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「地域循環経済」の必要性3 地域だけでお金がまわるファンドをつくりたい

ローカルツーリズム株式会社代表の糀屋総一朗です。「地域循環経済」の必要性にあたって、まずお金に正面から向き合うこと、そしてお金の流れを調査することが重要と書いてきました。

前回の記事はこちら

エリアリノベーションをファンド化する

『漏れバケツ』を防ぎ、地域からの無駄な支出を減らし、外からの外貨を稼ぐ。その構造を作り上げた上で、私が実現したいと試行錯誤しながら辿り着いたのが『地域循環経済』の仕組みです。その具体策として、私が「MINAWA」をきっかけに進めようとしているのが「エリアリノベーションのファンド化」です。

この「MINAWA」の事業を、将来的に「地域資本の入ったファンド」として保有していこうというものです。今「MINAWA」が稼ぎ出した利益の一定部分は私個人の収益になるのですが、それをファンドを持った複数で分配するわけです。株式会社の配当金が株主に還元されるのと同じ構造です。

以前、地域の人たちの当事者意識の薄さ、諦めの心境などについて書きましたが、大島の人たちも、まだ「自分のお金を出す」という意識には至っていません。ただ、ファンドの一部として少額のリスクであれば、可能になるのではないかと思います。

地域外にある資本も活用すると言う部分では、前述した大手不動産の地域開発と似ているところもありますが、一番大きな違いは儲けの一部を「地域に再投資」する、ということです。私の推進する「エリアリノベーションファンド」の仕組みは以下の通りです。

・島の内外問わず、参加したい人たちで資金を分担する
・利益の中からまず運営にかかった最低限の費用を差し引く
・そのほかの利益は、再び「エリアリノベーションファンド」に再投資
 これによって、ファンドで行える事業の規模が大きくなる

投資して得たお金を、ちゃんと「同じ地域に再投資をする」と約束されたファンド。それが、私が勧めている「エリアリノベーションファンド」です。このファンドをきっかけに、地域の中で新たなビジネスが生まれ、外貨を稼いでさらに地域への投資額が増える。これが「地域循環経済」の一つの形です。もちろん、観光業ですからファンド以外の部分でも波及効果が期待できますし、地域復興のきっかけとしても意味があると考えています。

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こういう話をすると、まるで私がリスクを負うだけで、慈善事業でやっているかのように思われることもあるし、何か裏があるんじゃないか?と勘繰る人もいます。でも、私も投資している以上、利益の中から20%程度を仕事の報酬としていただきます。そうでなければ持続性がなくなってしまいます。奉仕の精神だけではできませんし、私欲だけでも難しい。リターンが出なかったら私自身もタダ働きになる、というリスクはありますが、それは「仕事」をする上では何をやるにしても同じことなのです。どうせリスクを負うのならば、「地域のため」にもなった方がいい、という、それだけの話です。

リスクを取らねば大きなリターンを得られない

できることなら、来年2022年ぐらいには「MINAWA」を島の中に作るファンド会社に売却したいと考えています。最終的な理想はファンドを全部島の人が持ってくれること。これは私個人が手を引きたいとか、逃げ腰になっているという意味ではありません。地域復興に関しては、いつまでも個人規模でやっていてはダメだという気持ちが大きいからです。

今のままでは、地域の人たちが「自分たちでリスクを取って何かやる」という発想ができなくなっていきます。前回、大手資本の商業施設が入り込むことで「雇用が生まれてるからいいだろう」という発想に陥ってしまう地域の感覚があると書きました。「雇用がありがたい」というのはのは一時的なもの。一番大きい収益というのは「投資に対するリターン」だからです。

つまり、労働による所得だけではなく、資本所得も得られるようにしなければ本当の復興はありません。島内の1人あたりの資本ストック量を上昇させることで1人あたりの所得をあげていこうというわけです。稼ぎの源泉は、地域の資源なのですから、事業ごと地域の人たちが保有して、地域にお金を流す。それが筋だと思っているからこそ、地域の人たちにもリスクを取る決断をしてほしいと思うのです。

ただ、そのためには「ファンド」を押し付ける形になってはいけません。売却する時点で「ちゃんとしたもの」を渡さなければ、誰もファンドに参加してくれないでしょう。「きちんと利益が上がる」「黒字経営の宿泊施設」でなくては、誰も投資はしてくれないでしょう。「ファンド買ってみたけど全然ダメだね」と、なったらまずいのです。売却するまでに、順調に黒字が出て、島の中にお金が回って、というビジネスモデルを完成させなくてはならない。それが、今の私の使命だと思っています。

現状で言えば、想定していたよりだいぶ収益が出ています。数字で言えば「MINAWA」の売上で、地域の所得が1%上がっているのです。1%というと小さい数字に思えるかもしれませんが、0と1では全く違います。これは、島の収益が新たに生まれたという大きなことなのです。単純にいえば、このモデルを10個に増やせば10%になるということです。現時点での「MINAWA」の実績は、私の「自信」となって、次のビジネスの発想へとつながっているのです。

ただこの先、「MINAWA」のファンドを売却したからと言って、本当の意味で「島の中での経済の循環」になるとは思っていません。それはあくまでも私が発案して「譲った」ものにすぎないのです。そこはゴールではありません。地域の人たちが自分たちで稼ぐ「モデル」を保有しただけなんです。ただ「自分たちの住んでいる地域」にあった「今まで自分たち見えなかった価値」が、ちゃんとお金を生み出すんだということを知る。現実にお金が自分たちに入ってきて「こういうことがあり得るんだ」ということを実感する。自分たちで「MINAWA」を持ち、触って、やっとそれがどういうことかわかる。ゴールではありませんが、この感覚を理解するための重要なステップではあるということです。

「MINAWA」は一つの実験とも言えます。その実践を見て、自分たちのものにしてほしい。実際、突破口は見えてきています。きちんと収益を上げることで、島の人たちが「儲かるなら自分たちもやらなきゃ」と思ってもらえたら、このステップには価値があるわけです。

地域発の地域再生を目指す

地域の中をお金が循環する仕組みさえできれば、あとはゴールとなる次のステップへと進むだけです。それは地域の人たちが「自分たちでお金を出すからこういう事業をやろうよ」という行動を起こしてくれること。それが一番なのです。そうすれば、私に回る20%すら要らなくなります。ファンドに投資した人も儲かるし、残りは地域の再投資に使われる。全部地域の人たちのものになります。

もちろん失敗することもあるかもしれませんが、その失敗の経験も大事なわけです。「これをやったら駄目なんだ」ということも地域で痛みを分ける。それが本来の地域のあり方だと思います。今は私がリスクを担っているように、地域もある程度のリスクを覚悟して望まなくてはならないということでもあります。

地域が駄目になっていくのは地域住民のせいでもある、と言い続けているのは、なぜかその道を取らないからです。そこは、地域の人たちが、「自分たちの街の魅力を信じられない」からなんです。だからこそ、最初は視点だけでも外部の力を借りてでも、やってみる。さらに、自分たちでもリスクを負って試みる。

「MINAWA」を体験した島の人たちが、自分たち自身で「新しい魅力を掘り出し」、その「売り方を考え」て、「実践する」。それが「宿」なのか、別のサービスなのか、今、私にはわかりません。

ただ、これができなければ島内の一人たりの所得は減少し、地域インフラを維持できなくなり、地域が衰退していくという事態に何の手も打てません。

「地域循環経済」を実現させ、将来的には地域にいる次の世代の人たちがそれを引き継ぐ。それが私の考えるゴールです。そうならないと、諸々の地域の問題は解決には至りません。そのベースに、地域住民の当事者意識は絶対に必要だと思います。

最終的には、私が島から消えること。それが一番いい形の、この仕事のゴールだと考えています。

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