくというのは確実に生じている現象です。

確かに、この数年の漁獲高は、減少傾向にあるとまではいえず、また宗像市の道の駅など売上が見込める道の駅など販路が充実していることから、一次産業である漁業は現在でも順調といえます。

しかし、漁業がある程度うまくいっているからこそ、ホスピタリティが必要とされる観光業や飲食店の人材が手薄になっているようにも感じられます。将来を見すえたとき、漁業以外の人材への投資をいまのうちにやっておくべきではないでしょうか?

もしも将来、基盤産業である漁業が勢いを無くしていけば、若い労働力の流出はさらに加速度を増すはずです。しかも、高校を卒業してからの教育環境がない、新しいことが生まれにくい風土、という現在の状況では、若者たちは島でなく、職業選択肢の多い都市圏に働きに出て行きます。

そして、外で仕事を得た彼らが職業選択肢の狭い島に戻ることはありません。そうなれば、私が「素晴らしい!こんな場所は日本中のどこにもない」と感激し、「ここに宿を作れば1泊10万円でもお客は来る」と確信した大島の魅力を支える地元の人たちがいなくなり産業が痩せ細り、大島がどんどん衰退していってしまう将来がやってくるかもしれないのです。

私は島のことを知るにつれ、「島の魅力をもっと多くの人に伝えたい」という思いと同時に「この島を何とか変えなければ」と思うようになったのです。

地元での対応は?

役所は、もちろん定住人口を増やしたいと考えています。それで移住者を増やそうという方向性を検討しています。移住者の定住は、あくまで理想的な結果ですが、そのためにはまだまだいろいろなものが足りていないし、そのためには時間もそれなりにかかる。今でも多少の移住者はいるのですが、数から言えば焼け石に水的な人数です。

なぜ人が来ないか?それは「今、地域に魅力があるか?」ということに突き当たります。観光客であれば、「自然がある」「遊べるレジャー環境がある」「歴史的な建物がある」という魅力で呼び込むことができるかもしれませんが、移住者を増やそうとなると、それだけでは無理なのです。

「住人の仕事があるか?」「何か文化的なものがあるか?」「子供を育てやすい教育環境があるか?」……など、さまざまな要素が揃わなければ、移住しようという人は増えません。それは、風越学園という特徴的な教育思想をもった教育機関のある軽井沢周辺への移住者の流入数などをみても分かります。私も子どもがいますので、移住先を決めるときに教育環境はまっさきに検討する要素となると思います。

地域の考え方として「まず人口を増やそう」というのはもう無理ゲーだと考えた方がよいでしょう。人口が増える想定で戦略をとると打ち手を間違える可能性が高いです。

可能性の大きな産業は「観光」

そういう環境の中で、日本全国どの地域においてもエリアリノベーションを効率よく成し遂げるためには、「観光」にフォーカスを当てることが大事なポイントになります。何より、多くの産業に比較して市場規模は大きく、「観光」の市場規模は28兆円と巨大であり、今でこそコロナ禍で旅行客は減っていますが、旅行を楽しむ人は潜在的に全国にたくさんいます。対象とするお客さんが他の産業に比べて多いから、可能性が高いわけです。印象的な絶景のビューポイントがあって、設備を整えれば泊まりに来てくれる。宿泊業免許を取るのも容易ということも含め、宿泊施設というのは新規事業としても優秀です。

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しかも、それらが複合的に「地域」の魅力と繋がりやすいというところもいい。宿泊してもらって、地域で過ごして貰えば派生的なお金も落ちます。大島でいえば、釣り堀に落ちるお金だとか、レストランで何か食べるお金だとか、レンタルサイクルのお金だとか。

とりあえず、地域に足を運んでもらうためのフックになるのが宿泊施設であり、観光です。人間を出入りさせるという意味では、名産品を一つ作るよりも直接的です。都会から人を呼び込める宿泊施設というのは、観光という大きなジャンルの中で比較してもかなり重要な「売り」になるのです。

さらに、不動産価値を考えてみてください。大島の物件は、普通に住居として貸したら月1万円とか2万円とか、そういうレベルのものです。その地域の住人に合わせて家賃を設定しなくてはいけないため、そういう家賃になるのは当然です。

でも、それを宿に転換するだけで月1万円が、たとえば一泊1万円に変わります。宿泊施設にするというのはそういうことです。地域の不動産を活用するときに、高い単価を取れるというのは宿泊施設ぐらいではないかと思います。もちろん、ただ単価だけ上げるというわけではありません。そこに質の高いサービスを入れることで単価を上げる。そのサービスをするのが地元住民であれば、それは地域の収入にもなります。だから、どんなサービスがその宿にあっているのか?地域の魅力に気付けて、どういうものを作れるか?というところが肝心です。

「うちは観光地になんてならないよ」と考える地域の方もいらっしゃると思うんですが、私はどんな地域でも観光という産業の可能性はありえると考えています。もし見つからないとしたら、それは自分の住む地域を見る目が麻痺してしまっている。自分の住む地域の魅力に気づけていないということです。

日本のさまざまな地域に宿泊施設を展開している「星野リゾート」のある施設では「苔にフォーカスした宿泊プラン」があるそうです。苔なんて地元の人でも気づかないような植物ですが、たまたま星野リゾートの中に苔博士のような詳しいスタッフがいたことから生まれた宿泊プランらしいです。

苔を観察するツアーなんて、地域の人には思いつかないアイディアですが、実際、訪れる観光客にはとても反響があるそうです。普通に考えたら苔で人が集まるとは想像できませんが、隠れたマーケットはあるものです。地域の魅力というのはおもいがけないところにあるかもしれません。

地域の魅力をみつけることが地域住民には困難なことだからこそ、外からの目線、地域の魅力を見つけ、評価できる外部の存在が必要だと思うのです。

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