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地域はなぜ衰退してしまうのか?3 新しい価値を生み出す方法

ローカルツーリズム株式会社代表の糀屋総一朗です。地域の衰退は地元住民の意識によるところも大きい、そして外部の目を適切に取り入れることで魅力を掘り起こしていくことが重要、と書いてきました。それでは、さらにその土地の「価値」を上げていくにはどうしたらいいでしょうか。

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「サービス」に取り組む意識を持つこと

大島には旅館や民宿があり、釣り人や観光客を受け入れてはいるのです。そこで外部者である私が、まして自分自身ができているかと問われたら、自信をもって受け答えできるか怪しい部分もあるので憚られるのですが、「観光客にどのようなサービスを提供すれば良いか、島の人たちの考えに希薄な点があるのでは?」と思うことがいままでに幾度かありました。

それは、交通機関の不便さや、飲食店の食事の質、サービスの料金設定など多岐にわたります。その原因はどこにあるのでしょうか?私は島の歴史にあると考えています。

大島は一次産業として漁業が基盤産業としてしっかりしているため、魚を獲って売れば十分な生活ができます。「道の駅」に魚を売ればお金が入ってくる。これまではそれ以上のマーケットを開拓しようと考えなくてもなんとかなっていたのです。漁業に従事する人たちには漁師としてのプライドもありますし、「面倒くさいことせんでいい」みたいな意識もどこかにあったのだと思います。

しかし、それが、新しいマーケットに挑戦するというモチベーションが生まれてこなかった原因となっている可能性もあります。また漁師さん以外は、ほぼ65歳以上の年金生活者ということもあって、サービスの競争が生まれなかったという側面もあるでしょう。

ある意味「平和な島の風土」とも言える環境ですが、それは反面、たとえば飲食店であれば「よりお客さんに美味しいものを」と切磋琢磨していくモチベーションが育ちにくくなっている可能性もあります。

「サービス」を考えるというのは「観光」を盛り立てていく上でとても重要なことです。

大島の魚は食材としては一流です。とはいえ、魚を使った「料理」ということになれば「新鮮だから」というだけでは勝負できません。物流の発展により地場で食べる魚が一番うまいという保証はなくなっていますし、魚の味は調理法にも左右されます。料理の世界の話で言えば、鯛などの白身の魚だと、熟成させた方がアミノ酸が蓄積して美味しくなるということだってあります。料理もできない自分がいうのはとても恥ずかしいのですが、料理法、調理法で味はいくらでも変わるのは皆さん納得してくださるでしょう。

さらに付け加えれば、その料理をどんな器に、どんな風に盛り付けて提供するか?どんなシチュエーションで食べてもらうのか?なども飲食にまつわるサービスのポイントになるでしょう。良い素材を、どう調理してお客様に提供するか、というところまでが、商売としての「料理人の腕」ではないでしょうか。大島では、生産者としては及第点以上のものを出荷しているのに関わらず、その活用法に関してあまり進んでないところがあるように思うのです。

一級品の素材の価値をさらに上げるには?

例えば、本土のフェリー乗り場の近くに一軒のフランス料理店があります。そのレストランが、なぜこの場所で開業しているか?それは「このあたりの食材が良いから」なのです。このエリアで獲れる魚介類は、それほどに価値のあるものなのです。

フェリー乗り場から車で10分ほどの場所には私のお気に入りのイタリア料理店「アプテカフレーゴ」がありますが、そのシェフもこの地を気にいって理想の野菜をつくるために移住してきました。また用いている魚も本土側のレストランと言っても、当然、大島と一緒です。それなのに、とても料理が洗練されている。

外から移り住んできた人は、都市生活者の食通をもてなし、評価され、相応の収入を得ています。世界に通用するレベルの料理を出すシェフが移り住んで来るほどの食材。それを大島の人たちは意識することもなく、提供し続けているのです。

本土の人たち、都会の人たちに「この店があるから大島に行きたい」と思わせる飲食店は、大島には少ないと思います。私は、ミシュランで星を取ることが必須だとはもちろん思っていませんが、そういう水準のお店がひとつでもあれば、人の流れはまちがいなく変わるはずです。

さらに、それによって島の人たちが想定以上の評価もされていくと思います。もちろん、サービスに見合った高い料金設定で、これまで以上の収入を見込むこともできます。地域の人たちは、もっと真剣に「サービス」というものに取り組む必要があると思います。

都市部の価値と地域の値段

MINAWAを運営していて難しいのは食事の値段です。MINAWAでは独自で食事をサービスすることができません。基本的には、宿泊客が自分でデリバリーをとるか、地元のお店まで出かけて食べるかという選択になります。夕飯については、地元のおすすめの飲食店などをアテンドすることがあるのですが、地元の飲食店はとても安い値段で料理を提供しています。クエなどの地元で獲れる高級魚が、都会では考えられないレベルの安価だったりする。

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私が東京の知人などを連れてよくいくお店があるのですが、味も最高で、もっと高くしたらいいのに! といつも思います。この島ならではのおもてなし精神も「島の魅力」として捉えることはできるのですが、私は長い目で見て、決して良いことだとは思っていません。それは、価値の安売りは島のためにならないと考えているからです。むしろ、値段を上げてもお客が納得できるようなサービスをプラスすることが、これからの地域経済には必要だと思います。

これは、「MINAWA」のスタッフの方々のお給料に関しても悩んでいるところです。従業員として清掃を担当してくれてるのは地元のママさんグループです。赤ちゃんを背負いながら清掃してくれたりしています。この方々の給料は、正直、地元の相場からいったら高い。

私の目標としては、地域にお金を循環させたいので、皆さんの給与は高くしたいのですが、高くすると、地元の求人の価格で格差が起きてしまう。他の求人が困ってしまうわけです。

ここに関しては今でも良かったのか悪かったのか、私の中でもまだ判断がついていません。私は「島のため」と思ってしていますが、実は短期的に見た場合に、どうなんだろう? と。もしかしたら、今私が何を考えているか? ということがきちんとと島の人に伝わってくれれば解決できるかもしれないとは思っています。「なるほど、こういう理由で高くなってるんだ」と。時間との勝負になるのかもしれませんが、理解してもらうよう努力していこうと考えているところです。

こういった、価値に見合った値段設定や指摘は、私が外部の人間だからできるということです。島のロケーションや、食材に対して高い価値を実感している。だからこそ、価値に見合った「高い見積もり」が出せるんです。

実際、地元の人は、サービスやモノに適正な価格付けができていないように見えます。きっと「こんなもんだろう」という諦めがあるのではないでしょうか?

地元の人たちにとっては「小さな価値」でも、外部からやってきた私には「素晴らしい価値」に思える。それが、現在の「MINAWA」の利益の源泉にもなっています。確実に言えることは、そこを「地域の中」にいる人たちが気付けなかったということです。

価値を上げるためには外部の目を

地域住民の方々は「便利になれば人が来る」と思っているところがあります。もちろん、都市化していけば自分たちも便利な生活ができる。それは当然な考え方です。例えばドバイでホテルを砂漠に作ろうとした時には、まずその土地ごと都会に変えてしまいます。便利な環境にホテルを作ることが、観光客の満足度を上げると考えているからです。そのため、ドバイの街はショッピングモールだらけになっていますし、同じような地域復興を目指す日本の地方ではアーケードの商店街が賑わうことを目指していたりもします。

ただ、私の考え方はまるで違います。賑やかなアーケードを作ろうと開発を進めれば、「地域」としての「質感」「らしさ」を失ってしまうからです。「近所にコンビニが欲しいな」と思っている地域の方々は多いと思いますが、この感覚の根は深いです。コンビニがあるだけで、その町は、日本中どこにでもある「普通の街」の景観になってしまいます。地域としての価値を生み出そうとする時、その面ではデメリットになると考えなければなりません。また、コンビニの多くは東京に本社をおく商社が大株主です。コンビニで消費したお金は地域に循環せず、東京の商社をはじめとした株主の懐に流出します。目先の利便性に流されず、「島にコンビニがあっていいのか?」ということから真剣に考えなければなりません。

地域が生き残っていくためには、その地域住民の生活を支えるインフラが必要ですし、そのためには経済的に豊かになる必要も出てきます。私はもともと事業家でもあるし投資家でもあるため、そういう目線で現在の大島を捉えています。新鮮な海の幸に恵まれ、自然の景観も素晴らしい。こんなに魅力溢れる島なのに、なんでこんなもったいないことになってしまっているのだろう? と。

そんなことを考えているうちに「この現状を何とかしてみたい」という気持ちが強くなってきました。今や「これは外部の人間である自分がやるべきだ」という義務感で動いていると言ってもいいくらいです。

この気持ちを島のためにできないかと考え始めて2年。これまで東京で事業をしていましたが、今は軸足を移し、1年のうち3分の2を福岡で暮らし、大島に通うようになりました。そのくらい必死で取り組んでいます。

次回は、問題を解決する具体的な方法として私が取り組んでいる「地方循環経済」についてまとめて行こうと考えています。 


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